飽きた魔法様、身代わりを探す
ヴァリスは毎日をのほほんと過ごしていた。
「シュナイダー」
お気に入りの河童のような見た目の鉱石を磨き、人形遊びをするように話しかける。
「いらっしゃいませ!」
仕事もしっかりとこなし、お客にも人気だ。
「飽きたのじゃ!」
そしてあっという間にそんな日々に飽きてしまった。それを予想していたのか店長のカルネルは頭を抱えた。
「もう、もうなの? そのうち言い出すかと思っていたけど、早すぎるわ!」
「わしはもっと刺激的で素敵な日々を送りたいのじゃ!」
腕をぶんぶん振り回す少女。普段なら心穏やかに見ることができるが、まったく持ってカルネルには勘弁してほしい光景だ。
ヴァリスが接客を始めてから売り上げがかなり伸びている。それもいつもお腹を空かせ、まるで呪いの様に食べ続けるヴァリスがチップの代わりに店で注文させているからだ。
この状況下でいなくなってしまうと今後の店の売り上げどころか、店の存続が大ピンチになる。ここはなんとしてもヴァリスを引き止める方法を考えるべきだった。
「ね、ねえ、ヴァリスちゃん。なら条件を出しましょう!」
「条件とな?」
「ヴァリスちゃんの代わりにしっかり働いてくれる子を見つけてきて頂戴。そうしたら素敵なご馳走でヴァリスちゃんの送迎会を開いてあげる!」
「おぉ! 了解じゃ!」
明らかに面倒くさいだけの条件だったが、気がつかなかった。素敵なご馳走というワードにつられてしまったのだ。本当に出て行きたければカルネルに止める術はない。
それに無茶な注文をしたとカルネル自身もわかっている。これでしばらく時間が稼げる。その間にヴァリスがいなくなっても店がつぶれない方法を考えればいいのだ。
苦肉の策である。
「それじゃあよろしくね」
「ボンヘー!」
ヴァリスは早速店を飛び出し、非番であったボンヘーの家へ突入した。
「うひゃあ!」
男の癖に編み物をしていたボンヘーは椅子からひっくり返っていた。ボンヘーはヴァリスのスカートの中が見えるポジションにいたが、当の本人はまったく気にしていない。
それにラッキースケベといってもボンヘーが好きなのは色気のあるお姉さんタイプなのでまったくうれしくなかった。
「相談に乗るのじゃ!」
首根っこをつかみ、外へ引きずり出す。忘れられそうになるがヴァリスは超級の魔族であり、力がとんでもなく強いのだ。
「ひひ、引きずらないで! ズボンが破ける、買ったばかりのズボンが破ける! 少ない給金なけなし給金、新品ズボンが破けちゃう!」
「おぉボンヘーはラップを歌えるのじゃな。即興で作るとはなかなかのやり手じゃ!」
結局公園まで引きずられ、お尻に大きな穴を開けてしまった。半泣きになりながらヴァリスの相談事を聞くとボンヘーは少しだけ迷った。
カルネルの苦肉の策を読み取り、放っておいても大丈夫だと思う。時間があればカルネルが何とかするだろうし、次にヴァリスが爆発したときには止めることはないだろう。
しかし、ヴァリスはちゃんと自分が抜けた穴を埋めるべく行動している。
「そうだね、あんまり褒められた手段じゃないけどスラム街の子供を雇うとか、教会で保護されている子供を雇うとか、かな?」
スラムに住まうストリートチルドレンは荒れた者が多く、チームを組んでいることが多い。たった一人だけを雇うとなると問題がある。
教会の孤児を雇うとなるとそれも問題だ。教会も慈善事業で孤児を保護しているのではなく、ちゃんとそれぞれ仕事をしている。それを引き抜くのは大変だ。
「うー、ならばどうすればいいのじゃ?」
「とにかく声を掛けてみるしかないね。でもスラム街はだめだよ、危ないから」
余計なことを言ったかなと心配するボンヘーだった。