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ログホライズン外伝if ~1人で行う世界制覇~  作者: 夜の狼
第2章 -平穏と鳴動ー
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団欒(だんらん)。

 更新が遅れてすいません。今回は、他愛も無いおしゃべりが中心の、ほのぼの回です。

 レイネシアは、早速アンジェロが手土産に持って来たチーズケーキを、小さくフォークで切り取って口に運んだ。そして、

「ん~、何ておいしいのでしょう。素晴らしい腕ですわ、アンジェロさん」

 レイネシアが、感動して言った。

「ありがとう、レイネシア。私の事もアンジェロでいいよ」

 アンジェロはそう言ったが、やはり目上の者を呼び捨てにするのに、レイネシアは抵抗を覚える様だった。

「いや~、驚いたわアンジェロやん。ほんまにおいしいで、このケーキは」

 マリエールもうれしそうにそう言った。

「本当ですわ。うちのギルドでスイーツ専門の料理人として、雇いたいくらいですわ」

 リーゼも感心した口調で話す。その横で、無言だが満足げな表情でアカツキもケーキを食べていた。

「ただ、私は洋菓子しか作れないもんで。水羊羹ようかんなんかの和菓子スイーツは無理なんだよね。あと、実は飲み物も作れない」

 アンジェロが、少し苦笑いしながら言った。

「あら、これだけの技量がありながら、お茶が淹れられないのですか?」

 ヘンリエッタが、意外そうな顔をして言った。

「うん。だから今は新妻のエプロンが無いと飲み物が作れないんだけど、あれ、あんまり使いたくないんだよね。何せ見た目が……」

 そう言うと、アンジェロは人差し指で鼻の頭をかいた。

「でも、結構可愛いですよ、あれ」

 セララが言った。

「だから、なんだけど……」

 それを聞いて、少し困った様にアンジェロがこぼす。

「え~、ええやん、あれ。うちは似合うと思うねんけどな~」

 マリエールが言ったが、

「それは勘弁して」

 アンジェロが冷や汗で言った。

(全く。男があれを着けているのは、どうも”そっち系”みたいであまり想像したくない)

 と、アンジェロが思っていると、遠く離れたどこかで、誰かがくしゃみをした様な気がした。

「それにしても、冒険者と言う存在は、つくづく不思議な存在ですね。こんなにおいしいケーキが作れるのに、お茶が淹れられないなんて」

 レイネシアがそう言って、くすっと笑った。

「そうなのだ。アンジェロは不思議なのだ」

 アカツキが言った。

「そういうアカツキだって、十分に不思議系美少女じゃない?」

 アンジェロが言うと、

「わ、私は別に不思議系では無いぞ」

 そうアカツキが言い返したが、普段の行いから誰が見ても不思議系であるのは間違い無かった。ただ、この場合のアカツキに対する不思議系とは、言葉遣いや行動や雰囲気が独特であり個性的と言う意味合いが強い為、それを理解している皆は、特にアンジェロを非難したりはしなかった。

「私は、アカツキちゃんが美少女である事は、否定しませんわ」

 ヘンリエッタがそう言ってアカツキをじっと見るので、アカツキはびくっとなって少し萎縮した。しかし、マリエールにヘンリエッタ、アカツキにリーゼにレイネシア、それにアンジェロまで加わって、まるで小規模な美女コンテストである。


「でも、皆さん本当に綺麗ですよね。私なんか、とても……」

 気後れしたセララがそう言うと、

「何言うてんねん。セララも十分かわいらしいで」

 マリエールがそう言って、セララの肩をパーンとはたいた。実際に、セララはススキノで「ブリガンティア」による女性狩りのターゲットにされた事があり、彼女達とはまた違う魅力を持っているのである。

 そもそも、エルダー・テイルの世界にはそれなりの美男美女があふれているのだが、誰も好きで自分のキャラクターを不細工にしたりは(多少例外もあるが)しないので、ある意味当然でもある。NPCに関してもそれは必然であり、誰も見たくない様なキャラクターを女性ーー特にお姫様ーーにしたりはしない。

「セララさん」

「は、はいっ!」

 不意にアンジェロがセララに話しかけた。セララは、いきなりで驚き背筋をしゃんと伸ばしてしまった。

「内面が美しい人は、自然とそれが表面にも現れるものさ。セララさんは美人だ、うん」

 アンジェロがそう言うと、

「あ、ありがとうございます!」

 セララはそう言って、お辞儀をした。

「せやで。アンジェロやんは実にええ事言うなあ」

 それを聞いて、マリエールがうんうんとうなづいた。その光景を、レイネシアは微笑みながら見ていた。

(アンジェロさんは、本当に不思議な方だわ。どうして今までお会い出来なかったのかしら)

 しかし、その理由をレイネシアは知る由も無かった。

「どう?エリッサ。あたしの作ったケーキは?」

 不意にアンジェロに水を向けられて、エリッサは少しとまどった。

「はい、とてもおいしいです。まさか姫様と席を同じく出来ただけでは無く、同じ物を頂けるとは思いませんでした」

 それは、エリッサの素直な気持ちだろう。中世ヨーロッパにも似た貴族社会では、使用人があるじと食卓を共にして、さらに同じ物を食すなど考えられない事だろうからだ。

「あたし達は冒険者だからね。冒険者には上も下も無いし、身分だって無い。全てが自由だからね。レイネシアもエリッサも、今はあたし達の仲間みたいなもんさ」

 アンジェロがそう言った。冒険者にとって身分の上下があるとしたら、それはギルドマスターとサブマスターと、後はパーティーリーダーくらいなものだろう。

「うらやましいですわ」

 それを聞いて、レイネシアがため息混じりに言った。貴族に生まれたばっかりに、身分というものに縛られて、やりたい事もやれず、言いたい事も言えないまま、ずっと過ごして来た。そして、これからもそれが続くのだろうと、レイネシアは思っていた。

 しかし、冒険者と関わって、あの「ゴブリン王の帰還」事件からレイネシアは変わって来た。ぐうたらで面倒くさがりで「ずぼら」なのは相変わらずだが、初めて自らの主張を口にしたあの時から、彼女は変わって来た。

(それと言うのも、あの妖怪のせいですわ……)

 レイネシアは、クラスティの事を考えると、苦々しいと同時に少し複雑な気持ちにもなるのだった。

「そんなに良いと思うなら、レイネシアも冒険者になるか?」

 アカツキが、不意に突拍子も無い事を言った。

「え!?」

 それを聞いて、思わずレイネシアは紅茶を噴き出しそうになった。

「さ、さすがにそれは無理です。それが出来たらどんなに良いでしょうけど、貴族として生まれた以上、私にはまっとうしなければならない責務せきむがありますし、それらを全て放り出す訳には参りません」

 レイネシアは、辛うじてそれだけを話した。

「まあ、せやろうな」

 マリエールが言った。

「貴族と言うのは不便なのだな」

 言い出したアカツキが、そうつぶやいた。

「ま、まあ、そう言うアカツキちゃんの気持ちも解らなくは無いですわ。レイネシア姫の事を、いつも近くで見ていますものね」

 ヘンリエッタが言ったが、どうもこういう所は天然なのがアカツキだ。

「でも、本当にそうなったら、エリッサはどうなるのさ?」

 アンジェロがそう言うと、

「あ……」

 と、全員が同じ顔をした。レイネシアが姫である事をやめたら、侍女のエリッサは失業である。

「いやあ、そこまでは考えつかんかったわあ。アンジェロやん、鋭いなあ」

 マリエールが感心した様に言った。

「もしそうなれば、私はどこまでも姫様とご一緒いたします」

 エリッサはそう言ったが、

「いえ、そもそも2人共最初から冒険者にはなれないと思いますわ」

 リーゼが言うと、

「それもそうだ」

 と、アカツキがいかにもと言った顔をした。ルンデルハウスの様に、かなり特殊な例外はあるが大地人はーー最初から冒険者のNPCであるなど、何らかの設定が無い限りーー冒険者になれない。仮に一緒に冒険に行く事があっても、戦闘能力が無いのではお話にならない。そもそも、レイネシアやエリッサには戦闘スキルも無いのだから……。

「私、剣も握った事がありませんのに、冒険者なんてそもそも無茶です」

 レイネシアがそう言うと、

「食器より重たい物なんて、持った事無いやろなあ」

 と、マリエールが言った。

「お姫様ですもんね」

 セララが後からそう付け加えた。どこぞのゲームには、お姫様が自ら武器を取って戦うものもあるそうだが、基本的にお姫様というのは、守られたり、さらわれたり(?)、助けられたりするものだ。実際に、レイネシアにはその価値がある。


「戦うプリンセス、かあ。まあ、確かにレイネシアには向かないかもね」

 アンジェロがそう言うと、レイネシアは過去に「ゴブリン王の帰還」騒ぎで、無理矢理武装させられた事を思いだした。

(あの時もやっぱり、あの妖怪が一枚噛んでいましたけど)

 もっとも、この場合の妖怪は2匹である。共に眼鏡をかけた「クラスティ」と「シロエ」の2匹の妖怪だ。

「そう言えば、だいぶ前に形だけならレイネシアも武装した事があるな」

思い出したくもないその過去を、アカツキがあっさりとしゃべった。

「確か『ゴブリン王の帰還』の時、でしたわね」

 リーザが、こちらも思い出した様に言った。

「あの時は、アカツキやんが姫様の着付けをやったんやっけか。出来ればうちがやりたかったわあ」

 マリエールがそう言ったが、彼女に任せたら、あの時よりさらにとんでもない物を着せられた可能性が高い。

「マリエに任せたら、成功するものも失敗します」

 ヘンリエッタがそう言うと、

「そんな事無いでえ?それにどうせ、レイネシアに何を着せたっても、結果は同じやったと思うで?」

 マリエールがそう返した。

「それはそうかも知れませんが、だからと言って、あの場面でコスプレは有り得ません!」

 ヘンリエッタにそう言い切られて、マリエールは両手の人差し指同士をつんつんさせて、少ししょげた振りをして言った。

「ええやん、別にい。そういう所がヘンリエッタは頭が固い言うねん」

「そういう問題ではありません!常識の問題です!」

 ヘンリエッタに畳み掛けられて、マリエールがさらにいじける。

「ええもん、ええもん。次はヘンリエッタに内緒で、もっとええ服用意して来るもん」

 それを聞いて、レイネシアは一瞬目が点になりかけた。

「さ、さすがにそれは……」

 たじたじになったレイネシアがつぶやくと、それを聞いたアンジェロが、

「心配無いよ。場合によっては、私が全力で止めてやるから」

 と言ったので、

「え~ん、アンジェロやんまで邪魔するう、みんないけずやあ」

 そう言ってマリエールが泣き真似をしたので、全員が笑った。


 楽しいお茶の時間も、やがてお開きになり、アンジェロとアカツキもレイネシアに挨拶をして彼女の館を後にした。

「今度は、また何か違う物を持って来るよ」

 アンジェロの言葉に、

「はい、期待しています」

 レイネシアがそう言うと、アカツキが、

「今度はあんパンを沢山持って来て、皆で食べるのだ」

 と、言うので、

「そうですね、あの味は私も好きですわ」

 レイネシアは微笑みながら、そう答えた。

 お互いに手を振って別れ、アカツキと魔剣を背負ったアンジェロの後ろ姿を見送りながら、

(あんな凄い武器を振り回すなんて、やっぱり私には無理そうですわ)

 と、自由な冒険者の生活への憧れを、心の内にしまい込んだ。

 おかしい所があったら修正しますので、ご意見などありましたら遠慮無くどうぞ。

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