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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第2章 -平穏と鳴動ー
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修行への出発

すいません、前回からだいぶ間が開いてしまいました。今回は少し書き溜めたので、2話連続で投稿です。

 それからもしばらくは、アンジェロのダンジョン通いが続いた。しかし、相変わらず手応えは無いままで、無駄に小銭を稼ぐ日々だった。

 どうしても、経験値が入るくらい強めのモンスターを相手にしないと、こんな楽勝レベルの敵では駄目なのかも知れない。

 まず、何と言っても戦闘に緊張感が無い。そもそも、魔剣のお陰で馬鹿げた火力を持つアンジェロにかかれば、大抵のモンスターは一撃で倒されてしまう。やはり、大規模戦闘レイドクラスのモンスターが必要だった。

 しかし、基本的にレイドエリアというのは、人里離れた場所にあって移動するだけで何日もかかったりする。とても日帰りで行ける場所では無い。さらに、入場するのに何らかの制限が課せられていたりと、気軽に入れる場所でも無いのだ。

 けれど、そういった場所に心当たりが無い訳でも無かった。以前、シロエ達が攻略した「奈落の参道アビサルシャフト」だ。

 あそこの入り口の封印は賢者「リ=ガン」が解除した為、入るだけなら誰でも可能になっている。しかし、内部はシロエ達が引き揚げた後、再び自動で再構築リセットされているはずだ。ダンジョンが一度攻略されただけで、「はい、おしまい」な訳がない。

(行ってみるかな……)

 アンジェロはそう思うと、奈落の参道の情報を求めてシロエに会う事にした。

「奈落の参道の攻略情報、ですか?」

 ほとんど自室同然になった執務室で、書類の山に埋もれながらシロエが答えた。

「うん、そう。可能な限り教えて欲しい」

 アンジェロがそう言うと、

「それは構いませんが、何しに行くんです?」

 シロエの問いに、

「武者修行にね。このままだと何も変わらない気がするので」

 アンジェロはそう言うと、シロエに理由を話した。

「それで、レイドゾーンですか」

 確かにあのダンジョンなら、入るだけなら誰にでも出来る。入るだけなら、だが……。

「けれど、あそこのモンスターの強さはレイドゾーンに設定されていますから、ただのザコでもかなり違いますよ」

 シロエの言う通り、同じレベルでも普通にそこらに居るザコと、最初から多人数プレイを基本に設計されているレイドゾーンのザコとでは、強さが全然違う。特に現在の野外(地上)で、レベル90以上の冒険者のレベル上げを目的とした場合、ソロでも討伐可能なモンスターでは、ほぼ経験値は入らないと言っても良い。


 大災害直後に、「黒剣騎士団」や「シルバーソード」などの大手戦闘系ギルドがレベル91を目指した時は、パーティーによる狩りをしていたからであり、他所から購入して使用していたEXPポットの効果もあったからだ。レベル90の冒険者がソロで狩れる強さで経験値を得られる相手というのは、野外ではおそらく存在しない。

 実際、アンジェロはいくら「ドゥヴァーチャーのバードランド」でモンスターを倒しても、一向にレベルアップしていないし、「口伝」はおろか何のスキルも新たに開眼していないからだ。

 アンジェロの強さなら、野外に存在するパーティー対応のモンスターでもソロで倒せるのだが、一般的に野外はモンスターの密度が薄い為に、パーティーでは「釣り役」と呼ばれる、モンスターを自分のパーティーまで誘導すると同時に探し出すプレイヤーが存在する。しかし、ソロプレイヤーのアンジェロが同じ事をするには手間と時間が必要だった。

 結果的に効率が落ちてしまうので、高レベルモンスターの密度が高いレイドゾーン「奈落の参道」を選ぶ事にしたのだった。

 さらにハイクラスとなるレギオンエリアーー24×4の96人規模のレイドエリアーーでは、さすがにソロでは対応し切れず、モンスターに囲まれて袋叩きにされる危険があるので、ぎりぎりを考えての選択だった。

「解りました。僕が知っているだけの情報は、出来る限りで詳しく教えます。少し時間を下さいますか」

 そう言うとシロエは、筆写師のスキルを使ってダンジョンマップやモンスターの詳細な情報を、レポートにしたため始めた。

「うん、頼むよ。あたしはその間に準備をするから」

「それでは、出来たら連絡しますので、外で会いましょう」

 シロエが提案すると、

「そう?こちらから頼んでおいて、わざわざ来てもらうのは何か悪いな」

 アンジェロが言った。

「いえ、僕もたまには外へ出ないと、また直継に何か言われますからね」

 シロエが苦笑いしながら言うと、

「そうだね。気分転換もシロエ君には大事だね」

 アンジェロはそう言うと、必要な物を買う為に街へと出かけた。アンジェロは、用途別に魔法の鞄をいくつか用意しており、それぞれに食糧や薬品などを別々に分けて収納した。そして、さらにそれを番号を割り振った別の魔法の鞄へと収めた。つまり、魔法の鞄に魔法の鞄を収納するという、裏技的な事を行ったのだ。番号を付けたのは、どれが何を入れた鞄か見分ける為である。そしてしばらくすると、シロエから連絡があり、町外れで合流した。


「これが『奈落の参道』の攻略レポートです」

 シロエが、おそらくモンスターや仕掛けについて書かれた10数枚程のメモと、地図と思われる折りたたまれた大きな紙をアンジェロに手渡した。

「どうもありがとう。助かるよ」

 それを受け取ったアンジェロは、シロエにお礼を言った。

「どういたしまして。けれど、あまり無茶はしないで下さい」

「大丈夫、少なくともタイマン勝負--1vs1の戦い--なら、恐らくだけど私に勝てる奴はこの世界に居ないから。今のところは、だけどね」

 それを聞いてシロエは、実際にその通りだと思った。

(アンジェロさんにだったら、素手で殴られても僕なら即死するかもなあ)

 ふとそんな事を思ったが、素手でPKが出来るなら衛兵も出現しないかも知れないと、馬鹿な事を考えてもみる。けれど、実際にはPCがPCから危害(=ダメージ)を加えられた場合に出現する為、それは有り得ない。

 しかし、見た目はいかにもグラマラスで絶世の美女が、世界の最終兵器とも言うべき破壊力を秘めているとは、知らない人なら夢にも思わないだろう。うかつにしつこくナンパでもしようものなら、まさにビンタ一発で文字通り撃沈しかねない。

「ところで、やはり馬に乗って行くのですか?」

 シロエがそう尋ねると、

「いや、私1人だから、別の乗り物を使うよ」

 そう言うと、アンジェロは馬でも無く、シロエ達が持っているグリフォンを呼び出す為の笛とも違う、別の笛を取り出した。

「それは?」

 シロエが聞くと、

「まあ、見てて」

 アンジェロはそう言うと、笛を吹いた。すると、上空から羽ばたきの音が聞こえて大きな影が舞い降りて来た。

「こ、これは……」

 見上げながらシロエが驚く。

「どう?凄いでしょ」

 シロエと同じく、見上げながらアンジェロが言った。

 現れたのは、くらと手綱を付けた小型の竜だった。しかし、鋼尾翼竜ワイヴァーンと違うのは、きちんと四肢がある事と、尾に特徴的な毒針が無い事だ。


「もしかして……、ドラゴンですか?」

「乗用の飛竜だよ」

 シロエの問いにアンジェロが答える。

「こんなものまで呼び出せるアイテムを持ってるんですね」

「まあね、ただ、ちょっとこれも条件があってね」

「どんな条件なんですか?」

 シロエが尋ねると、

「呼び出すのとは別に、乗るのにはまた別のアイテムが必要なんだよね」

 そう言うと、アンジェロは魔法の鞄からラグビーボール程もある肉の固まりを取り出して飛竜に与えた。

「それは、何ですか?」

「これはね、NPC売り専門アイテムの『謎の肉』。詳細はあたしも知らない。PCには普通に入手する事も生産する事も出来ず、特定のNPCからしか購入出来ない。しかも、1個で金貨100枚が必要」

「それはまた、高額ですね」

 シロエが驚きながら言う。基本的に、一般的な乗用の馬やシロエ達も使うグリフォンなどの乗用モンスターは、呼び出しアイテムさえあれば呼び出してそのまま乗る事が出来る。しかし、呼び出すアイテムとは別に、乗る為に使い捨ての専用アイテムがあるなどという設定の物は、かなり珍しい。

 しかもそのアイテムが高額なのだ。金貨100枚という金額が冒険者の一日の生活費に比べていかに贅沢かと言うと、安宿の料金が一泊で金貨10枚や、食事に使う金貨もせいぜい料理1品で5枚くらいだという事を考えれば理解出来るだろう。

「まあ、そういう事もあってね。使う人も居なければ、そもそも入手しようって人も居ない訳でね」

 アンジェロはそう言うと苦笑いした。

「それで、その飛竜はどういったスペックなんですか?」

 シロエが聞くと、

「まあ、もちろん手間とコストに見合った能力はあるよ。火炎の息ファイヤーブレスを始めとして下手な雑魚ざこなら蹴散らせるくらいの戦力と、飛行速度はグリフォンのさらに2倍。連続使用時間も6時間ある」

「なるほど、それは確かに」

 シロエはうなづいたが、移動する為の乗り物としてなら、コストパフォーマンス的にはグリフォンの方がはるかに勝るだろう。何より、乗る為のアイテムの入手が面倒で高額だからだ。グリフォンなら呼び出すだけでいい。

「じゃあ、やっぱり……?」

 シロエが尋ねると、

「うん。持っているのは、せいぜい私くらいだ」

 アンジェロは、そう言うと「あはは」と笑った。

「さすが、レアコレクター」

 そう言って、今度はシロエが苦笑いを浮かべた。

「さて、こいつを使えば日帰りで行ける距離だけど、しばらくあっちに篭る事になるから、ギルドのみんなには宜しく頼むよ」

「解りました、お気を付けて」

 そうシロエと言葉を交わすと、アンジェロは飛竜に乗って「奈落の参道」へと向かった。日本地図で言うと東北地方、青森県くらいにある「ティアストーン山地」の地下、「パルムの深き場所」の、さらに最深部だ。

 おそらく、100km/hかそれ以上出ているであろう乗用の飛竜は、まさに風を切る速度で飛行しているが、それに乗っているアンジェロはき出しの生身であり、本来ならば結構な寒さや風圧に長時間耐える事になるのだけれど、冒険者としての強靭な肉体はそれをものともしない。

 確かに寒さは感じるが、それよりも飛竜に乗って空を飛ぶ事の爽快感の方が、それを上回っていた。なお、ティアストーン山地は、鋼尾翼竜の集団生息地になっている。シロエ達とは違い、乗用飛竜に乗ったままでもアンジェロの戦闘力は桁違いだし、飛竜自体も鋼尾翼竜に比べればそれなりの強さだが、空中での面倒事は御免だった。遠くに見える鋼尾翼竜の集団を遠巻きにして、アンジェロは「パルムの深き場所」の入り口を探した。

 この世界は、「ハーフガイアプロジェクト」によって形成されており、アキバからススキノまでは直線距離で現実世界の半分、およそ425kmある。その手前のティアストーン山地までは、大体300kmくらいと思って良いだろう。

 シロエ達は、かつてセララを救出にススキノまで行く途中、徒歩なら2週間はかかる距離を、グリフォンを使用しながらここまでおよそ3日で来たが、アンジェロはわずか4時間弱で到達した。

 そして、「パルムの深き場所」へ入ってからの道中、さしたる障害も無くその奥にある「奈落の参道」へと、アンジェロは足を踏み入れた。

乗用飛竜は、オリジナルの設定です。「奈落の参道」への移動に関して、何かおかしい所があれば修正いたします。

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