表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨と傘

作者: 桃源郷

思いつきですぐに書き終わった短編です。

タバコに火をつけて煙を吸い込む。同時に雨の匂いも吸い込んだようで、なんだかそれが懐かしい。そして周囲にこだます雨音が玉ねぎを炒める音に聞こえて、これもまた懐かしい。雨の日のタバコはマズイというのが私の自論だが、今日ははその懐かしさのおかげで悪くない味がする。


私は今、雨の中、傘を片手にタバコを咥えてバス停へと向かっている。どんなに雨が降っていようと、臆病な私は父の気も知らず一人で行くことにした。小さくてこの雨の前では役に立たない屋根のついた小さなバス停にたどり着いた私はバスを待つ。


激しく降る雨に五メートル先が見えない。虚空を見つめながら浮かんでくるものがある。

私の好きなハンバーグを作ってくれる姉。私は姉が調理をしている間に玉ねぎを炒める。


一手間かけることが大事なのよ。


優しく微笑んでくれた姉。年の離れた私のたった一人の姉。色の異なる制服を着た私と姉はクレープを食べながら男の話をして、家に帰ると父親が盗み聞きをする。三人で鍋をつついて、途中で寝てしまう父に毛布をかけて私の話を延々と聞いてくれる姉。


急に重力が重くなって、私の足元に水たまりができて、咥えていたタバコが重力に吸い込まれて地面に落ちる。職場での人間関係とか、退屈な休日とか、短かい足とか、二重じゃないまぶたとか、そんなくだらないことが吹き飛んで、重くて、重くて、私は傘を投げ捨てて雨に打たれながら、姉の嫌いだったタバコの箱を捨てた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ