あまがえるのラブソング
雨が窓を叩く音が、学校の廊下には満ちていた。
「あめかー」
そうつぶやいてオレは、放課後の廊下をゆっくりと歩く。
先ほどまで、職員室にいてテスト中の態度が悪いと注意を受けていたので気分も沈むというものだ。
「てかなんだよ、テスト中の態度? 意味分からん! あぐらのなにが悪いんだよ 椅子には座ってるだろ」
とぶつぶつ文句を垂れ流していると、ピアノの音色が聞こえてきた。
「ん? …こんな日に学校にのこってるなんて変なやつもいるもんだ」
今日は、テスト最終日で部活も休み。そして、付け加えて金曜日だ。
そんな日に残ってピアノを弾いているのは、誰なんだろうと思い音楽室に足を向けた。
流れるようなピアノの音色が、階段の上から聞こえてくる。
「こういうのを、流れるようなっていうんだろうな……」
うちの学校の音楽室は、少々変わったところにある。
普通の教室がある、新しく何年か前に増築された校舎。渡り廊下を渡って倉庫になっている旧校舎の三階……
そこに、音楽室があった。
階段をあがり、扉を開けるとそこには顔見知りの後輩がピアノを弾いていた。
「……お前、ピアノ弾けたんだな」
そう声をかけると、彼女はこちらを向いてびっくりしたような顔をして
「あれっ? 先輩どうしたんですか? こんな所まで、こんな時間に……」
そういいながら、くせっ毛の髪を手櫛ですきながらピアノの前から立ち上がった。
オレは、そんな彼女を見ながらパイプ椅子を教室の隅から引っ張ってきてピアノの近くに腰掛ける。
「いや、こんな日にピアノを弾いてるやつがいるのかと珍しくてな」
彼女も、ピアノの椅子に腰掛けてから恥ずかしそうに笑いながら話す。
「あはは…… 雨が降るとピアノが弾きたくなるんです。
小さい頃からの癖で、かえるみたいだって言われたりするんですけどね」
そして、鍵盤を細い指で弾きはじめる。
オレはそれを聞いていると、さっきの沈んでいた気分もいくらか和らいできた。
彼女が、一曲弾き終わったあたりでオレは立ち上がって窓の外を見る。
窓の外の庇に緑色がきれいなあまがえるが座っていた。それを眺めていると
「先輩はどうして、残ってるんですか?」
そう聞かれたので、正直に答える。
「呼び出しだ…… こんな優等生を呼び出す教師の考えがわからん」
「この前、他校の生徒と喧嘩したって噂もありましたね」
とすかさず彼女は、返してくる。オレは、そっぽを向きながらいいわけをひねり出す。
「いやいや、口喧嘩だ。 手は出してないぞ!」
「でも、先輩昨日もゲームセンターでやってましたよね? 喧嘩」
彼女が、楽しそうにいってくるのでオレはため息をついた。
彼女はいろいろ見ているようだ…… 言い訳しても無駄かーと思いながら気になったことを、聞き返す。
「なんで、お前いろいろ知ってるの? 先生達も喧嘩の事はしらないぜ」
すると、彼女は鍵盤をはじいて外を眺めながら言う。
「普通の人は、雨が嫌いですよね? じめじめするし、服もぬれちゃうし……」
オレは、意味が分からずにただ答える。
「まぁ、そうだろうな 鬱陶しいしな、洗濯物がふえたりな」
彼女は、ちょっと吹き出してオレに目を向ける。
「先輩なかなか、家庭的ですね」
「うっさい」
と返すと、また彼女は笑う。そして、続きを口にする。
「でも、私はあまがえるなんですよ? そんな雨が好きなんです」
そういって、可愛い微笑みをオレに向けてきた。
梅雨も終わりなので、そういう感じのSSでもと思い書きました。
全然、納得のいくものではないけどもこんなのでどーでしょう?
感想お待ちしています!