上官殿とカラス
上官殿はいつも脈絡なく話をふってくる。
「俺の髪をお前はどう思う?」
私は切りかけのポークソテーから目を離して上官殿を見た。
「…ご心配せずともふさふさだと思いますよ…。」
「いや、違う。俺の聞き方が悪かったな。色の話だ…断じて毛量の相談じゃない。」
無愛想なりにいらぬ気を遣ってしまった。
改めて私は上官殿の髪色を見た。
銀と言うべきか、グレーと言うべきか。
空の下ではキラキラと輝いていて素敵だし、雨の日には霞んでアンニュイさが増す姿も素敵だ。
でもここで素直に“いつも素敵です”なんて口が裂けても言えない。
「見つけやすくて助かります。」
私は敢えて素敵です路線から離れることにした。
「それだけか…?」
他はなんて聞かれても後に残っているのは彼を賞賛する言葉しかない。
整った容姿に逞しい身体、珍しい銀の髪でこの人は一体何が不満なんだろうか。
そうだ皮肉だ。
皮肉なら言える。
「…嫌味ですか?」
このジャブは効いたらしい。
彼は目を丸めて驚いていた。
「真っ黒な庶民代表の私には上官殿の髪は眩いばかりですよ。羨ましい限りです。」
そう、この国では庶民のほとんどは黒髪だ。
たまに赤髪や青髪もいる。けれどほとんどは黒髪。
そして貴族は金髪だ。
彼らは血が薄まるのを嫌う。
だから金髪は金髪同士で結婚する。つまりは貴族同士の結婚ということだ。
騎士隊もほとんどは、金髪だし、ごくごく稀に私のような庶民出身の者がいるけれどそれは当然の如く黒髪である。
だから私は最初に言ったのだ。
“見つけやすくて助かります”と。
私は上官殿以外で銀髪を見たことがなかった。
街中でなら人生で数回見かけたことがあったかもしれないがそれも定かではないほど珍しい。
貴族には金髪、とはいえ騎士隊以外の貴族社会も仕事以外で知ることはないので貴族方面で実際のところ銀髪が多いかも私には定かではないし今のところ上官殿のような銀髪がいるだなんて話は聞いたことはない。
「陽にあたれば輝いて、どこにいたってすぐに上官殿だとわかります。」
「それは新しい意見だな。」
気がつくと上官殿は笑っていた。
微笑んでいると言った方が良いかもしれない。
「俺はお前の黒髪が羨ましいよ。」
「馬鹿なこと言わないでください。どうせ私はカラスちゃんですから。」
私はあからさまに嫌そうな顔で答えた。
三番隊での私のあだ名は三番隊隊長殿のせいですっかりカラスちゃんとなっている。
三番隊隊長殿と友人の上官殿だってそのことはもちろん知っているはずだ。
上官殿は声を上げて笑った。
「そんなことない。“見つけやすくて助かってる”」
「私のセリフ使わないでください。」
今日の上官殿は変だ。
私の返答にたいへんご機嫌そうな上官殿が食事に専念しだしたのを見て私もまたポークソテーに視線を戻した。