ゼロ
「お兄ーちゃーん!」
この家の次女、中学三年生のブラコン少女黒花桃は急いでいるのか、息を切らしながら兄を呼ぶ。
「うん〜?どうした桃?」
居間から顔を出して尋ねるは、この家の大黒柱、竜栄であり、家の中で一番下の位置にいる可哀相な人だ。
「お父さんには用が無いから視界から消えろ」
「ひどっ!何で最近冷たいの〜?」
「ウザいから」
桃は、かなり冷たい視線を向けながら言った。
「お〜い、どしたの〜?」
「あ!お姉ちゃん」
階段から突然出現したのは、桃の姉であり、長男紅と双子の蒼だ。
「お兄ちゃん起きてる?」
「うん?起きてるよ?」
「ありがと、お姉ちゃん」
慌てて桃を掴む。
「紅は今貧血で休んでるよ」
「え、そうなの」
「用があるなら聞いとくよ?」
何か言うのを迷っているな。
「なるほど、僕じゃ駄目か」
「あっ、いやそうじゃなくて、ね?」
「分かってるよ〜?
紅に言いたい気持ちは分かるから。」
「ごめんなさい…。」
「お父さんには謝りはしないのに蒼には謝るの〜?」
「ウザイ黙れ。」
「あははっ!」
「ところで、お兄ちゃんはまた貧血で寝てるんだ。」
落ち込んでいる父親を無視して言う。
「うん、僕の裸を意識しちゃってね。」
「それが原因か。」
「そうだよ?鼻血を盛大にぶっかけてね。」
「いや、それはお姉ちゃんがいけないんじゃ。」
「え〜?いつも裸で添寝してるのに。」
「いやだから、発情期のお兄ちゃんにとっては刺激が強過ぎるよ!?」
「あらあら、紅ちゃんは発情期なの?」
桃と蒼の顔が引きつる。
「じゃあ、今年のプレゼントは何か、大人な本にしましょうか?」
でたよ。
この家で一番危険な思想を持つ人が。
「うふふ♪紅ちゃんもそんな歳なのね。」
お母さん!!
「うふふふふふ♪」
微笑みながら近付いてくるのは、この家一番の危険人物で、夫ラブで紅に対して過保護な母親、愛花です。
「うふ♪どんなのが好きなのかなー?紅ちゃんは。」
メッチャこっちを見てる!
これは僕達に意見を求めてるのか!?
「え〜と、妹ものと、スク水とかだと思うよ。」
「そう?じゃあ桃か蒼にコスプレさせて二人だけにしましょうか。」
「ストーップ!」
「妹を襲わせる気ですか!?」
「いえ?違いますよ?ちゃんと
「食べても良いよ?」って言ってから二人にするんですよ?」
「あんたは鬼か。」
「あなたは実の娘を娼婦にする気か!」
「ママ〜、それはしすぎだよ〜。」
父め、復活したか。
「あらそう?大人になる為に必要かと思ったんだけど。」
「まだ早過ぎるよ〜。
それよりもアッチで大人になろうよ〜。」
「あらあら、甘えんぼさんね。
いらっしゃい、二人で大人になってこようね〜。」
母と父は居間に入って扉を閉めた。
「朝から良くやるわね〜。」
「ふん、仲が良すぎね、あの二人は。」
「桃も紅とああなりたい?」
「な、な、お姉ちゃん!?何て事聞くの!」
ドタドタドタッバタン!
「うふふ♪素直じゃないなぁ。」
後ろを振り向いて、微笑む。
「ねぇ?紅。」
そこにいたのは、この家の長男紅だった。
「本人抜いて凄い事話してたな。」
「感想は?」
溜息を吐きながら、答える。
「止めて欲しい。」
「同感だね。」
「じゃあ、止めれよ。」
蒼はクスクス笑い、紅の首に両腕を回す。
「おはよう、紅。」
「おはよう、蒼。」
蒼は紅に口付けをし、紅は抱き締めて途中で離れないようにする。
「…っ…はぁ…ぁ…っ!」
それは二人の関係が、双子同士からかけ離れた物という事を物語っていた。
もうこれぐらいでいいか。
「もう、終わるの?」
残念そうに言葉を紡ぐ。
「あぁ、また明日だ。」
「うん、分かったよ。」
「明日から学校だ。」
「そうだね。」
「ところで、朝飯は?」
「あ…。」
「母…無理か、桃は…桃も駄目か。」
「私が作る?」
「いい、遠慮しておく。」
「そか。」
「口調変わってるぞ。」
「ありゃ。」
「あはははは!」
「ククククク!」
こうして一日は始まる。
そして、何かが始まった。