冷蔵庫の白雪姫
冷蔵庫を開けると、そこは青い地球だった。
土は香り立ち、吹き抜ける風は大いなる大地の恵みを含んでいる。
手を伸ばせば、丸々超えた豚や牛。たくましい動物たち。みずみずしい野菜や果物だっている。
さらに奥を見渡せば。深い蒼を讃えた大海が拡がり、
その上には、海の青を真似っこしたコバルトが、幾千の白くたなびく傍観者を従え、じいっとこちらを見下ろしている。
蒼のうちでは、銀の光を放つ幾筋もの魚たちが躍り戯れ、ふざけ合い。ときにはいたずらな海鳥たちが混ぜてもらえないことに腹を立て、ちょっかいをかけたりもする。
シャイな深海の住人たちは、必死に上を見上げてはまた黙り、いつまでも鮮やかな色彩の音楽だけを奏でつづける。
わたしは一度、大きくすうっと一呼吸。
爽やかな命の息吹がわたしの身体の隅の隅までなだれ込み、わたしの世界を色付けてゆく。
ああ、そうだ!
わたしは生きている、多くのみんなと触れ合い溶け合い生きている。
卵から産まれ、体毛を生やし、目を開け、世界を知覚し、忘れ、再び世界に溶けてゆく。
当たり前の事、皆の参画社会のこと。
わたしはどこから生まれたのだろう。今、わたしはどこにいるのだろう。
どこまでもゆくのかもしれない……、どこにでもいるのかもしれない……、
冷蔵庫を閉じると、そこはもう。わたしだった。
わたしの立つ大地だった。
再び冷蔵庫をあけたとき。わたしはきっと白雪姫。
氷の大地でいつまでも。
すやすやと、寝息を立てる白雪姫。