器用貧乏
今回は「西風の旅団」へお邪魔します。あまりメンバーの資料が無いので、モブキャラなどは憶測で書いている部分が多いです。前半は西風の旅団、後半はオリジナル要素で話が進みます。
「さて、次はやっぱり西風の旅団かな。ここは僕がソウジロウに頼んでおくよ」
そう言うと、シロエはソウジロウに念話を送った。
「こんにちは、シロ先輩。どうしたんですか?」
「やあ、ソウジロウ。ちょっと頼みがあってね……」
こうして、シロエ達は次に西風の旅団のギルド拠点へと向かった。ギルドマスターのソウジロウと、サブマスターのナズナは茶会の元メンバーなので、黒狼とも面識があるからというのがその理由だった。
西風の旅団のギルドホールに入ると、彼の親衛隊に囲まれて、ギルドマスターのソウジロウが鎮座していた。このギルドは、メンバーのほとんどが女性という異色の編成で、しかもその全てがソウジロウのファンという、彼のハーレムギルドと言っても良かった。
「いらっしゃい、シロ先輩と直継先輩」
「やあ、ソウジロウ。忙しいところを済まないね」
何に忙しいかはおいておく事にしよう、とシロエは思った。
「相変わらずハーレム祭りだな」
直継が言った。
「あはは、いや、まあ……」
ソウジロウが、苦笑いした顔で言った。
(全く、こんなに女の子「だけ」を集められるって、どういう才能なのかオレには解らん)と、直継は思った。
「それで、先ほどお伺いしたお客とは?」
「ああ、こちらがそうだよ」
シロエがそう言うと、ローブを被ったアンジェロが進み出て頭を下げた。
「あんた、一体誰だい?」
ナズナが無遠慮な口を開く。
「あなたにも馴染みのある人ですよ」
シロエがそう答えた。
「お久しぶり、ソウジロウ。そして、ナズナ」
アンジェロが、ローブを脱ぐと2人にそう言って笑いかけた。
「え……」
その笑顔を向けられて、ソウジロウとナズナが困惑した表情を浮かべた。周囲も一瞬だが沈黙する。
……が、
「お久しぶりって、誰よ?この女は!?」
「私……達のソウ様に、ちょっと気安いんじゃないの?」
たちまちのうちに、大騒ぎへと発展した。
「うるさい!少し黙りな!」
ナズナが一喝して、騒ぎを収める事に成功する。
「それで、どちら様なんですか?」
ソウジロウが、少しあせりながら訊ねる。
「ええとね、実は……」
アンジェロが説明を始めた。
「何ですって?」
これまでの経緯を聞いて、さすがにソウジロウも驚いた。
「あんた、本当に黒狼だっていう証拠はあるのかい?」
まだ信じる事が出来無いナズナは、疑い深そうに聞いた。
「証拠と言われても……。とりあえず、信じてくれとしか言えないよ」
アンジェロが困った様に言った。
「シロ先輩は、どう思ったんですか?」
ソウジロウがシロエに聞いた。
「それは、初めは僕も信じる事は出来なかったよ。だけど、黒狼さんの名前を出されてはね。」
確かに、その名前は他人が何かの目的の為のダシとして使っても、何のメリットも無い名前だった。
「ああ、もう……。解ったよ、信じる事にするよ」
頭を掻きながらナズナがそう言った。
「ありがとう、ナズナ」
アンジェロがそう言うと、
「疑ったところで、どうしようもないからねえ」
と、答えた。
「それで、シロ先輩。僕に何か協力出来る事があるんですか?」
ソウジロウがシロエに訊ねた。
「まあ、今説明した通りなんて、とりあえずアンジェロさんとフレンド登録してもらえれば」
「解りました」
「茶会の時には世話んなったからね。構わないさ」
アンジェロは、ソウジロウとナズナともフレンド登録を行った。
「ねえねえ、アナタ。本当に男なの?」
そう言いながら近寄って来たのは、ガタイが良い長身の男性だった。彼はドルチェと言い、極めて少ない西風の旅団の男性メンバーだった。その立ち振る舞いの通り、オカマ設定のキャラクターである。
「そうだよ~」
アンジェロが答えると、
「なんかアタシとは気が合いそうねえ。良かったらアタシともフレンド登録しない?」
「ん?いいけど。あんたも好きねえ」
「それはお互い様、でしょ?」
そう言うと、2人は笑った。意気投合したみたいだった。
「ところで、サブ職の芸能人って、何がやれるの?」
ドルチェがアンジェロに聞いた。
「本職には及ばないけど、色んな事が出来るよ」
てとらの持つ「アイドル」などとは違い、芸能人というのは広く浅くをモットーとしたサブ職である。楽器の演奏を始めとして、歌ったり踊ったりとそのスキルは幅広い。また、一見すると芸能とは関係無い様な事が出来るのも、その特徴である。
生粋のソロプレイヤーだったアンジェロは、ある程度の万能性が求められた為に、こういったサブ職をチョイスしたのである。ただし、スキルレベルが半端で器用貧乏な職でもあるので、そこは注意が必要である。ミノリが持つ「見習い従弟」と同じで、個々のスキルを最高レベルまで極める事が出来無いのだ。各スキルレベルは、サブ職レベルの半分(小数点以下の端数は切り上げ)となる。
「へえ、いいわねえ」
ドルチェが感心する様に言った。
「まあ、中身が男なら、ソウちゃんにちょっかい出される心配も無い訳だしね」
ドルチェのその言葉に、旅団の女性メンバー達からは、どこかホッとした空気が伝わって来たが、
(でも、キャラはあんなに美人だし、本当に男か解らないわよ?)
(口から出任せで、本当は狙っているのかもよ?)
(嫌だわ、私、とっても心配だわ)
そういうヒソヒソ話が聞こえて来たので、アンジェロは大声で、
「心配しなくても、あたしはノーマルだ!男、それも年下の後輩に手など出さんわ!」
と宣言した。少しムキになっていたので、後半の口調は男寄りになっていた。
「全くもう……」
と、また女の口調へと戻った。
「あのう……、ええと、アンジェロさん。それでですね」
ソウジロウが遠慮がちに口を開いた。
「さっき少し伺った武器なんですけど、良かったら僕にも見せてもらえませんか?」
ソウジロウは武士なので、守護戦士が使う剣は使えないのだが、やはり興味がある様だった。
「もちろん、いいよ」
アンジェロはそう言うと、「魔剣・無敵の刃」を取り出して鞘から抜き、ソウジロウに見せた。
「これが、伝説の武器なんですか……」
ソウジロウが驚いた様な、うれしそうな表情で言った。
「いいですねえ。僕も欲しかったなあ」
何とも羨ましそうな顔でソウジロウが言ったが、
「でも、これ持ったら今みたいなハーレムギルドは無理だよ」
と、アンジェロが笑った。すると、
「大丈夫よ!例えパーティーやレイドで一緒に戦うのが無理でも、私達がソウ様を守るんだから!」
「そうよ!もしそうなっても、ソウ様は何もしなくてもいいのよ!」
「私はソウ様の為なら、神殿送りだって怖くないわ!」
SFC(=ソウきゅんファンクラブ)の面々が、口々にそう言った。
「相変わらずだね、ソウジロウは……」
シロエが苦笑いしながら言った。
そんなこんなで西風の旅団を後にした3人は、とりあえず自分達のギルドに戻る事にした。
「実は、まだちょっと内緒にしている事があるんだよね」
帰り道でアンジェロが言った。ちなみに、まだフードと匿名はそのままだった。
「それは、何ですか?」
シロエが聞くと、
「たぶん、実演した方が早いと思うんだ」
と、教えてくれなかった。
「そうですか」
シロエは気の抜けた風に言った。
「で、ちょっと2人に頼みたい事があるんだけど、いい?」
アンジェロが言うと、元々あまり外出が好きでは無いシロエは気が乗らない様だったが、直継は引き受けてくれた。
アンジェロの頼みとは、ただ買い物をする事だったが、その内容は食料品、それも完成品では無くて材料になるものばかりだった。
「アンジェロさんは、料理人じゃないですよね?」
シロエが聞くと、
「そうだよ。だけど使うんだよねえ」
と、言った。
「何か変な実験祭りだったりして」
と直継が言うと、
「食べ物を粗末にすると目が潰れるって、お婆ちゃんに言われなかった?」
と、アンジェロがニヤッとしながら言った。
「直継、子供の頃に実験ごっこと称して、変な物を色々混ぜ合わせるなんて事、やってただろう?」
シロエが言うと、
「子供の頃には、誰でも経験があると思うぜ」
と、うそぶいた。
「心配しなくても、”おかし”な実験なんてやらないよ」
アンジェロが言った。
(ある意味、”おかし”いかも知れないけど)
ギルドに戻ると、アンジェロは買って来た物を持って台所へと入った。
「ちょっと台所を借りるよ、にゃん太班長。あと、お茶をお願い出来るかな」
「にゃ、それは構いませんにゃ」
アンジェロは、料理人のにゃん太に一言断りを入れると、お茶を頼んだ。
「何をする気なんだろうな?」
直継が言った。
「まさか、本当に料理?でも、アンジェロさんのサブ職は芸能人で、料理人じゃない事も改めてさっき確認したけどな」
シロエにも解らなかった。
が、しかしそのまさかだった。しばらくすると、アンジェロが両手にトレイを乗せて現れたのだ。
「お待たせ。食べてみて」
アンジェロがギルドホールのテーブルの上に、トレイを置いた。1つにはクッキーやビスケットなどの洋菓子が、そしてもう1つのトレイには、なぜか握り寿司が乗っていた。
「寿司とクッキー?どういう取り合わせだ、こりゃ?」
直継が、(訳解らん)という顔で言った。
「とりあえず、頂いてみましょうなのにゃ」
お茶を持って来たにゃん太が言うので、ログホライズンの面々はそれぞれトレイの上の物に手を伸ばし始めた。
「う、うまいよ!アンジェロの姉ちゃん!」
最初に声を上げたのはトウヤだった。
「どうなってんだ?うめえぜ、これ!」
直継も驚いた様子で言った。
「本当です。その……にゃん太さんが作ったみたいにおいしいです」
セララもびっくりした表情で言った。
「信じられない。まるで、料理人が作ったみたいだ……」
シロエも驚いていた。
「ん~、何ともデリシャスだね。このメニューのミスマッチさもたまらないよ」
ルディが、毎度のごとく格好を付けながら、半分訳の解らない感想を述べた。
「一体どうなってるのか、種明かしをお願い出来ますか」
シロエが言うと、アンジェロが頷いた。
「秘密は、これだよ」
アンジェロが鞄から取り出したのは、2つの賞状の様な紙だった。
『証明書 右の者をパティシエと認定する』
『証明書 右の者を寿司職人と認定する』
そう書いてあった。
「何ですか?これは」
シロエが尋ねると、
「これは、限定スキルの書だよ。ちなみに、名前が書いてある本人じゃないと効果が出ない」
アンジェロが言うには、この証明書に書いてあるスキルは、本来のサブ職と同じになるのだという。つまり、それぞれ料理人の設定最高レベル(ノウアスフィアの開墾の実装に伴い、現在は100)と同じスキルレベルで、書かれた料理が調理可能になるという事らしい。
「た・だ・し!」
パティシエはクッキーやビスケット、ケーキなど洋菓子のみが作成可能で、パンを含めたピザや、まんじゅうに大福などの和菓子は作れないのだという。同様に、寿司職人が作れるのは寿司と名が付く料理のみで、その他の和食やそばやうどんなどの麺類、さらに丼物なども駄目なのだそうだ。
「ついでに、これだと作れるのは食べ物だけで、飲み物は無理なんだよね」
そう言うと、アンジェロは照れ笑いを浮かべながら鼻の頭を掻いた。だから、お茶はにゃん太に頼んだのである。
「また、えらく使い道の狭いアイテムだな」
直継が、半分感心して半分あきれながら言った。
「まあこれは、トライアル時代のアイテムだからね」
アンジェロが言うには、トライアルの初期にクエストによって取得出来たのだという。他にも色々な限定スキルの書があったのだけど、持っている人は現在誰も居ないらしい。
「取るのが、ものすごく面倒だったんだよ」
アンジェロの説明だと、現実時間で1日も欠かさずに毎日連続で同じクエストを受け続けてポイントを貯める必要があったのと、特定のアイテムを数百単位で納めなければならなかったからだと言う。
「お陰で、レアコレクターの私でも、クエストが削除されるまでに2つ取るのがやっとだった」
結局、ほとんど趣味と言うよりは拷問の様な内容のクエストで、労力に見合う報酬が得られない為に誰もやらなくなったから、トライアルの途中からオミットされたのだそうだ。
「まあ、直継君の言った通り、使い道が狭すぎてね。結局本職が居ればそれでいいって事なもんで」
それを聞くと、その場の数人が「だあぁ~っ」と、ズッコケた。
「サブ職の芸能人と言い、まさに器用貧乏を地で行ってますね」
シロエが、ずれた眼鏡を直しながら言った。
西風の旅団のキャラクターについて、何かありましたら遠慮無くご意見をどうぞ。憶測の部分が多いので、こちらも助かります。その結果、随時修正の可能性がありますので、ご了承頂きたいと思います。
※頂いたご意見から、ソウジロウの呼ばれ方を「ソウちゃん」「ソウ様」に一部修正いたしました。有り難うございました。