初めての友達
ヴァリスは川を発見し、それに沿って歩く。生き物にとって水が必要だと知っているので、下流に沿って歩けばそのうち人里や魔族の村につくと判断しての行動だった。
水に触れるのが楽しく、靴を脱いで川を歩く。深い場所は下着姿になって泳ぐ。水浴びも兼ねた素晴らしい移動手段だと彼女は信じている。
「気持ちがいいのう」
体を冷やして体調を崩すことはない。丈夫な魔族なのだから、極寒の地でも問題ないだろう。潜水したりバタ足をしたり、遊んでいる姿はまさに子供だ。
そして運命の出会いをする。
「お、おぉ!」
水の中で見つけた人の頭ほどもある鉱石。拾い上げてみれば黒っぽく輝き、くぼみがまるで微笑んでいるかのようだった。
水から引き上げ、太陽に照らせばその輝きは増しているようにも見える。だが、頭の部分に皿が乗っかっているように見えるので河童にしか見えない。
「シュナイダー、そうお主の名はシュナイダーじゃ!」
まるで人形をもらって抱き抱える少女だった。持っているものはただの鉱石だが。
「いい艶じゃのう、もっと磨いてやるぞい」
予備の服を取り出して磨く。歩き続けながら鉱石を自分の服で磨いている少女。非常に危ない人にしか見えない。
すると、少し離れた場所に大角鹿が水を飲んでいる。その姿を見てヴァリスは空腹を思い出した。2日も前から川で遊んでいて食べていないのだ。
「今日の食事じゃ…ん? どうしたシュナイダー? え? 仕留めてくるじゃと? よし、任せた!」
鉱石に話しかけている。そしておおきく振りかぶって、投げた。
猛スピードで飛んでいく。命中率はあまりよくないが風の魔法を使いコントロールする。そして大角鹿の首に直撃した。
当たった首が消滅し、胴体と頭だけが残る。とんでもない威力だった。投げ出された鉱石、もといシュナイダーは反対側までダッシュしていたヴァリスがキャッチする。色々とおかしい。
「おぉ! 見事じゃ、シュナイダー! じゃが、首の肉はうまいのじゃ、次は骨を折る程度のチカラで頼むぞ?」
よしよしとシュナイダーを撫でてから血の汚れを落とす。
「今日はシュナイダーとの初めての共同作業じゃ!」
大角鹿の血抜きをする。ある程度はツボに入れて残す。スープかドリンクにする。腹を裂いて内臓を取り出す。内蔵はその場で洗い、肉も洗う。毛皮も剥いでおく。掛け布団替わりにするのだ。
水の刃を作り出し、ちょうど良い大きさにする。なんと彼女は形を整えたほうが火の通りが均一になることにやっと気がついたのだ。アホである。
「シュナイダー、頼むぞ!」
火の魔法でシュナイダーを加熱する。その上に1キログラムほどの肉の塊が乗る。ジュージューといい音が鳴り、食欲をそそる。表面に色が付いたところでひっくり返し、同じように焼いていく。その間、口が淋しいので生で肉を齧る。豪快な刺身だ。
「できた! 素晴らしい焼き加減じゃシュナイダー、褒めてつかわす!」
素手で掴んでいるが、この程度の温度で火傷などしない。色々と彼女は規格外なのだ。
シュナイダーを褒めながら夕飯を食べ、綺麗に洗う。そして抱きしめながら夜を過ごすのだった。