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雑記帳  作者: 風花ふゆ
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屋上への扉

 学校の屋上は、基本的には入れない場所だった。小学校も、中学校も、高校も。そして大学も。いつでも立ち入り禁止の場所で、その扉にはいつもカギがかかっていた。

 小学生だったころ。たまに、写真撮影とか授業の特別な何かでその扉が開かれた。サビの入った重い扉が開かれて、薄暗い階段廊下にさあっと白い光が広がる。どことなく湿ってよどんだ空気に、新しい風が滑り込む。あの瞬間が好きだった。

 もちろん、屋上からの景色もよかった。当時、こんな田舎町には、学校より高い建物なんてなかったのだ。見上げる空には、邪魔なものは一つもなくて。だだっ広いところはたくさんあったけれど、屋上から見る空は、また違ったものだった。


 あの空は、もう見られない。

 私が卒業した直後、学校の改築工事が行われた。当時の大人たちが何を考えてそうしたかは知らないが、学校の屋上に、屋根がつけられた。四角い校舎の上に、三角の屋根をかぶせた感じ。スイス風だかなんだかのデザインだと言っていた。隣の小学校は、和風だとか言って瓦のようなデザインの屋根が、やはり屋上の上にかぶせられるように作られた。

 別に、屋上は普段から入れる場所ではなかったし、大人になった今は当然出入りする場所でもないのだけれど。屋根がつけられてしまったとき、何だか妙に悲しかったのを覚えている。自分の知っている学校じゃないと思った。ただ屋根がついただけで、中身は全然変わっていないのにもかかわらず。


 小学生だった当時、言葉で表現する術を私は知らなかったけれど、今ならわかる。あの扉の開かれる瞬間。見てはいけない異世界へ足を踏み入れてしまったような、怖いような、わくわくするあの感じ。それが好きだったのだ。

 そして、もう二度と、私も、他の誰もがあの不思議な世界に入れなくなってしまった。いや、その世界そのものが無くなってしまった。あの空も、もう決して広がることはない。


 どんなに高いビルの展望台に行っても、どんなに素晴らしい景色のところに行っても、あの感覚にはもう二度と出会えないだろう。

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