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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第2章 -平穏と鳴動ー
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祭りの季節

 それからさらに数日、アンジェロは「奈落の参道(アビサルシャフト)」の雑魚(ザコ)をかなり倒して、地図で言うとレイドボスの部屋の手前くらいまで探索を進めていた。

 これ以上の奥へ進んで雑魚狩りをするには、レイドボスを倒さねばならなかった。

「今は仕方無い……か」

 アンジェロはこれ以上の探索を断念すると、奈落の参道の入り口まで戻ってそのまま扉を抜けた。そして、帰還呪文を使うと一瞬でアキバの街へと戻った。「奈落の参道(アビサルシャフト)」の中で帰還呪文を使っても、その入り口へ戻るだけだからだ。帰還呪文は1日に1回しか使えないので、そんな間抜けな事をやって、徒歩で「パルムの深き場所」の出口へ向かう様な事は面倒くさい。

「おかえりなさい、アンジェロさん」

 ギルドへ戻ると、連絡を受けていたシロエとギルドメンバーが出迎えてくれた。

「ただいま」

 アンジェロが応える。

「修行はどうでしたか」

 シロエの問いに、

「うん、かなり良かったよ。シロエ君の地図とレポートが役に立ったし」

「それは何よりでした」

 そう言ってシロエは、アンジェロのステータスを見て驚愕(きょうがく)した。

「レベルが上ってますね。それも信じられないくらいに」

 シロエが驚くのも無理は無かった。何せ、アンジェロは出発前に90だったレベルが、93になっていたのだから。

「そりゃあね、経験値は全部独り占めだから」

「なるほど、そう言えばそうですね」

 思えば、シルバーソードのメンバーにも、攻略中にレベルが上った者が相当数居たはずだ。

「しっかし、本当にソロでレイドモンスターを狩って来たのかよ。驚き祭りだぜ」

 直継が言った。

「なあなあ、アンジェロ姉ちゃん。何か面白い事あった?」

 トウヤが聞いて来た。

「ん~、まあ。久しぶりに経験値が入る戦闘をした事は、面白かったかなあ」

 アンジェロがそう答えると、

「そういうんじゃ無くて、すっげえ強いモンスターが出て来たとかさあ」

 トウヤが少しつまらなそうな顔をして言った。

「大規模戦闘区域(レイドゾーン)のモンスターだから、そりゃあそこらの雑魚よりはずっと強かったよ。けど、あたしには『これ』があるからね」

 そう言って、アンジェロは背中の魔剣を指差した。

「さすがにそれでも、一撃じゃ倒せなかったけどね」

 多人数プレイが基本であるレイドゾーンのモンスターは、見かけのレベルよりもずっと強く設定されている。まともにやり合えば、同レベル帯の冒険者でも単独(ソロ)では勝ち目が無い。

 シロエ達が挑戦していた時に、やりたい放題暴れていた様に見えるデミクァスも、他者の支援をアテにしていたからこそ無茶が出来たのである。ソロなら、1体の敵も倒せぬうちにお陀仏だっただろう。

「それじゃ、みんなにお土産があるから」

 アンジェロはそう言うと、雑魚から獲得したアイテムをテーブルに並べ始めた。

「よろしいのですか?アンジェロさん」

 シロエが言った。

「うん、気にしないで。雑魚からの戦利品だからあまり大した物は無いし、幻想級の装備の改修には、同じ幻想級の素材が必要になるからね」

 特に、直継やシロエが同じ奈落の参道で入手した装備には、同じ場所で入手した材料はぴったりの補修アイテムになる。

「それに、このギルドってあんまり経済活動には熱心じゃないみたいだからね。正直、ギルドの維持費って結構大変じゃない?」

 そう言われると、シロエはぐぅの音も出ない。ギルド会館でギルドホールをレンタルするのに比べると、独立した建物を使っているギルドの運営には、べらぼうな予算を食う。確かに、記録の地平線(ログホライズン)のメンバーは約半数がレベル90オーバーだが、約半数はその2/3程度のレベルなのだ。

 もっとも、登録人数が少ないだけなので、シロエ・直継・アカツキ・にゃん太・てとら、そしてアンジェロのレベル90台と、トウヤ・ミノリ・五十鈴・ルディと、かなりざっくりした分け方になってしまうのだが……。

「ありがとうございます、助かります」

 シロエはそう言って、アンジェロの好意に甘える事にした。

「気にしない。あたしはもうギルドの仲間だから」

 アンジェロは笑いながら言った。


 シロエ達高レベル者は、アンジェロが出した物の中から幻想級の素材アイテムをもらい、トウヤ達はこれから必要になる、スキルの習得の為の書物や魔法習得の為の巻物(スクロール)をもらった。

「くぅ~、早くレベルを上げて、このスキル覚えてぇなあ」

 スキルの書をもらったトウヤが、喜びながら言った。

「にゃあ。あせらず精進するのですにゃあ」

 にゃん太が、目を細めて頷(うなづ)きながらーーっと言っても、彼の場合は普段から目を開けているのか閉じているのか解らないがーー言った。

 習得可能レベルは90以上なのだが、ゲーム時代のエルダー・テイルは、比較的レベルだけなら早く上げられる仕様になっていて、区切りとなる90までならそんなに時間は必要無いーーっと言っても、廃人クラスのやりこみで1ヶ月以上かかるーーのだが、問題は成長したレベルに、覚える必要のあるスキルが追い付かない事だった。

 あまりに早くレベルだけ上ってしまうと、それに合わせた装備が揃えられないし、スキルと魔法も十分に覚えたり出来無いし、熟練度も上らないのだ。

 何より、レベルだけが無駄に高いと、戦闘によっては経験値が入らなくなってしまう。その結果、経験値を得る為に無理な戦闘を繰り返す事で消耗して、負担ばかりが増えてしまうのだ。

 一番厄介なのは、難易度が上る戦闘に、プレイヤー自身のスキルが伴わなくなってしまう事だ。低レベルではただ敵を攻撃していればいいだけだった単純な戦闘から、パーティープレイでお互いの連携を考えて行動する様になるからだ。

 それが出来無い人は、次第にパーティーに誘われなくなって行く。そうなれば、引退するかサブ職で生産系に走るしかプレイする道が無くなってしまう。

 その為に、あえて急いでレベルだけを上げるプレイヤーは、ほとんど居なかった。

「本当に、こんな価値の高い物、頂いてもいいんですか?」

 ミノリが遠慮がちに聞いた。何せ、スキルの書や魔法の巻き物というのは、レベルが高くなる程に高価になって行く。しかも、対応レベルに応じて、入手難易度も格段に上るのだ。普通に店に売っているものや、自動で覚えるものだけでは限りがあるし、クエストで入手したりこの様に戦闘でモンスターを倒したり、ダンジョンやレイドのクリアー報酬でしか、得られない物もある。

 競売所(マーケット)に流れて来る物は、当然ながら入手難易度と習得可能レベルによっても値段が違う。入手難易度が高くて習得可能なレベルが高い物程に、値段も高価なのは当たり前だ。

 目の前に置かれたアイテムは、はっきり言って今のミノリ達では、銀行の貯金も合わせて全ての財産をはたいても、全く足りない様な金額で流通しているアイテムばかりだった。それをアンジェロは気前良くポンとくれるというのだから、そう聞いてみるのが当然だろう。


「いいのいいの。あたしはお金には困ってないから」

 あっさりとアンジェロはそう言った。何せ、彼女が1人で奈落の参道で稼いで来た金貨は、フルレイド参加人数と同じ24人分だからだ。

 そもそも、モンスター1体が数百枚という金貨を落としても、24人で分ければそれは微々たる枚数にしかならない。例えレイドボスを倒して何万枚という金貨を得られても、同じ様に24人で頭割りすれば1人当たりの獲得枚数が万の桁を超える事は無い。

 断っておくと、もしこの分配システムが無かった場合、シロエの様に戦闘に参加しないで何か重要な行動をしていた者に対して、かなり不公平な事になるからだ。

 それを考えれば、アンジェロが1人で稼いだ金貨はかなりの枚数になる。到底、普通の冒険者では及びもつかない金額なのは明白だった。

「じゃあ、シロエ君。そういう訳で、これはあたしからギルドへの会費。受け取って」

 そう言うと、アンジェロは相当な枚数の金貨が入っていると思われる袋を、シロエに差し出した。

「いくら何でも、あなた1人からこんなに頂けません」

 それを見て、シロエは驚いて断ろうとしたが、

「『金は天下の回りもの』って言うでしょ?使えばまた巡って来るよ、だから気にしない」

 事も無げにそう言って、アンジェロはシロエに金貨の袋を押し付けた。

「そうですか、では有り難く頂きます」

 シロエはそう言うと、アンジェロから受け取った金貨の袋を鞄にしまった。

「金持ち一直線祭りだな」

 直継が、呆気(あっけ)に取られた表情で言った。さすがに彼くらいのレベルの冒険者になると、万を越える金貨の蓄えはあるが、同じ様に万を越える出費もザラになる為、多少の貯金はあっても無い様なものだった。

 レベルに見合った装備の調達や修理費用に、改修用の素材や新しく覚えるスキルの書、毎日の食費だって必要だった。レベルが上る程に、一日に必要な食料アイテムの消費も増える為、これは必須とも言える生活費だ。

 冒険で得た不要な物や生産品を売って得る収入があっても、前述した費用や生産の為の材料費として、かなりの出費をする。アンジェロが特別なだけで、個人で行う戦闘1回辺りで得られる金貨など、実際は微々たるものでしか無い。

 結果的に、大量の富が一個人の所へ留まり続ける事が無い。大手商業系ギルドなど、それなりの富を蓄えている集団や組織はあるが、個人としてそこそこの富を所有する冒険者はかなり少なかった。

 そして、そのギルドでさえも、毎月のギルド運営費としてかなりの金貨を消費している。その予算はギルドメンバーから供出されているのだ。

 さらに、このアキバの街では、自治組織である「円卓会議」の活動予算に、毎月尋常では無い費用を支払い続けている。桁だけ聞けば驚く様な金額が手元にあっても、実際にそれは自由に使えない金なのだ。

 シロエ達のギルド「記録の地平線(ログホライズン)」が幸運だったのは、アンジェロというイレギュラーな存在が、この想定外の恵みをもたらしてくれた事だった。

 ミノリ達から、それこそ雑巾を絞る様にギルドの運営費を出させるのは気が引けた。さりとて、レベルだけは高いがろくに金策の手段も持たないシロエ達も、決して裕福とは言えなかった。アンジェロが指摘した通り、このギルドも例に漏れず運営状況は決して楽では無いのだ。

 それをアンジェロは、自らが手に入れた高価値のアイテムを気軽に分配し、ギルドの数ヶ月分の運営費に匹敵する金貨も1人で出してくれたのだ。

 この予想外の出来事で、一次的にではあるがギルドの経済状態が少し上向きになった。同時に、メンバーの懐にも少し余裕が生まれる事になった。

(気風(きっぷ)と気前が良い親分肌。まさに姐御(あねご)だな)

 アンジェロを見ながら、シロエはそう思った。


 それから数日して、円卓会議の定例会議が行われた。いつも通り、ギルドホールの会議室には円卓会議の幹部であるギルドマスターが集まった。

 今回の音頭を取ったのは、「海洋機構」や「第8商店街」などの大手商業系ギルドだった。

 一通り参加者が集まったところで、カラシンが説明を始める。こういう事はミチタカよりも彼の方が向いている。

「今回皆さんにお集まり頂いたのは、我々商業系ギルドから提案があるからです」

 全員が黙って彼の次の言葉を待った。

「もうすぐ、我々が大災害に巻き込まれてから1年が経ちます」

 その言葉に、シロエもにゃん太と以前に話した事を思い出した。

「そこで、言葉はおかしいのですが、『一周年記念祭』を開催したいと思います」

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