正式デビュー
今回は、円卓会議が舞台となります。ただし、実際に会話に登場するメンバ-は全員では無いです。
「さて、親しい人物には先に教えておきましたが、アンジェロさんのこの状況を、円卓会議にも報告しないとまずいでしょうね」
シロエが言った。
「んだな。情報の共有祭りだな」
直継が同意する。
「まあ、多少の混乱は避けられないと思うけど、黙っている訳に行かないからね」
直継にそう言いながら、シロエはアンジェロの方を見た。
「では、そういう訳なので、アンジェロさんも同席をお願いします」
「解った」
「それと、三日月同盟の時みたいな冗談は、無しに願いますよ」
「それも解ってる。ジョークを使う時と場所は、理解しているつもりだから」
先にシロエに言われて、アンジェロがそう答える、
(だけど、この人は天才か天然か解らない時があるからなあ……)
シロエは、心の中でそう思っていた。
「では、これから会議の手配をします。さすがに急には無理ですので、しばらく時間を下さい」
「了解。宜しく頼むよ」
アンジェロはそう言ったが、少し考えた顔になった。
「それって、どれくらいかかりそうかな?」
「そうですね、さすがに緊急召集をかけても、今日明日って訳には……」
シロエが答えると、アンジェロが言った。
「それじゃ、あたしはしばらく外へは出られないか」
「何で?」
トウヤが言うと、
「あたしは目立つからね~」
と、額に当てた手の指で、頭を掻きながら言った。ローブと匿名でしょっちゅう街をうろつけば、嫌でも目立つだろう。なぜなら、大地人は匿名にならないからだ。
もし、会議が行われる前にアンジェロが素顔で出歩けば、まだ情報が浸透していないアキバの街が、ひっくり返る程の大騒ぎになるだろう。そのルックスに加えて、伝説の剣まで背負っているのだ。美女と伝説の剣の組み合わせは、話題にならない方が不思議というものである。
「しばらくは、影を潜めているのが賢明だと、我輩も思いますにゃ」
にゃん太も言うので、円卓会議の緊急会談まで、アンジェロは外出を控えた。もっとも本人は、フレンド登録したマリエールやドルチェらと、念話でおしゃべりしているのであまり退屈はしていない様である。
「アンジェロやんって、前からチャットがおもろいんやもん。うちあきへんわあ」
とは、マリエールの談である。
「本物の女性とガールズトークしている感じがするわ。中身が男性って信じられないのよね」
ドルチェもそう言っている。
「クールな硬派の様で実は軟派。優しさと思いやりがあり、会話が面白いムードメーカーで、サプライズの天才」
茶会の時の黒狼の評判である。キャラは若いが中身は話せるオッサンというのが、総評だった。実は、茶会のメンバーの中で、見た目が女性のキャラクターは、必ず一度口説かれているのである。当然本気では無いし、ただの馴れ合いなのだが、それによって場を和ませるのが得意だった(ただし、茶会の女性キャラクターには、全員にあっさりと交わされたが、茶会以外でのパーティーやチャットでは、文字通りムードメイクや緊張をほぐすのに割と役に立った)。
何せ、「男性キャラを選んだのは、女性を口説くため」と、自分で言っていた事もあるくらいなのだ(もちろん、それも冗談だが)。
さらに、下品では無いギリギリのエロトークーー戦闘中に、「そんなに動くと、ぱんつ見えるよ(もちろん、ゲームのエルダー・テイルでは見える訳が無い)」とか、「戦うのに胸が邪魔じゃないの?」などーーを発する事もあり、直継とも馬が合った。
そういう具合に、その場で最も効果的と思える話題を振る事が得意だったのだ。
さて、2日程が経過して、臨時の円卓会議が開かれる事になった。シロエはアンジェロを伴って円卓会議の開かれる、ギルド会館の最上階にある会議室へと向かった。
一番乗りをしたシロエ達は、会議室へは入らずに他のメンバーが集まるのを待っていた。最後に入室する事で、演出的効果を狙っての事である。
「すいません、皆さん。お待たせ致しました」
そう言ってシロエが入室すると、
「本当は、君が僕達を待っていたんじゃないのかな?」
と、ロデリックが鋭い一言を放った。
「さすがですね、ロデリックさん」
と、シロエが返す。
「それで、急な召集の理由は何だ?」
ミチタカがシロエに聞いた。
「では、早速ですが本題へ入りたいと思います」
シロエはそう言うと、アンジェロを招き入れた。
アンジェロは会議室へ入ると、一礼してローブを脱ぐと匿名を解除した。一堂から、「ほぉ~っ」とか「は~っ」などと言った、感嘆とも溜息とも取れる声が漏れる。
「おい、腹ぐろ眼鏡、誰だその別嬪さんはよ?」
アイザックがシロエに言った。
「こんな人、今までアキバに居ましたっけ?」
カラシンが興奮した様に言った。
それに答える様にシロエが、
「今までアキバに居たとも言えるし、居なかったとも言えます」
と言うと、
「ふむ、それは一体どういう事かな?」
と、ロデリックが聞いた。謎かけみたいな話に、興味を引かれた様だ。
「実はですね……」
シロエが淡々と説明を始めると、
「何ーーーーーーーー!?」
会議室は大騒ぎになった。
「入れ替わった、だと!?」
信じられないといった顔で、アイザックが言った。
「それは、外観再設定ポーションなど、何かのアイテムの効果では無いんですか?」
ロデリックがアンジェロに訊ねる。
「いえ、それが何も。少なくとも、あたしは寝る前には特別な事は何もやってない。寝て起きたらこうなってた。それに、あたしの中身は男だよ。外観再設定ポーションを使ったなら、ここに居るのはちょっといかつい中年オヤジになるよ」
アンジェロはそう答えた。しかし、実際にそうなのだからそれ以上何も言う事が出来ない。
「何でい、男かよ……」
アイザックが、ちょっとがっかりした風に言った。
「がっかりですよ~」
カラシンも落胆した様に言った。心の中では、やっぱり女運が無い事を嘆いているのだろうか。
「しかし、美女の中身が男かどうかは置いといて、それは実に興味深いな」
腕組みをしながら、ロデリックが言った。
「で、結局お前ーーシロエーーはどう思うんだ?」
ミチタカが言った。
「僕にも解りません」
シロエは素直な答えを言った。
「だけど、それは誰でも同じだと思います。何せ、自分でも経験が無い事ですし、前例自体が無いからです」
シロエの言葉に、全員が黙った。
「解った。まあ、起きた事は起きた事で、誰にも解らねえってんなら、もうそれ以上はどうしようもねえって事だろ?」
アイザックがそう言った。
「俺も同意見だ。専門外の事を求められても、俺にはどうしようも出来ん」
ミチタカもアイザックに同意した。
「ただ寝て起きるだけで、こんな美人に変われるんなら、ボクもうれしいんですけどねえ」
カラシンが言った。
「お前、サブキャラは女なのか?」
ミチタカが言うと、
「いえ、そもそもありませんよ~」
と、カラシンが答えた。
「なんでえ」
ミチタカが、ちょっとつまらなさそうに言った。
「そんな事よりよ、腹ぐろ」
アイザックが口を開いた。
「何です?」
「その……アンジェロさんがぶら下げている得物、さっきからそいつが気になって仕方が無えんだけどな」
アイザックは、アンジェロが背負っている「魔剣・無敵の刃」に興味がある様だった。
「ああ、これね」
アンジェロは、魔剣を会議室のテーブルの上に置いた。
「こいつは凄えな……」
アイザックが驚嘆する。
「伝説の剣、か。まさか本当に実在するとは。想像以上の代物ですね」
その言葉を発した、アインスを始めとした会議室のその他のメンバーも、実在した伝説の武器を目の前にして、興奮が隠し切れなかった。
「なあ。これって本当に取り引き出来ねえのか?」
アイザックが聞いた。
「試したけど、無理なんだよね」
アンジェロが言うと、
「もし俺に出来たら、譲ってくれねえか?」
アイザックが言えば、
「冗談じゃない、それならボクは言い値で買い取りますよ!」
カラシンが割り込んだ。
アンジェロは笑いながら、
「手に持って持ち上げられたら、その人に譲るよ。出来るものならね」
と、言うと、皆が我先に魔剣へと手を伸ばし始めた。しかし、誰もピクリとも動かす事が出来なかった。
「くそ、どうなってやがる!?」
アイザックがうめいた。
「ビクともしねえなあ」
ミチタカも言った。
「だから、所持者にしか持てないって書いてあるのに」
と、アンジェロが笑った。
「それにしても、その剣のフレーバーテキストは、実に面白いですね」
ロデリックが言った。
「ああ。性能は恐ろしいのに、肝心のパーティーや大規模戦闘では使えねえと来てる。しかし、使えなくてもいいから、俺が持ちたかったぜ」
アイザックが、うらやましそうに言った。黒剣の名もあるから、黒い魔剣が欲しかったのだろう。
「それ、打ち直したら変化するかもな。もっとも、手に持って動かせないんじゃ、俺には加工出来ないけどな」
サブ職に鍛冶屋を持つミチタカが、残念そうに言った。
「全く。美人に反応したり、伝説の武器に反応したり、ほんま男ってのは子供みたいやわあ」
マリエールが、あきれた様に笑いながら言った。
「マリエさんは驚かないんですか?」
カラシンが言うと、
「ん~、うちとソウジロウやんは、先に教えてもろてたからなあ」
と、あっさりとネタバレした。
「そういう訳ですので、黙っていてすみません」
その後からソウジロウが、申し訳なさそうに言った。
「まあ、どうせ1日や2日の違いだから、俺はどうでもいいけどよ。それで、結局は何の為に俺達を召集したんだ?あと、これからどうするんだ?」
アイザックが聞いて来た。
(たまにこの人は、普段の人物像からは考えられない様な事を言うな)
と、シロエは思った。
「いえ、そう言われても、実を言うと僕も特に何も、としか。ただ、こういう事がありましたという報告をしたかったので」
シロエがそう言うと、
「いやいや、僕は十分に興味をそそられましたよ?」
と、ロデリックが言った。
「確かにな。奇妙な話だが、聞いておいて損は無かったと俺も思う」
と、ミチタカが続いた。
「もしかしたら、我が君の失踪と、何か関係があるのかも」
クラスティの代わりに、D.D.Dの代表として参加していた三佐が、ぽつりと言った。
「とにかく、何が起きるか解らないから異変なのです。今後もっとおかしな現象が起こるかも知れません。皆さんも何かありましたら、報告をお願いします」
シロエはそう締めくくって、会議を終わりにした。
各キャラクターの一人称や言葉遣いは、一部合わないかも知れません。もしお気付きの方が居ましたら、教えて頂けると助かります。