挨拶回り
今回は、三日月同盟へお邪魔いたします。関西系の言葉は、場所によって区別が難しいですので、マリエールの言葉遣いがおかしかったら、すみません。
「まず、とりあえず、ですが……」
シロエが口を開いた。
「最初に、もし宜しければ僕達からフレンド登録してみては、いかがでしょう」
「我輩も賛成ですにゃ。アンジェロっちは、今までずっと1人だったのですにゃ。もうそんな必要は無いと思いますにゃ。もちろん、アンジェロっちが望めばという事ですがにゃ」
にゃん太の言葉に、他のメンバーも賛成した。
「そうだね。それじゃ、みんな登録宜しく。」
アンジェロがそう言うと、全員が笑顔で頷いた。
「よっし、それじゃフレンド登録祭りだぜ!」
直継の言葉では無いが、アンジェロ1人を登録すれば良い他のメンバーと違って、10人近い人数を一度に登録するアンジェロは、文字通り登録祭りだった。
「なあ、ついでだからうちのギルドにも入ってもらったらどうだ?」
直継が提案した。
「うん、僕もそう思ってはいたけど、安易に誘っていいものか、ちょっと考えていたんだ」
元々、ギルドというものに対して消極的な考えのシロエは、自分の過去の経験からあまり積極的に勧誘する事はしたくなかったし、あくまでもアンジェロの自主性に任せるつもりだった。
「いいよ。これまでずっとギルドは未加入だったし、ここでお世話になるのも悪く無いからね」
そう言うと、アンジェロはあっさりとログホライズンへの入会を承諾した。
「オッケー、全員フレ登録完了。そして、ギルドの入会も完了。みんな、これから宜しくね」
その言葉に、全員から歓迎の声を返された。
アンジェロのログホライズン全員のフレンド登録と、ギルドへの入会手続きが済んだところでシロエが、
「では次に、早速ですが他の知り合いにも顔を覚えてもらうべきでは無いでしょうか」
と、言った。
「んだな。もうゲームとは違うんだし、とりあえず知ってる奴には知らせておくべきだと思うぜ」
直継も、それを肯定した。
「うん、よろしく頼む」
アンジェロが言った。
「そんじゃ、オレとシロで案内しようぜ」
直継がそう言うと、
「え、僕もか?」
と、シロエが聞いた。
「お前、『また』今日も部屋から外に出て無いんだろ?それじゃ息が詰まって窒息祭りだぜ」
「そんな祭りは要らない」
「とにかく、お前はギルマスでもあるんだから、一緒に来いっての」
そう直継に言われると、シロエは渋々承諾した。
「まあ、僕が行かないと、直継だけに任せたら心配だからね」
シロエがそう言うと、
「一体そりゃどういう意味だよ」
と、直継が言い返したら、
「突っ込む人が居なくなるからだよ」
あっさりとまた言い返された。
「主君、私も行くぞ」
アカツキも同行を申し出たが、シロエに、
「いや、あまり大人数でうろうろするのも何だから、僕と直継だけでいいよ」
と言われ、不服そうに「……そうか」と頷いた。
外に出る時に、アンジェロがまたローブを羽織ってフードを被ったので、
「それ、まだやるんですか?」
と、シロエが訊ねるとアンジェロは、
「きちんとするまでの間、まだしばらくは顔を出して歩きたくない」
そう答えて、また匿名にした。
「じゃあ、僕達は出かけて来るから、後を宜しく頼むよ」
シロエはそう言うと、直継とアンジェロも後に続いた。
ギルドの外に出て道を歩きながら、アンジェロ達は相談していた。
「やっぱり最初は三日月同盟、かな」
シロエがそう言った。
「そうだな。あそこが一番気楽に行けるからな」
直継も同意する。
「とりあえず、私はいきなり入れないから仲介を頼めるかな」
アンジェロは、現在ギルド以外では外部のフレンド登録が0人の上に、まだ誰とも面識を持たないので、これはしょうがなかった。
「解りました。先に念話でマリ姐に、ギルドホールに入れる様に頼んでおきます。じゃ、直継任せた」
「何でオレに振るんだよ」
突っ込み気味に、直継がシロエに言った。
「構わないだろ?別に」
澄ました顔でシロエが言った。
「どうかしたの?」
アンジェロがシロエに聞いた。彼女は「黒狼」だった時に、一応マリエールと面識があるが、あまり込み入った事は知らない。
「いや、別に。何も無いですよ?」
澄ました顔のままで、口の端を少し持ち上げながらシロエが答えた。
「だからお前は腹ぐろ眼鏡なんだよ」
ぶつくさ言いながら、ちょっと照れ臭そうに直継がマリエールに念話をかけた。
「もしもし、マリエさん?」
「あ、直継やん。どしたん?」
「う~んと、その。今ちょっと大丈夫かな」
「うちならええけど。もしかしてデートの誘い?いややわあ、いきなりなんて。うち困ってまうわあ」
それを聞いて、直継が少し赤くなった。
「いや、そうじゃなくて……。ちょっと客を連れて行きたいんだけど」
「なんや、残念やわ」
しかしマリエールも、顔が直接見えない念話だからこそ、そんな大胆なセリフも言ってのけられる。安易なスキンシップをしていた頃に比べると、直継との関係が微妙になっているからだ。
「それでお客はんって?うちらなら別にええけど、誰やのん?」
「それはそちらに着いてからで」
「解った。ほな待ってるで~」
マリエールとの念話が終わると直継は、
「任務完了だぜ」
と言って、親指を立てて見せた。
「手間かけるね」
アンジェラがそう言うと、
「全然オッケー。問題無し祭り」
いつもの調子で直継が答えた。
三日月同盟のギルドのドア前に来ると、シロエ達は念話でマリエールに断りを入れてからギルドホールへと入った。ギルドの中には、「カモーン、誰でも来ーい」みたいに入り口を完全解放しているところもあるが、大抵のところはギルドマスターの権限で入場制限がかけてあり、メンバーやその友人知人以外で無関係の者は許可無く入れないところがほとんどである。
マリエールは、シロエ達が来るのを待っていて、一瞬だけギルドの入り口を開放してくれたのだ。そして、シロエ達が入った連絡を受けると素早く制限をかけ直した。
ドアを軽くノックしてから、シロエ達はマリエールの居る部屋へと入った。小さな会議室か応接間の様な部屋には、三日月同盟ギルドマスターのマリエール以外にも、ヘンリエッタと小竜、さらに数名のメンバーの姿があった。
「いらっしゃい、シロ坊。……と、直継やん」
「いらっしゃいませ、シロエ様」
マリエールとヘンリエッタが出迎える。他のメンバーも、それぞれ会釈などしてシロエ達を出迎える。
「すいません、マリ姐。突然お邪魔して」
「ええんよ、うちらの仲やし。何を今更って感じやわ」
そう言うと、マリエールはころころと笑った。
(マリ姐のこういう所は、実にありがたいよなあ)
シロエはそう思って、心の中でマリエールに感謝した。
「あら、アカツキちゃんはご一緒じゃないんですね」
ヘンリエッタが少し残念そうに言った。
「ええ、すいません。留守番させています」
「ところでシロ坊。お客はんってのは、そちらの人なん?」
マリエールは、シロエの後ろに控えている、すっぽりとローブをかぶったアンジェロの方を見た。
「ええ、ちょっと複雑な事情がありまして……」
シロエがそう言うと、アンジェロがシロエの隣へ進み出て並んだ。そしてお辞儀をすると、着ていたローブを脱いだ。
「うわあ……」
アンジェロの姿を見て、マリエールが驚嘆のため息を漏らす。部屋の中に居る他のメンバーも、思わずアンジェロに見とれた。
「シロ坊!誰やの、この別嬪はんは!?こないな綺麗な人が、このアキバにおったんかいな!?」
マリエールの声に、シロエは少し困った表情をすると、人差し指で頬をかいた。
「ええと、話すと長くなるんですが……」
シロエがそう言うと、アンジェロが再びお辞儀をしながら言った。
「どうも、旦那がお世話になっています」
その言葉で部屋中の空気が凍りついたかと思うと、その一瞬後に部屋中は大混乱に陥った。
「なんやてえ~!?シロ坊にそんな人がおったんかいな~!?」
「シロエ様!これは一体どういう事なんです!解る様にご説明なさって下さい!」
「い、いや、待って下さい!これは、その……」
シロエがしどろもどろで弁解する。
「あ~あ、こりゃ修羅場祭りだな」
直継が苦笑いを浮かべながら言った。
すると、アンジェラが気を付けの状態で三たびお辞儀をして、
「なんちゃって、ウソです」
と言った。その一瞬の間の後に、
「だああ~、一体なんやねんな~」
とマリエールが言ったのと同時に、部屋中の者が全員ズッコケた。
「今度は、関西風お笑い祭りだな」
と、直継が言った。
「……で、にわかには信じられへんけど、ほんまにこの別嬪はんの中身が、あの黒狼はんなんか?」
一通りの説明を聞いたマリエールが、アンジェロの顔をまじまじと眺めながら言った。
「僕も最初は信じられなかったんですけど、間違い無い様です」
シロエが、ずれた眼鏡を直すしぐさをしながら言った。
(それに、さっきのおふざけだって、ムードメーカーの黒狼さんならではだしね)
心の中でシロエはそう思っていた。
(人の心を一番簡単に掴むのはジョークやお笑いだからね。全く、行動にいちいち意味があるのが、まさに天才だよ。僕には真似出来無い)
「それで、今はアンジェロ言いなはるんか、黒狼はんは」
「そうですよ、マリエールさん」
アンジェロがそう言うと、
「なんか調子狂うわ~。そのキャラの調子でしゃべってもろてもええですよ」
マリエールが、額に手を当てながら言った。
「では、失礼して……ゴホン。そういう訳なんだよね、マリ姐さん」
「うん、何かそっちの方がしっくり来るわ~。こっちも気が楽やしな~」
マリエールが頷いた。
とりあえず、今はギルドホールの中なので、アンジェロの匿名は解除してある。
シロエ達がマリエールと話している周囲では、三日月同盟の他のメンバーがひそひそ話をしていた。
(……なあ、本当だと思うか?)
(キャラが入れ替わったなんて、信じられないよなあ)
(しかもあれで、中身が男ってマジか?)
(くう~、実にもったいない)
「そこ、ぼそぼそうるさいで」
マリエールが、やんわりと注意する。
「それで、シロエ様。どうなさるおつもりなのですか?」
ヘンリエッタが聞いた。
「う~ん、僕には今のところどうしようもない、としか言えないです。正直何も解らないというのが本音ですから」
ふかふかのソファに腰を落ち着けながら、シロエが言った。
「それで、うちらは何をしたらええのん?」
そのマリエールの問いに、シロエが、
「とりあえずですね、アンジェロさんとフレンド登録してもらえれば、と思います」
言うが早いか、
「そんならオレも!」
「あ、ズルいですよ、僕が先です!」
「いやいや、オレだって!」
群がって来る男達にマリエールが一言、
「あんたら、さっきからうるさいで。自分らは今はお呼びやないねん。あっち行っとってや」
そう言って、外野を追い出した。
「すまんなあ。全く、見た目が別嬪なら中身が男でもええんかっての。大体、うち(のギルド)にやって女の子は居るし、むしろ女子率は高い方なんやけどな」
「マリ姐さん、気にしなくていいよ」
アンジェロが笑いながら言った。
「ほんまにもう、男ってのは……。ああ、でもなうち、シロ坊はもうちょっと積極的になってもええと思うんやわあ」
「何の話ですか!?いきなり振らないで下さい、マリ姐!」
シロエが少し引きつった表情で言った。
「うちが何も知らんと思ってんのか~?なあ、梅子?」
そう言うと、ちらっと横目でヘンリエッタを見た。
「きいい~っ!だから梅子はやめてって言ってるでしょう!」
ヘンリエッタはキレ気味にそう言ったが、ある意味では図星を指された格好な為に、照れ隠しの意図もある。
どうも、変な方向へ話が行かないうちに、早々にフレンド登録だけしてお暇した方が良さそうだった。そう考えながらシロエがアンジェロを見ると、少し困った様な顔をしていた。
「どうしたんですか?アンジェロさん」
「いや、それがさ……。知らない人からのフレンド申請や念話の申し込みがメッセージで……」
それを聞いたマリエールが、
「あのアホ達は、何を考えてるねん」
やれやれ、という感じで言った。
「今は、メッセージの拒否祭りだな」
直継も、あきれながら言った。
少しコメディータッチな内容になりました。マリエールの言葉遣いに違和感などございましたら、修正いたします。また、小竜君はこのお話しでも、ちゃんとマリエールに一途ですので、ご心配無く。