冒頭
犯罪者は刑務所に収監され、
刑期を満了することで贖罪が成される。人間の世界では、ごく一般的な社会構造だ。
僕たちは、この社会理念に足を向けて寝ることはできない。
裕福で平和なこの国では、善人であり続けることで安全な住居と食物を享受できるのだ。
もし、今のこの国が理念を捨てる事があれば、僕たちはしっかりと見極めるべきだ。
逸脱から抗わなければ、僕たちの未来は脆くも崩れ去るのだから――。
「――――ノ償却完了――――ヲ開始――――」
「――――開始マデ一分前。ステータス、オールグリーン――――」
・・・・・・・・。
無機質、それでいて人の声のような声色を持った機械音の羅列が脳内に響き渡る。
「・・・・。」
「・・・・・・・・。んん・・・・。」
(くそっ、眩しくてこれじゃ何も見えない・・・・。)
「・・・・・・・・。」
首を精一杯振ってみるが、どうにもうまく動かない。
身体はぐったりと横たわり、目だけをグリグリと動かして辺りを見渡す。
バチッ、バチバチッ
機械音はよりいっそう増して、周囲の明りが点滅を始めた。光が点滅を始めて、ようやく周囲の景色がうっすらと視認できるようになった。
周囲に人影が見えないが、何やら大きい機械音が唸りを上げている。
果たして俺は透明なカプセルに入れられて横たわっていた。部屋の外からこちらを眺める大人が見える。視線が痛いくらいにこちらに向けられている。
だめだ、意識が朦朧とする。このあまりに現実離れした状況に、目の前の景色を現実と捉えるのを脳が放棄する。
横には何があるのだろうか・・・・。眼球を必死に横に向ける。すると、一台のカプセルが見えた。
カプセルの中には青白い肌の女性が横たわる。内側は液体で満たされているようだ。
人間は呼吸によって酸素を体内の60兆個の細胞に送り届ける。血流を通じて酸素と栄養が送り届けられなければ、その人間の細胞は活動を許されない。
なのにあの女性は見たところ呼吸をしていないようだ。いったいどういう事だ・・・・?
突然、耳に違和感を感じた。コポコポと音が聞こえ、次第に籠もった音になる。
液体が流れてきた!体の神経は機能しておらず、もはや触れた液体を肌で感じることもできないようだ。
先ほどまで聞こえていた機械音も何もかも、鈍い音になって耳に届く。
次第に液体が口や目を覆い、流れ込んできた液体は気管を流れ込む。次第に意識が遠のき、現実が消えていく・・・・。