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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第1章 -目覚めの朝ー
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最強のソロプレイヤー

 スタート開始直後から、ゲームのエルダー・テイルで世界最強の力を手に入れたアンジェロは、だが意外な苦労も多かった様だ。

 とりあえず、最初からそれこそ戦闘では負け知らずだった。何せ、同レベル帯のモンスターは一撃でカタが付いたからだ。

 たまに現れるレア級の格上相手には、少し手こずる事もあったがそれでも負ける事は無かった。本来はパーティーを組まねば倒せない様な相手でも、1人で倒す事が出来た。その為に、誰とも組む必要が無かったので、「魔剣・無敵の刃インビンシブル・ブレード」の制約に触れる事も無かった。

 ただし、匿名とくめいを外す事は出来なかった。その最大の理由はPKを回避する為だ。PKというのは、基本的に弱い者を狙って来る。エルダー・テイルがPKを行いにくい仕様だったとは言え、ソロで行動すればそのリスクはあったからだ。しかし、正体の解らない相手に、無謀な戦いを吹っかける事はしない。それに、戦いになれば魔剣を見られてしまうからだ。

 そして、次の理由が、その魔剣を見られない為だ。強力すぎる武器を持つ事で、嫉妬からPKに襲われる危険もあったし、その存在自体を知られたくなかったせいもある。

 また、美しすぎるキャラクター自体が、下らないナンパやストーカーの標的にされる可能性もあった。その為にアンジェロは、全ての念話やフレンド登録を自動で拒否していた。また、なるべく姿を隠す為にいつも移動時には例の茶色いローブを着ていた。


 ただ、全く他のプレイヤーと関わりが無くても、それでアンジェロが困る事は無かった。自分より多少どころか、かなり強いモンスターでも平気で狩る事が出来たし、場合によっては1人でダンジョンやレイドゾーンをクリアーする事も出来たからだ。

 しかし、1人でいくらダンジョンやレイドゾーンを制覇しても、魔剣を所持している限りは決してその名が制覇者として刻まれる事は無かった。その活躍を誰にも知られる事が無いのも、魔剣の所有者に対する制約(=ペナルティ)だからだ。

 だが、1人でダンジョンやレイドゾーンをクリアーするという事は、その冒険での戦利品を全て独占出来るという事だ。同時に、モンスターも全て1人で倒してしまうので、経験値も独占出来る。

 それに、名前が残らないという事は、有名になる事も無いという事だ。その存在を知られたくないアンジェロにしてみれば、それは逆に有り難い事でもあった。

 そのせいか、自然とアンジェロは個人でも占有可能なダンジョンやレイドゾーンにこもる様になった。そこなら、他人に姿を見られる事が無いからだ。

 また、最初から最強の武器を持っているので、武器に関して言えば買い換える必要が無かった。他のプレイヤーに比べると、装備にかけるお金が少なくて済むのだ。

 不要な戦利品は、出品者の姿が見えないマーケット(=競売所)で全て売り払い、およそ普通にプレイしていては稼げない様な枚数の金貨を、たった1人で貯める事も出来た。


 ここまでの話を聞くと、むしろうらやましすぎる様な感じがするが、逆に苦痛に感じる事もあった。

 まず、他人との関わりを徹底的に避けた事だ。対話は拒否していたので完全に届かなかったし、同じくフレンド登録も拒否していたのでフレンドが出来る事も無かった。たまに、フレンド登録しようとしたら、出来なかったので対話をしたけど、それも出来無いので通常チャットで話しかけるという、気の長い事をして来るプレイヤーも居たが、それに気が付かないフリや。タイミング悪くログアウトしたフリをしなければならなかった。

 また、助けや応援を求める声も、全て黙殺せねばならなかった。そのせいで全滅したパーティーや目の前で倒されてしまったキャラクターを、アンジェロは何度も見て来た。

 幸いな事と言えば、このキャラクターが別アカウントの倉庫キャラだった事だ。お陰で目立った噂が流れる事も無く、その他大勢の変な奴が居るくらいで済まされていた。

 たまにそれで場違いな文句を言われたり、罵声を浴びせられる事もあったが、倉庫キャラと言う事で幾分かは気が楽になった。

 そのうちに茶会が解散して、大多数のメンバーとも疎通になってしまうと、それからはこの倉庫キャラの方がメインになりつつあった。「大災害」に巻き込まれた時は、たまたまメインの「黒狼」で先にログインしただけで、もしかするとこちらがメインキャラクターになっていた可能性もあった。


「しかし、良く我慢しましたね」

 そこまでの話を聞いて、シロエが言った。

「全くだぜ。オレなら絶対無理だな。だって、シロや茶会の仲間と冒険やチャットやおぱんつ話が出来無いなんて、いっそ魔剣なんて捨てた方がマシだぜ」

 直継もうなづく。

「いや、それーーおぱんつ話ーーは直継だけだろ」

 と、シロエが突っ込んだ。

「ボクなら、逆にとことん目立っちゃうけどな。伝説の武器なんて、すっごい材料だよ」

 てとらが言った。

「君の様に、そこまで吹っ切れて考えられればね」

 アンジェロは、そうてとらに言うと笑った。

「たぶんだけど、僕は直継の言う通りだと思う」

 シロエが口を開いた。

「エルダー・テイルはMMORPGだ。他のプレイヤーの誰ともコミュニケーションを取らないなんて、それならオフラインの家庭用ゲームで遊んだ方がいい。アンジェロさんは複アカでメインキャラがあったから、大丈夫だっただけ。1キャラだけで完全孤独なソロプレイをするくらいなら、魔剣なんて捨てるべきだ」

「だよなあ。1人じゃ祭りも出来ねえし」

 直継が同意する。

「だから、一緒にするな。バカ直継」

 と、今度はアカツキに突っ込まれる(蹴りは無しで)。

「おそらくだけど、運営も同じ事を考えていたと思う。最初期に装備可能レベル1で配布したって事は、始めは普通にソロプレイでやっていても、いずれメリットよりもデメリットの方が重荷になり、捨ててしまうと考えたんだろう」

 MMORPGでは、最初はソロプレイの方が経験値を稼ぐのに逆に効率が良い。そのうちに敵の数が増えたり強くなって来て1人ではまともに戦えなくなるので、おのずと多人数プレイへ移行する様になるからだ。その為には、極めて重い魔剣の使用制約が邪魔になってしまう。

「つまり、本来はジョークアイテムだったんだよ。『何これ、いくら強くてもこんな条件で使える訳ないだろ』って、そのうち捨てられてしまうと思ったんだ」

 シロエの言う事はもっともだった。フレンドを作ったりギルドに入ったりチャットをする事は出来ても、パーティーとレイドというMMORPGの面白い部分を捨ててまで、たかが1アイテムに過ぎない魔剣に固執する必要は無いからだ。

「運営の誤算は、アンジェロさんが2アカだったって事だ。MMORPGの面白い部分は、全てメインの「黒狼」で体験出来るからね」

 シロエはそう言うと、アンジェロの持つ魔剣を見つめた。

「それともう1つ」

 一旦言葉を切って息を整え、再びシロエは話し始めた。

「アンジェロさんが、レアコレクターだったって事。しかも保存用の倉庫キャラの方だし」

「それは確かに違えねえな。運営は大誤算祭りだぜ」

 直継が、そう言って笑った。


「それじゃあ、ミス・アンジェロは、そのうち神から授かったこの魔剣を捨ててしまうのかい?」

 落ち着きを取り戻したルディが、少し神妙な面持おももちで言った。ひれ伏してからの事は、取り乱していてあまり覚えていないらしい。

 その言葉にアンジェロはニヤっとして、

「絶対に、捨・て・な・い」

 と言った。

「誰が捨てるか、もったいない。」

 そうして笑った。

「だよなあ」

 直継が手に頭を当てながら言った。

「なあ、アンジェロの姉ちゃん。それ、もっと見せてもらってもいい?」

 トウヤが興味しんしんと言った顔で聞いて来た。

「うん、いいとも。」

 アンジェロはそう言うと、剣を鞘から引き抜いてテーブルの上に置いた。

「すっげえなあ。これが伝説の武器かあ」

 そう言いながら、トウヤは剣のつかを握ってみる。

「あ、こら。トウヤ」

 ミノリが注意した。

「あはは、いいよ。問題無い」

 アンジェロは、笑ってミノリにそう言った。

「すみません。……まったくもう」

 トウヤの代わりにミノリが謝った。しかし、当の本人は全く意に介していない。

「んぐううう、うがががが。駄目だ、師匠と同じでやっぱり動かせねえや」

 トウヤがそう言って柄から手を離した。なお、師匠というのは直継の事である。

「しかし、これは違う意味でも魔剣ですにゃ。こうして見ていると、まるで刀身に吸い込まれそうですにゃ」

 にゃん太が感心した様に言った。

「本当です。とても綺麗な剣ですね」

 セララも、うっとりとした表情で言う。

「見る者を魅了する。まるで妖刀だな」

 アカツキが、魔剣の刀身を見つめながらつぶやいた。

「この剣を題材にして、うたが書けそうね」

 五十鈴が言った。

「ん~、まさに神がつかわした剣にふさわしい美しさだね」

 ルディが大げさに言った。


「しかし、武器がこれだから、防具なんかも凄いのがあるんですか?」

 シロエが聞いた。

「ん?無いよ」

 アンジェロが、あっさりと答えた。

「無いって……」

 シロエが呆気あっけに取られる。

「まさか、はだか……ぐえっ」

 直継が全部言う前に、アカツキの膝蹴り付きの突っ込みが入った。

「黙れ、バカ直継。主君、この変態に飛び膝蹴りをしても良いだろうか?」

「だから、蹴ってから言うな~!」

 赤くなった鼻を押さえつつ、直継がアカツキに言った。

「私は、ずっとソロだったからね。普通の盾役と同じ装備をしてたら生き残れないよ。」

 守護戦士というのは、基本的にパーティーの壁であり盾だ。敵の攻撃を一手に引き受けてひたすら耐える。だけど、それは他にきちんとした攻撃役アタッカーと回復役が居る、パーティープレイだからこその話だ。

 ゆえに、壁役というのは攻撃を喰らう事を前提とした、非常に重厚な装備が必要になる。しかし、堅牢な防御力を得られる事と引き換えに、その重さや動きにくさは装備者から回避力や敏捷性を奪う。

 もちろん、「D.D.Dのクラスティ」や「黒剣騎士団のアイザック」など、攻撃的な性格を持つサブ職を持つ事で、アタッカーとして機能する守護戦士も居るが、多くは直継の様に純粋な壁役だ。

 ゲームでのアンジェロの戦い方は、単純に「やられる前にやる」の殲滅せんめつ戦だった。ただでさえ桁違いに強い武器を持っているのに、さらにその武器には強力な付与効果まである。攻撃力が青天井なのだ。

 そして、重たい装備を持たない代わりに、特殊効果のある装飾品アクセサリーーー例えばそれは、回避力が上るイヤリングだったり、防御力が上るネックレスだったりするーーを身に付けるのだ。

 一応レベル相応の防具も装備するものの、それらは自らの動きを損なわない物が優先であり、マイナスの効果が多い物は装備する事を避けた。多少のマイナスは魔剣の付与効果で相殺されるが、出来ればその有利さを失いたくは無い。

 なお、ダンジョンやレイドをクリアーして得た物で、不要と思う物は防具も含めて全てマーケットで売り払った。誰かの為にとっておくなんて事は、完全ソロプレイヤーであるアンジェロはしない。アンジェロが保存する物は、(メインキャラクターの黒狼も含め)自分で使う事が出来て珍しい物だけだ。

 装備出来なければ細かいグラフィックも確認出来ない(アイテム画面では大まかな外見のアイコンしか表示されない)し、さすがに入手した全てのレアアイテムを保存する事は、2アカで使える倉庫機能を全てフル活用しても無理である。世界的規模で展開するMMORPGのエルダー・テイルには、それこそ星の数程もアイテムが存在するからだ。

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