王のみる夢
「それでね!私、チェスでその人に勝ったの!」
「……それは、すごいね」
「……でもちょっと不満。あれは絶対に手を抜いてた!指している時に「あっこれ誘導されてるな」って丸わかりだったんだもん……って聞いてる?」
「……ああ、聞いてるよ」
二人の男女がテーブルをはさんで談話をしている。
二人はどちらも同じ金色の髪をして、顔立ちもよく似ている。だがその表情は対照的で、少女は暖かな太陽を思わせる明るい笑みを浮かべているのに対し、青年はどこかくたびれた様子だ。やつれているようにも見える。
「そういえばそっちはどうなの?何か面白いことはない?」
「・・いや、特にはない」
「むぅ、毎回私しか話してないじゃない。たまには兄さんの話が聞きたいわ」
兄さんと呼ばれた少年は黙り込んでしまう。
その様子を見た少女は小さくため息をついた。
(……兄さんはいつもこうだ)
青年はいつも聞き手に回るばかりでこちらに話をしてくれない。せっかくの兄妹水いらずなのだ、一方通行ではもの足りない。そう考えていると、突然周囲が真っ白に染まった。座っていたイスやテーブルはその白に飲まれ、体が不思議な浮遊感に包まれる。
「ありゃ、もう時間なのね」
「・・そうだな」
そう話している間にも二人の体は白い光に包まれていく。
「じゃあね、兄さん」
やがて意識まで白に染まり、そして……
「……す様……ルディウス様」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
真っ白だった意識はだんだんと色を取り戻し、霧のかかった意識が徐々に晴れていく。
「ん……む……?」
「お目覚めになりましたか?」
開けた視界に心配そうな様子の使用人が写り込んだ。
座ったまま寝ていたせいで首と腰がやけに痛む。
「……またあの夢ですか?」
「……ああ」
妹を名乗る自分とよく似た少女を会話する夢。
それが何日も続いているのだ。
「なあ……」
「…………はい」
そして、何日も同じ問いを繰り返している。
「本当に俺に妹はいないのか?」
すると、使用人は決まって表情をゆがめ、
「……存じておりません」
「……そうか」
最初に聞いた次の日からずっとこうなのだ。
なにかあるのだろうが、それを問いつめる気にはならなかった。
「まあいい、今日の予定は?」
「はい、今日は……」
使用人が洗練された所作でスラスラと予定を読み上げる。
それはあまりに綿密で、おそらくその予定を紙に書けばそれなりに読みごたえのある小説程度にはなるだろう。
しかもこの量はなにも今日に限った話ではない。
ほぼほぼ毎日なのだ。
「はあ……」
まだ成人したばかりだというのにすっかり重くなった肩をさすり、ペンをとる。
ふと夢の中の「妹」の姿が目に浮かんだ。
彼女の明るく楽しそうな表情を思いだし、彼は大きくため息をついた。