ファースト
「蒼」
「何?」
「頼むから止めてくんないかな」
「何を?」
蒼はとぼける。
現在の俺が置かれている状態は、一言で言うと、かなりいい。だが!
「裸でくっつかないでくれ」
「ええ〜!気持ちいいのに?」
そう!今俺が置かれている状態は、蒼が裸で添寝しているのだ!だが俺も漢だ!嬉しくない訳が無い。だがな。この状態が続くと、俺の理性がぶっ壊れちまうんだよ。
「もっと一緒にいようよ〜」
「いや、だからさ、服着てくれ。頼むから」
「い〜やっ!」
コイツ!って、え!?チョット待て!パンツに手を入れやがった!?
「うふふ〜、紅を裸に〜♪」
「おい!?待て!待て!それは止めろー!」
願いも空しく、蒼にパンツを奪われた。
「わぁ、おはよ〜、紅の〇〇〇〇♪」
「こら、返せパンツ」
「い〜や〜だ!」
蒼からパンツを取り返すべく、身を乗り出して腕を掴む。が、元々無理な姿勢で掴んだ為、蒼に覆い被さってしまった。
「わぁ、紅って大胆だね」
「変な冗談つくな」
ガチャン!
「おにーちゃーん!起きて!?、る……」
バタン!ドタドタ!
「ありゃりゃ、桃には刺激が強過ぎたかな?」
「最悪だ……」
その後の俺は忙しかった。桃の誤解を解く為に1時間以上を費やし、朝食を抜いて学校に行くしかなかった。
「紅、顔色悪いよ?」
「誰のせいだよ」
「さぁ?誰のせいでしょう」
コイツ!本当にムカつく奴だな!
「もういい、行くぞ」
かなり疲れた……、朝からこんなに疲れると、眠くなって、…大変だ。
「大丈夫?気分悪いなら学校休む?」
「いや、いい」
くそっ、とは言ったものの、意識が、薄れ、て、き…、た……。
「わ!本当に大丈夫!?無理しないで!」
「無理はしてね、え……」
「もう!昔から体が弱いんだから無理しないでよ」
蒼の声が遠くなっていく……な…。
次に俺が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
「目ぇ覚めた?」
「覚めた」
「良かった」
「ここはどこだ」
「病院」
病院か、道理で、見覚えが無いと思ったら、運び込まれたのか。また。
「今何時?」
「10時56分」
「結構寝たな」
「ごめんね」
「謝るな」
「ごめん」
「蒼のせいじゃない」
「でも、倒れた原因は私なんだよ?」
「それでも、蒼のせいじゃない」
「優しいね、紅は」
そう言って、涙を拭う。
コイツはいつも俺を思ってくれている。そう言う事であれば、俺はコイツの足元にも及ばない。
「眠たい?」
「全然。」
「じゃあ、何か話する?」
「お前は眠くないのか?」
「ちょっと眠い。」
「だったら、寝れ。」
「嫌だ。紅と話する。」
「くま出来てるぞ。」
「いいんだよ、僕は。」
「眠ってくれよ。頼むから。」
「どうして?」
「お前の寝顔が見たいから。」
「え、え!?な、何言って…。」
「蒼の寝顔が見たいんだ。だから、寝てくれ。」
蒼の顔が、急激に赤くなっていく。
「うん、分かった。お休み、紅。」
「お休み、蒼。」
蒼は、数秒で寝息をたてて、その純粋な顔を覗かせる。
「ゆっくり休め。蒼。」
蒼の頭を撫でる。
満月か、病室から見たくはなかったな。
自嘲気味に自分を笑う。
紅の長い夜は続く。
今更思うのだが、蒼は俺が好きだ。家族として、双子として、異性として、勿論、俺も蒼が好きだ。でも、いつまでこんな日常が続くか…。
「悲しいな、今すぐにでも抱き締めたいのに出来ないのは。」
紅の長い夜は続く。
それが辛ければ辛い程、長く感じる。
紅に許されているのは、蒼の幸せを願う事。