プロローグ
「魔王!今日こそ貴様を打ち取ってみせる!!」
そう叫ぶのは神の子であり、人類最強の切り札――勇者ルーベルだ。
手には世界最高の鍛治師たちが2年もの歳月をかけ作り上げた最強の聖剣、エクスカリバーが握られており、ただ構えているだけだというのに周囲の者を一切合切浄化させてしまいそうなほどの聖気を放っている。
実際にここまで来る途中にいた魔物は近づけばその聖気に体を包み込まれ、一瞬で体を煙へと変えた。
それほどまでの聖気を目の前にしているというのに、ルーベルの目に映っている『死』そのものの様な存在は不敵に笑うだけだあった。
「ほう、貴様一人でか?」
そう言ったのはこの世界の全ての魔の王にして死そのもの、魔王フレディウスであった。
その姿は常人ならば視界に入れただけで発狂し、その恐怖から逃げようと死を選択するであろう。
それほどまでの圧倒的死のオーラを纏うフレディウスは豪華な玉座に座っており、まるでかかって来れるなら来てみろとでもいうような余裕な態度であった。
「なにをい――っ!?」
フレディウスの言葉を聞いたルーベルは不思議に思い、一瞬振り返った。
何故ならフレディウスを倒しに来たのは自分一人ではなく、これまで幾多の危機を共に乗り越えた仲間たちが居たからだ。
だが、振り返り目に映ったのは地面に倒れ伏せその身をバラバラに切り裂かれ、はらわたや脳髄をそこらじゅうにまき散らしている仲間の姿だった。
「き、貴様ぁぁぁぁ!!」
その仲間たちの無残な姿を見たルーベルは、視線だけでそこらの魔物は消し飛ぶのではないかと言うほどの殺意の眼でフレディウスを睨んだ。
これがただ死んでいるだけならここまでルーベルは憤怒しなかっただろう。
何故なら勇者とその仲間は神の祝福、いや、加護と言うべき力によって体の原型が残ってさえいれば何度でも蘇る事が出来るのだ。
だが、仲間たちは体をバラバラにされ、頭部にいたってはまるで上から押しつぶされたように弾け飛んでいた。
これでは蘇生は到底不可能だった。
「おお、怖いな。勇者がしていい顔じゃないぞ」
ルーベルが視認できない速度で風魔法と重力魔法を放って、ルーベルの仲間を惨殺したフレディウスはケラケラと笑いながらルーベルに言う。
ルーベルも自分がどんな顔をしているのか気付いたのだろう。
必死に自分の精神を落ち着かせようと深呼吸をする。
だが、それで仲間を殺された怒りは収まるはずもなく、構えていた聖剣を力の限り握りしめフレディウスへと斬りかかるという行動に出た。
「お前だけは、お前だけは許さない!!秘義【昇天退魔斬】」
怒り狂って居ても流石は神の子にして人類の切り札とも言われる勇者と言うべきか、その達筋は全くぶれておらず、逆にその鋭さはこれまでで最高ともいえる程になっていた。
「ふん、甘いな」
だが、そんなもの意味も持たぬと言うようにしてフレディウスは素手でその刃をわし掴みにした。
ジュウと音を立てフレディウスの手から煙が上がる。
最強の魔王と言えどやはり聖気には弱い。
ルーベルの剣技を軽く止める力はあるが、聖気そのものを止める事は出来ず少しづつではあるがダメージを負っていた。
これがただの魔物であれば抵抗する暇もなく消し飛ぶだろう。
「くっまだまだ!!奥義【光連聖魔斬】」
ルーベルは掴まれた聖剣を無理やり引き剥がし、奥義を放つ。
ルーベルが振るう聖剣は斬るたびにどんどん加速してゆき、遂には光速へと達し始めた。
それを右手だけで弾くフレディウスだったが、光速までに到達した剣先を全て捕える事は出来ないのか、段々と体のあちこちに切り傷が出来る。
通常なら自身の規格外の自然治癒力でその程度のかすり傷は一瞬で塞がるのだが、ルーベルの振るう聖剣エクスカリバーの聖気がそれを遅くしていた。
切り傷にまるでこびりつくように聖気が纏わるのだ。回復しようとするたびに聖気によって燃やされる感覚をフレディウスは覚えた。
「面倒な」
そう呟いたフレディウスであったが、その顔は何処か嬉しそうだ。
無理もない。いままでやって来た勇者はフレディウスを見ただけで震えだし、逃げ出す軟弱な者しかいなかった。
中には何とか恐怖に打ち勝ちフレディウスへと刃を向ける者はいたが、そのほとんどがフレディウスの強靭な肉体の前では文字どうり刃が立たなかった。
そんな中、フレディウスへと確かに、確実にダメージを与えられるルーベルが現れたのだ。フレディウスは歓喜するしかなかった。
なんたって“あの計画”が成功するかもしれないから。
「とどめだ魔王!秘奥義【神殺し】」
ルーベルが聖剣を天へと掲げると、聖剣は眩いばかりの黄金の光を放ち始めゴゴゴゴと地響きが鳴り、バチバチとスパークが唸りをあげ始める。
その斬撃は確実に何もかもを絶命させる神殺しの一撃。その名の通り神をも殺すルーベル最大にして最強の秘奥義である。
そんな攻撃の前にフレディウスは防御――をせず、まるで早く斬れとでもいうような構えで目を閉じていた。
ルーベルはそんなフレディウスを見て、諦めたのだろうと思うと同時に何か違和感を感じつつも、自分の全てをかけた一撃をフレディウスにぶつけた。
「あ――が――う――勇――者」
次の瞬間、斬撃はまるで星、空間、世界そのものを切断したように見えた。
それはフレディウスも同じで、体のド真ん中を綺麗に一刀両断され右半身と左半身を左右に分けると、そのまま地面へ内臓をまき散らしながら崩れ落ちるのだった。




