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雑記帳  作者: 風花ふゆ
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捨て犬

 今の時代、見かけなくなったけれど、昔は学校に捨て犬が迷い込んでくることがあった。子犬だったり、成犬だったりいろいろだったけれど、そんな犬が来たら、一時学校ではフィーバーが起こる。みんなが撫でまわし、ちやほやしていく。今だったら、「病気持ってるかもしれないから」とかで大人たちが即注意に入り、そのまま保健所に電話されてしまうのだろうけど、当時はそういった注意を受けることはなかった。

 小学校四年か五年生の時くらいだったか、一匹の子犬が学校に迷い込んでいた。捨てられていたのかもしれない。とにかく、私と数人の友達が見つけた。そして例にもれず、ひとしきりかわいがった。そしてどういうわけか、次の日の朝早く来て、えさを持ってきてやろうという話になった。うちは犬を飼っていたから犬用のえさがあったので、それを持っていった。

 学校の先生は知っていたのか知らなかったのか、何も言わなかった。私たちはしばらく、朝早く来て、えさを上げて、放課後犬とたわむれて帰った。そんな日が数日続いたのだけれど。

 ある日、友達の一人が言った。

「駅のほうに捨ててきた」

 うちの学校の近くに、ひなびた田舎の駅がある。そこのほうに置いてきたというのだ。

 なんでそんなことした? と憤る反面、そろそろ早朝のえさやりに疲れてきていたのもあって、「そっか」とそれ以上何も言わなかった。

 友だちが、なんでそんなに急に「捨ててきた」なんて言ったのかわからない。友達も疲れていたのかもしれない、親に何か言われたのかもしれない。でも、子どもは子どもの残酷さがあって、不意にバッサリと切り捨てることができてしまうもので、それは私も例外なく持っていた。

 でも、心のどこかにあの子犬のことがあったのだろう。授業中、なんとなく校庭のほうに目をやって、あの子犬がまた戻ってこないかなんて思ったりしていた。

 一度だけ、戻ってきたのを見た。子犬は、はしゃぎながら駆け寄ってきた。足元でじゃれついて、遊んでほしそうに尻尾を振っていた。

 私は、なでたい衝動をぐっとこらえて、振り切るように背を向けて走った。子犬は追ってこなかったと思うけれど、振り返らなかった。

 かわいがるだけかわいがって、ある時パッと裏切る。だったら最初から可愛がらなければいいじゃないかと思った。ある意味、これは最初から無視するよりひどいことなんじゃないかと、子どもながらに罪悪感にさいなまれた。

 中途半端に優しくするもんじゃない。そのときは、こんな言葉で思っていたわけじゃないけれど、今ならわかる。私はこのとき、責任の持てない情けをかけるべきじゃないのだと学んでしまった。どうしようもないときは、見て見ぬふりをすることもまた、仕方のないことだと。


 でも、今は少し違うかもしれない。

 確かに、無責任に情をかけるべきではないけれど、今は「じゃあ、どうすればいい?」と対策を講じることができる。それだけ、大人になった、ということなのかもしれない。

 見て見ぬふりをしそうなとき、私の中の子犬が鳴く。本当にそれでいい? と。

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