七番
「で?何故お前は俺と付き合うと?」
「いや、それはだね。」
「早く言え。」
「分かったよ。」
「てか、蒼早くその拷問器具とってやれ。」
「はーい。」
ガチャン
「ふー、苦しかったよ。ありがとう、紅。」
「分かったから早く言え。」
「せっかちだなぁ、まぁそれはどうでもいいや。」
涼は伸びをし、俺の目を見つめて話しだした。
涼の話は、一か月前に溯る。
ピーンポーン
「はーい!どなた〜?」
ガチャン
「!?」
「久し振り〜!!涼ちゃ〜ん!」
ドアが勝手に開いたと思ったら、母が飛び込んで来た。
「もう!久し振りに会ったのにお帰りも無しぃ!!?」
母は、僕をかなりの力で抱き締めると、これまた大音量で話しかける。
「お、かえり…。」
ちなみに僕は窒息寸前です。
「それよりもね!大変なの!私の会社が!!」
「…」
「涼ちゃん?」
「とりあえずさ、離して、ね?」
「ごめんなさい涼ちゃん。私興奮すると力の加減ができなくなるから。」
「とりあえず、落ち着いて話して?」
母の話はこうだ。
とりあえず前半は、会社の株価や経営状態、年収等で潰れた。
「…でね、だから私は」
「お母さん。」
「何?急に質問なんかして?」
「さっさと本題に入って。」
「あぁ、ごめんごめん。じゃあ省くと、お見合いする事になりましたー!」
「お母さんが?」
「いいえ、あなたよ?」
「嘘?」
「本当!」
「却下!!!」
当然そんなの今したくないよ!!
「なんでよ!?彼氏なんていた事無いのに!」
「それは関係無い!」
「とにかく!涼が心に決めた人がいない限り、お見合いは止めません!!」
「そんな、馬鹿な話がある!?」
「つべこべ言わない!!」
はい、回想終わり。
「そんな馬鹿な話がかんのかよ?」
「あったわけよ!」
「それで?」
「協力して!お願いします!」
「…う〜ん、涼がそこまで言うならやってあげてもいいかもな。」
「ありがとう!紅、君はやっぱり大好きだー!!!って、あれ?」
涼が俺に抱き付いた瞬間に、周りからは凄まじい殺気が溢れ出した感じがした。
「あの、親友として、だよ?」
一応こう言っとかないと命にかかわるし。
「なら良いよ♪」
うん、言って良かった♪じゃないと八つ裂きにされてたよ♪
「でもな〜。」
紅が考え込む様に呟く。
「どうした?紅。」
貧血か?
「いや、なんか成功する確率が低いな〜と、思ってな。」
確かに、あの人が相手だとヤバいな。
「母さんでも騙せるくらいの作戦てある?」
「あの人を騙すには並大抵の事だけではすまないからな〜。」
「なんか大変だね?」
「お前の事だろうが!」
「そでした♪」
「はぁ、とにかくお互いの息を合わせたり、情報を知っとかないと。」
「そうだと思って、ほらこの通りまとめてみたよ。」
涼は、そう言って国語辞典並の分厚い紙の束を出す。
「ほ〜、じゃあ始めますか!」
「そうだね!」
一時間後
「なんとか出来たな。」
「そだね〜。」
なんとか情報は詰め込んだとして、と。
「次は細かな打ち合わせをするぞ。」
「分かった。始めよう。」
さらに一時間後
で、出来たな。
「疲れた。」
「本当に疲れたね。」
「てゆうかもう夕方だぞ?」
「今日で全て終わらすかい?」
「う〜ん、…今日のうちに終わらせようか。」
「じゃあ、頑張ろうか。」
そうして、次の朝になった。
「さて、一眠りしますか。」
訳の分からない書類を机に置いて、首を鳴らしながら涼は床に転がる。まさに猫の様に。
「猫かお前は。」
「そうで〜す。猫で〜す。」
床の上をハイハイで移動し、俺のベッドに這い上がる。
「俺のベッドで眠るのか?しかも朝から。」
てかこの書類何書いてるか分かんねぇよ
ぷすぅ〜
おい、今のってまさか。
「屁だよ。」
「な!?」
「女に幻想見ていると痛い目見るよ。」
「て、待てや!俺何も言ってないよな!?」
「気ニシナーイ!」
「パクるな!」
「女だって人間だよ?屁くらいするよ。」
「いや、知ってるよ。」
「じゃ、お休み。」
「はぁ…」
本当に寝たな。しかも五秒で、早え〜。
カチャ
「起きてる?お兄ちゃん。」
ドアが開いたと思ったら、桃が入って来た。
「何か用か桃?」
「え、いや、ただ様子見に来ただけ…。」
涼ってとことん信用ねぇな…。
「涼はもう寝たよ。」
「え!そうなんだぁ…」
なにこの驚きよう?
「そこ座って良い?」
桃が指差したのは、さっきまで、涼が座っていた場所だ。
「良いぞ?」
「ありがと。」
桃が座ったのを見届けると、ずっと疑問に思っていた事を口にした。
「ところで、あの時は上手く出来たのか?」
桃は一瞬考えたが、すぐに思い出して顔を輝かす。
「うん出来たよ!」
「よし、良い子だ桃。」
俺は桃の頭を撫でてあげる。
「だけどアレで良かったの?」
「そうだ。ああでもしなきゃ、ストーカーをおびき寄せれないだろ?」
「そだね。でもチョット可哀相だったよ?」
まぁ、罰って事で。
「当然の罰だ。」
「そだね♪」
一瞬桃の後ろに悪魔が見えた…
「でも大変だったよ〜?セキュリティが無駄に厳しくて。」
言い忘れてたが桃はハッカーだ。しかも超一流の。
「ねぇお兄ちゃん。」
「なんだ?桃。」
いきなり真剣な顔して?
「二千万もの大金どうしたら良いかな?」
「…それは、どうしたらいいのかね。マジで。」
てゆうか、返えして無かったの?
「それがね。口座ぶっ壊しちゃったから出来ないの。」
わお、そりゃあ…
「お金が元でバレそうだな…」
「お兄ちゃん…そこは普通、大金持ちだー!って喜ぶところじゃない?」
「俺あんま金に興味ねぇもん。」
「…さいですか。」
まぁ、全く無いかって聞かれたら、少しと答えるけどな。
「まぁ、その金は適当にどこかへ寄付する方がいいな。」
「そう…お兄ちゃんがそう言うならそうするよ。」
「ありがとう、お前はホント良い妹だな。」
少しがっかりしたような桃の頭を、優しく撫でてあげる。
「それよりも…」
「ん?」
「どうして涼先輩の頼みを引き受けたんですか?」
俯きながら、桃は声を低くして聞いてきた。
「?どうしてって?…簡単な事だ。」
「?」
「友の頼みだからだ。」
「でも今回のは…!」
「あぁ、それでも友の困っているのを見るよりもマシだ。」
「……そう、分かった。私も涼先輩の為に協力するよ。」
「ありがとう、桃♪」
そう言って桃を抱き締めてあげる。
「え、お、お兄ちゃん!?」
「桃、宜しく頼むな。」
「…え、あ…うん!頑張るよ♪」
「よし、じゃあ涼起こして始めるか!そろそろ時間だから。」
そしてベッドで寝ている涼に向かって枕を投げた。
「はぐ!?」
「命中♪」
「〜〜!…いきなり何するんだ紅…!」
「早く行くぞ。」
「?どこに行くってんだい?」
「お前の親んとこ。」
「………正気かい?」
「おう。」
早いとこ終わらせねぇと桃とかがうるさそうだからな。
「分かった。行くよ紅。」
「おう。」
涼はベッドから降りて立ち上がる。所々に寝癖をつけながら。
というかこの短時間によくそんなにつけたな。
「お兄ちゃん?突然ぼーっとしてどうしたの?」
桃が心配そうに顔をのぞき込む。
「すまんすまん。なんでもないから、涼行くぞ。」
「君が早く来い。」
ガチャ
「「「?」」」
「やぁ、おはよう。」
「お疲れ様です。」
ドアが開くと、涼と鈴がそれぞれ違う挨拶をして入ってきた。
「どうしたんだ?蒼に鈴?」
「どうしたって…そんなの」
「「涼が紅(君)に何かしてないか心配で来たに決まってる(じゃないですか)。」」
…ホントに涼って信用されてねぇな。
「ククク、僕がそんな事する筈ないだろう?」
((((確かに))))
「大体、僕が好きなのは女の子だよ?」
「まぁ、実際何もしなかったしな。」
「…その通りかもしれない。」
「…そうかも。」
「…そうですね。」
皆渋々といった感じで納得する。
「そんな事より、涼早く行くぞ。」
「あぁ。」
「!紅どこへ行く?」
「もう涼先輩の親に会いに行くんだって。」
「早くないか?」
「大丈夫。丁度いい頃合だ。」
「そう言う事だよ、蒼。」
涼が蒼をなだめるように言う。
「心配しなくても、紅とイチャついたりはしないさ。なぁ?紅。」
「そうゆう事。」
「そうか…なら、いってらっしゃい。」
「おう、いってきま〜す。」
「無理はしないようにね〜?」
「分かってるって、心配しなくてもだいじょうぶだからなー。」
「ククク♪」
そして俺と涼は家を後にした。
「ホントに愛されているね、紅は♪思わず妬いてしまうよ。」
「どうも。」
「それにしても、僕の信頼も全くと良い程無いね。」
「自業自得だ。」
「まあね♪」
「とにかく、手筈通りにやって、終わらせなきゃな。」
でなきゃ後が恐えー。
「そうだね。じゃ、頑張ろうか、二人で♪」
「はいはい。」