山で見つけた小さな小屋
彼はお寝坊さんだ。そしてとんでもなく無口。
「おはよう、もう朝だよっていうか昼に近いよ?」
「ふあぁぁ」
この野郎、あくびと返事が混ざってやがる。
うんと背を伸ばしてもう一回大きなあくび。首の骨をポキポキ鳴らすのはやめてほしい。あの音苦手なんだよね。
「今日は休むの? それとも軽く狩りに行く?」
彼は冒険者だ。正直そんなに強い冒険者じゃないけど私のためにがんばってくれる。それと私のためにこんな辺鄙な山奥に二人だけの家を建ててくれた。彼は無口なので行動でいつも示してくれる。
「行くか」
どうやら今日は働くつもりらしい。でも罠に掛かった獲物がないか見に行く程度だろう。変な魔物に挑戦して怪我をするよりずっといい。
「いってらっしゃーい」
私は彼が出て行くと優雅に散歩に出かける。私の趣味はこうして緑が深い場所を散歩することだ。
彼はそれを山猿の散歩とか言ってきた。本気で怒ってからは二度と言わなくなった。
少しだけ開けた、日のあたる場所には花が咲く。日当たりが悪い場所には苔がある。何年も樹齢を重ねた太い木は枝すらもしっかりしている。
「いい天気ねー」
たまに出る小さい動物たちは木の実を拾ってかじっている。
「うまいのう」
珍しさの塊である綺麗な女の子も木も実を・・・かじる?
「誰よ!!」
「ぬほぉ! なんじゃぁ!」
落ちている木の実をそのまま食べている私以上の野生児がそこにいた。
「お腹を壊すわよ、殻を剥いて煮て灰汁を取って食べなさい」
「なるほどのう、そんな食べ方もあるんじゃな」
「家に来る?」
「いいのか?」
「えぇ」
私はこの少女を家に招待することにした。落ちている木の実をそのまま食べるほどお腹がすいているなら何か食べさせてあげないと。
ヴァリスと名乗った少女は鍋は何処じゃ、水は何処で汲むのじゃ、火を付けるぞと勝手に調理してしまった。
「煮るだけで甘みが増すんじゃな!」
「まあ、確かにほんの少しの甘みはあるけど」
この少女と話をすると、なんと冒険者になったばかりらしい。迷宮を目指して隣国のオッサム王国に行く途中らしい。
見た感じはただのお嬢様だけど、見た目にそぐわない歪な鉄球を持っている。たぶんこれが武器なんだろう。見たことがない武器だ。
「迷宮に入るならもっと動きやすい格好と荷物を入れる魔法のポーチか大きめのリュックを持っていきなさい」
私も彼と一緒に迷宮に入ったことがあるので軽いレクチャーをしてあげる。
「為になるのう」
かわいい来客ヴァリスは彼の分だといって木の実を置いていってくれた。優しい子供だった。
「・・・誰か来たのか?」
「うん、久しぶりのお客さんよ」
「ねずみかな?」
「うふふ、そうね。小さなお客さんだったわ」
洗ってある鍋、テーブルに置かれた木の実。彼は不思議そうに首をかしげていた。
「あぁ、今日も疲れたな」
「そうね、またゆっくり休めばいいわ」
この山小屋で私たちはゆっくりと過ごすのだから時間は気にしないでいい。
彼は置いてあった木の実を使って夕飯を作り、私にもお供えしてくれた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
私の遺影に向かって挨拶をする。さて、彼の寝顔でも見ますか。
明日も穏やかな一日でありますように。