復活、そして食レポ!
ヴァリスが向かったのは図書館だった。魔法の本は劣化しない。ここに自分が出るためのヒントがあると確信していた。それからはひたすら魔法人形が四散するまで本を読み、クリスタルの中で実践をする。それをひたすら繰り返す。
やったことがない封印の解析も始めている。
「魔法とは奥が深いのう」
彼女からすれば1年も、封印の魔法の複雑さから考えればたった1年で封印は解かれた。もともと強大な魔力は持っていたのだ。それを操る術があればすぐに出られたのだ。
「やったのじゃー!」
天井にめり込むほど飛び跳ね、壁をバシバシ叩いて壊したり、まさに狂喜乱舞といった有様だった。彼女はひとしきり喜んだ後、魔法人形を操作していた時に見つけた財宝を収納魔法で自分の物にした。いくら彼女が世間知らずだからといってお金がなくては何もできないくらいは知っている。
「おぉう! 魔法の衣装はまだ平気みたいじゃのう!」
魔法がかかり、劣化しないものを漁る。その様子は普通に遺跡泥棒だ。彼女からすればここにあるものは全て自分のものだという認識なので、それは間違ってはいない。
意気揚々と出発した。
そして自分がズレていることに早々と気がついた。まずは歩くだけで周囲の木々が禍々しく成長する。どうやら自然にしているだけで漏れる魔力で影響を及ぼしているらしい。そして野生動物や魔物すら彼女の気配を察し逃げていく。
それは文字通り歩く災害なのだ。
「うにゅぅ」
いったん城に引き返し、魔力を抑える練習をすることになったのだが、クリスタルの中にいた時と違い、空腹を感じる。普通に食べられそうなものは朽ち果てた城には存在しない。空腹に耐え兼ねた彼女は木をボリボリと貪る。
彼女は強力な肉体を有している。なのでそれくらいのもので腹を下すことはない。
「ほんのり苦くて意外とうまいのじゃ!」
新しい発見である。
しかし蝶よ花よと育てられた少女が飢えを凌ぐために木々を貪る姿はなんとも物哀しい。もし魔王が生きていれば世界中の食べ物を集めていただろう。
木をまるまる1本食べ尽くし、水の魔法を使って水分を補給すると練習再開だ。1ヶ月ほどの練習が必要であったがなんとか魔力を抑える術を手に入れた。
その頃にはかなり木々が彼女に食い尽くされた。燃費が悪いらしく、日に3本は食べていた。もし彼女の大好物が木なら周辺の森は荒地に変わったであろう。
こんどこそ出発して彼女は感動に打ち震えることになる。それは花だ。
ピンク色の小さな花。それを頭に付け、クルクルと踊る。手のひらに乗せて微笑む。
そして食べた。
「美しいのう! かわいいのう! そして美味いのう!!!!」
見て良し飾って良し食べて良し。世界で完璧な植物だ。そう信じている魔王の一人娘ヴァリス。
…滑稽である。
彼女の旅はやっと始ま…らなかった。
「うひょ~!」
彼女はこの森の美味いものを探すために探索していたのだ。そこらの葉っぱをむしって食べ、珍しい樹は齧る。蜜に群がる昆虫を叩き落とし舐める。それはもはや原始人だ。
そして彼女は出会う。角兎と呼ばれる、そのまま、角の生えた兎だ。それを炎で丸焼きにして食べた瞬間、空を飛ぶ気分になった。実際に飛んでいたが。
「美味い! なんという美味さじゃ! 肉汁と血液が見事なハーモニーを奏で、骨の歯ごたえが調和しておる! そして脳みそは優しき味! 内蔵のクセになる匂いも素晴らしいのじゃ!」
あまりの感動に魔力が漏れてしまい、天が裂け、地が呻る。周辺国家は天災の前兆だの、魔王が復活しただの大騒ぎをしていたが、実際は感動したアホな娘が騒いだだけなのだ。
…迷惑極まりない。
「肉、肉じゃ! わしの主食は肉で決まりじゃ!」
こんなことを繰り返しているのだから遅々として進まない。実際に後ろを振り返ればまだ城が余裕で見えるのだ。しかし、目的地もなければ時間も気にしない。彼女にとっては十分すぎる旅なのかもしれない。
「ジャジャーン、今日のフルコース。なのじゃ! スープはゴブリンの生き血、飲み物は果実を搾って水で薄めたジュース、サラダは葉っぱにぃ~」
かなり溜める。
「どーん! ゴブリンの丸焼き! デザートはぁ~、バーン! ゴブリンのハチミツ脳みそゼリー!」
とんだゲテモノ料理である。それでも彼女は美味しそうに食べる。普通の者が見たら吐き気を催すフルコースであろうとも、彼女にとってはご馳走なのだ。
…とんだ悪食である。
「うひょー! よく分からぬ果実を隠し味にしただけあってスープが濃厚じゃ! そして甘い味のする葉っぱもシャリシャリしてて美味い。これがデザートでも良かったのう! ゴブリンの丸焼きは非加減が絶妙じゃ、流石わし! そしてー、ハチミツゼリーは最高じゃ! 甘くて美味しい、心が癒される味わい!」
悪食である。
「肉と血は置いておくと酸っぱくなるんじゃな! 次はもう少し置いてみるかのう!」
腐っているだけである。
「わしって天才じゃ!」
ただのアホである。
周辺の食せるものを味わい尽くし、やっと歩き出す。目的はないが彼女の旅がやっと始まるのだった。