救いたいのは
ルークスの放つ白い光に包まれた少年が目を開くと、そこはさっきまでいた”異界”の”木”のそばだった。
但し、森はまだ薄暗くて周囲はよく分からない。空を見上げると月が見える事からどうやら夜中のようだ。
「……ここは?」
――いいから見ていろ。
ルークスの声がどこからともなく聞こえた。
少年は周囲を見渡したものの声の主たる神器の姿は見当たらない。
「ルークス。何処にいるんだ?」
――やれやれ。いいから見ていろと言ったんだがな。
”ガサガサ”と草木を掻き分ける音が聞こえた。
人影がうっすらと見える。
だが、それはルークスではない。
もっと小さく、そしてゆっくりとした足取りだった。
「誰だ? 一人にしてくれないか」
ルークスの声が木の向こうから聞こえ、手をパタパタと振った。
足音の主は構わずに歩いて近付いていく。
「…………宜しいですかな?」
そう言って姿を見せたのは長老だった。
「あんたか。……よく分かったな。私がここに来ていると」
そう言って巨木の陰からルークスが姿を現す。
心なしかその表情はいつもより真剣で、まるで今から闘うつもりなのではと、少年は一瞬思った。
長老はそんな様子にも全く動じずルークスに話しかける。
「怖い顔ですな。……私どもの宴はお気に召しませんでしたか?」
「……いや、そこそこ楽しませてもらったさ」
「――ウソつきだなあ。ものすごく意気投合してたくせに」
ルークスの返事に思わず少年が突っ込むと、いきなり見えていた景色の全てが静止した。
さっきまでの木々の小さなざわめきも、動物たちの鳴き声も、何もかもが静まり返り、一枚の絵のように固まった。
――ああっ!! 五月蝿い。……いいから黙って話を聞いてろ 。
「……これって昨夜のルークスの記憶なんだよね?」
――ああ、そうだ。
「僕が聞いてもいいのか? 大事な話なんだろう……」
――そうだな。大事だからこそお前は聞くべきだ。……お前には聞く権利がある。……そろそろ時間を動かすぞ。
ルークスがそう言うと、静止した世界が再び動き出した。
木々の”カサカサ”という葉の擦れる音に、梟は”ホーホー”と鳴き、一見すると静かな森が様々な動物たちのオーケストラ会場に一変した。
勿論、少年がそう思うのは今まで時間が止まっていたからであって、目の前にいる昨夜のルークスにしろ長老にしろそんな事を気にする様子は当然無かった。
「一杯あおらせて頂きますよ」
そう言うと長老は懐から瓢箪を取りだし、栓を抜くとおもむろに口に運んだ。
かなりキツい酒なのか「かああっ」と軽く唸ると、ルークスに瓢箪を手渡す。
ルークスも、その瓢箪の酒をグイッと飲むとすぐに「ううっっ」と頭を振る。
その様子に長老は満足げに微笑むと……口を開いた。
「――私どもを【封印】して頂きたいのです」
「……」
ルークスは長老の言葉に何も返事をせずにもう一度酒をあおり、こめかみを抑える。
そんな様子を長老もただ穏やかに微笑んだまま見ている。
ルークス「はあ」と軽く溜め息をつき、
「――ほんとにいいのか?」
そう言葉と瓢箪を返した。
長老はルークスから瓢箪を受け取り、一気に酒を飲み干した。
今度はルークスがその様子をただジッと見ている。
しばらくして、
「あまり驚きませんな」
そう長老がルークスの目を真っ直ぐに見ながら言った。
ルークスは長老の視線に気づくと目を反らし、空に浮かぶ三日月を眺めながら、
「――まあな。…………いいのか?」
と確認するように言葉をかけた。
それに対して長老も三日月へと視線を向ける。
そして、
「ええ――私どもはもう現世には行けませんからね。」
「何故なんだ?」
「分かりません、ただ現世に滞在すると徐々に正気を失うのです」
そう言葉を返した。その声にはどこか寂しさが含まれていた。
その含む所を感じたルークスは、
「私は承知した。――だが、契約者は納得しないだろう。説明してもらえるだろうか? ……あいつが納得出来るようにな」
そう質問した。
長老は、少しの間押し黙った。
少年には彼が答えを言うべきかどうかを考えているように見えた。
実際には、ほんの数秒程度の短い時間だったがその沈黙はまるで何分も経ったかのように感じられた。
長老は無言で懐から何かを取り出すと、ルークスに手渡した。
それを見たルークスの表情が一変。
少年が近付いて見ると、手のひらに乗っていたのは小さな【赤い石】だった。
ルークスが沈黙を破り、口を開いた。
「長老。この【魔石】を何処で手に入れた?」
「そうですか。……やはりそれをご存知でしたか」
「【魔石】にはその名の通り【魔力】を込める事が出来る――そしてこの石からは禍々しい【憎悪】を感じる……長老、もう一度聞く。これを何処で手に入れた?」
少年はそう問いただすルークスの表情と物言いから事態の深刻さを理解した。
長老は「長くなりますよ」と前置きを入れ、ルークスは一度大きく頷いた。
「そもそもその【魔石】は私どもの崇める【神様】の与えて下さった物で、不思議な力があると言われ、代々受け継がれてきた物です。
千年前に【禍】により私どもが一度死んだにも関わらずあのような姿となり甦った時、石は真っ赤に光り、【御神木】には季節外れの緑の葉が生い茂っていました。その時に御先祖の話が本当なのだと知りました。石と御神木が神様からの授かり物で、守るべきものなのだと。
……五百年前の事です。私どもは森の向こうの人間と住み分けを行い、共存する事にしました…………。勿論、私どもの間でも様々な意見が出ました。彼らを追い出そうと言う者もいました。もし、新たな隣人が石と御神木の事を知れば、争いが起きるかも知れないと。話し合いは三日三晩と続き――石は地中深く埋めて、隠す事になったのです。
ですが…………ある晩、石は突然無くなった上に、御神木が切り倒されました。
冷静さを失った数人がそしてその事を問いただしに町に向かい、帰って来ませんでした。
そして……現世に出ると私どもは強い【憎悪】に支配され、正気を失い、抑えきれなくなった私どもの怒りは隣人に向けられ、あの凄惨な殺し合いに発展したのです」
「……」
「お二人にお願いしたいのは、現世にある【御神木】を焼き払って頂くことです。そうすれば異界は消えてなくなり、私どももこの仮初めの命を失うでしょう」
ルークスは長老の目を真っ直ぐに見たルークス。
そして、少し考えて「ふう」と息を吐く。
「分かった。契約者には私から伝える」
「……有難う」
「気にするな。……いい月夜だな」
「ええ――月見酒には持ってこいですな」
長老はそう言って、もう一つ瓢箪を懐から取り出す。
栓を開けて軽くあおり、瓢箪を掲げまるで三日月に捧げるように向け、
「素晴らしい夜に」
そう言うと、瓢箪をルークスに手渡した。
受け取った瓢箪の酒をルークスも同じく軽めにあおると「ハア」と思わず唸った。
そして、長老と同じく瓢箪を三日月に捧げるように向けると、
「善き友に」
呟くように言って笑った。
長老も、同じく笑う――少年の見ている世界が白い光に包まれ、渦を巻くように歪むと……元の世界の森にいた。
――分かったか? 彼らの思いを。
ルークスの声には心無しかさっきよりも何処か優しさがあった。
それは、少年があの会話を聞いたことで、骸骨達の思いを知ったからこそ分かったのかもしれない。
ルークスにしてみればただ説明しているだけなのかも知れない……違うのはそれを聞く側の心の変化なのかもしれない。
「分かった。――でも僕は諦めないよ。……みんなを救える方法もあるなら迷わずやるから」
そう言う少年の目から”迷い”は消えていた。
――いいだろう。その時は私が手を貸そう。
ルークスも少年の気持ちに答えた。
◆◆◆
「ハア、ハア」
息を切らす少年の視線の先で”ガラガラ”と音を立てて目の前の骸骨が崩れていく。
「これで何人だ? ルークス」
――三人だな。……なかなかやる様になったじゃないか。少し見直したぞ。
「そ、そいつはどーも……来たっ」
少年が振り向くと同時に”モコモコ”と地面が盛り上がり、また新たに骸骨が一人姿を現した。
少年は先手必勝とばかりに手に持つ木の棒で殴りかかった。
骸骨達の欠点はその動きの遅さだ。
確かに骸骨は生身の人間よりも肉が無い分、体重は軽い。
だがルークス曰く、
――動物の動きの優劣は基本的にその筋肉と体重のバランスに依存する。
骸骨達には筋肉が付いてない、ただ軽いだけだ。
……だから、今のお前が付け入るならそこだ。
その言葉通りに少年は先制攻撃を仕掛けた。
その為にルークスの指摘で少年は幾つかの【魔法】を使っていた。
それは【感覚強化魔法】と【筋力強化魔法】の二つだ。
勿論、まだまだ訓練された訳じゃない少年にはしっかりとした【魔法】は使えない、あくまでもそれに近い【魔法もどき】でしかない。
だがこの二つによって、聴覚により骸骨が出てくる前にその位置をおおよそ掴み、筋力の強化により”ペナルティ”を打ち消して先制攻撃出来る。
少年の木の棒が”バキャッ”と音を立てて骸骨の頭蓋骨を直撃。
そのまま木の棒を少年は振り抜き、骸骨は前のめりに倒れた。
「ハア……ハア」
――大丈夫か?
「何とかね。……まだまだやれるさ」
少年はそう言いながら歩き出したがその表情からは、ハッキリと疲労しているのが見てとれた。
ルークスはその様子を見ながら、
(無理も無い。キチンとした魔法では無い上に同時に二つ使っているのだから――寧ろ訓練もせずに、もどきとは言えども【魔力】を使えるのが大したモノだ)
と、感心していた位だった。
とは言え、これ以上の負担は掛けられない。その為にルークスは木の棒に【魔力】を込めていた。
今の少年は言うなれば成人した男性よりも少しだけ強い状態だ。
骸骨は動きも遅く骨は基本的に脆い。
ただし、骸骨の骨格を繋ぎ止めるのは【魔力】である以上、その魔力を打ち消し、或いは破らなければ骸骨は何度でも復活する。
その為にルークスは、木の棒に【魔力】を込める事でその骨格の繋ぎ止めを破っていたのだ。
「ハア、ハア……まだまだ」
少年は更に息を切らし、その歩みもフラフラとおぼつかない。
ただし、その目からは強い覚悟を感じさせていた。
真っ直ぐに前を見据え、木の棒を杖にするように歩く。
その間にも骸骨達が続々と出てきてはその都度、先制攻撃で叩く……この繰り返しだった。
そして……この暗闇にもすっかり目がなれた頃。
――ここだ。
そう言うとルークスが光った。
少年は足を止めて周囲を見回す。
「……ほんとにここなのか? 何もそれらしい物が無いけど」
少年の目には特に変哲の無い茂みしか見えない。
思わず宙に浮く神器に訝しげな視線を向けた。
――疑うのか? ……だが間違いなくここから強い魔力を感じる。
間違いなく【御神木】はここにある。
ルークスには確信があるらしく、その声からは心無しか自信らしき物が感じられた。
「うう~~ん…………」
――目で探すな。感じるんだ……骸骨とは違い、そこから魔力が流れ出す感じだ。
少年はルークスの言葉に従い、意識を集中させてみた。
目を閉じて、呼吸を整えてみる。
すると、奇妙な感覚を覚えた。
何も無いはずの茂みに木が一本あるような感覚を覚え、思わず目を開く。
何も無い、だが確かに何かがある。
恐る恐る茂みに入り、近付いてみる。
――そうだ。感じたようだな。……目を凝らしてみろ。今のお前なら、【見える】はずだ。
ルークスの言葉に少年は目に意識を集中させてみた。
すると、今まで茂みしか見えなかった目の前に突然【一本の木】がそこに浮かび上がり、思わず尻餅を突いた。
「わっ。び、びっくりしたあ」
気を取り直して立ち上がると目の前の木の幹に手で触れてみる。
何とも言えず気が落ち着くのが分かった。
心無しか、疲れも軽くなった様に感じられた。
【異界】で見た物よりは随分と小さく、そしてか細いものの、間違いなくこの木が【御神木】に違いないと確信出来た。
「この木を【封印】かあ…………で、どうするんだルークス?」
――長老は何て頼んだんだ?
「……ええと、確か焼き払うって……燃やせばいいのか?」
――ふむ、そうだな。……火種はどうするんだ?
「それなら、大丈夫っ」
”キリキリキリキリ”
――おい、まだか?
「……」
”キリキリキリキリ”
――このままだと朝になるぞ?
「………」
――ま、私は別に構わんがな。
「ああ~~~~っっ。もううるさいよ! 気が散るだろ」
少年がそう叫ぶとその場で地面に転がった。
すっかりやる気を無くしたのか、足を上にあげブラブラさせている。
「何だよ、もう――前の野外講習じゃ火が付いたのにさあ」
そう言うと手に握っていた削りだしの棒を投げ出し、恨めしそうに今まで擦っていた丸太を恨めしそうに見る。
その丸太からは微かに焦げたような臭いが漂い、それが余計に腹立たしい。
その一部始終を黙って見ていたルークスが少年に、
――やれやれ。私の言うとおりにしてみるか? もっと手軽に【火】が付けられるぞ。
と聞いた。
少年は「え?」と言うと起き上がり、ルークスを見る。
(数分後)
”カチッ、カチッ、カチッ”
暗闇の中、微かに火花が浮かんでは消えた。
”カチッ、カチッ”
さらに火花が何度も上がり……そして。
「や、やった。見たかルークス、【火】が付いたよ!」
――そのようだ。
「もっと早く教えてくれたら良かったのにさあ」
――まあ、そう言うな。……興味があったのだ、自分の知らない方法についてな。
「あ~~疲れたあ」
そう言って少年はゴロリと地面に転がった。
両手には火打ち石に使った石が握られており、目は今付けたばかりの火に釘付けだった。
「にしてもさあ、よく考えたら【魔法】で何とか出来るんじゃ無いのか?」
少年はルークスをジトリとした目で見た。
――まだお前にそういう魔法はまだ早い、きちんとした訓練をしないと大変な事になりかねん。
「……そうなの?」
――確かにお前には、【素養】がある。
だが、【魔法】にもその個人個人で向き不向きが有るのだ。
例えば、火を起こすのは得意でも、氷はからきし駄目といった具合にな。
「成る程ね」
――無論、今のは極論だ……お前の素養によるから断言は出来んがな。それより、もっと草を火にくべろ。
「ああ、そうだった」
しばらく草や小枝を火に投げ込む。
徐々に火の勢いは強くなっていき、後は松明代わりの木の棒に火を移すだけだった。
「これしか無いのか……他に何か」
「――他の方法ならあるよ」
突然声をかけられ、少年は辺りを見回したが誰の姿も見当たらない。
その代わり、地面が”モコモコ”と盛り上がっていき、骸骨が姿を現した。
「クソッ」
「おっと、今度は簡単にはいかせないよ」
謎の声がそう言うと、更に周りの地面が盛り上がっていき、骸骨が続々と現れる。
骸骨達は少年を取り囲むと一斉に襲いかかってきた。
無数の手が伸びてきて、少年に掴みかかる。
「は、早い」
さっき迄とは違い、骸骨達の動きは早い。
完全に不意を突かれた少年はあっさりと捕まると、その場に組伏せられた。
「は、離せよっ」
少年は何とかして起き上がろうと身体を動かしたが、骸骨達はびくともしない。
寧ろ軽いはずの骸骨達の重みが”ズシリ”とのしかかって、身体が沈み込む様だった。
「びっくりしただろ? 軽いはずなのに重くて」
気が付くとその声はすぐそばから聞こえていた。
目の前に足があり、誰かが見下ろしているのが分かった。
少年は辛うじて動く首を上に上げてみる。
そこにいたのは笑顔を浮かべた金髪の少年。
間違いなく町を歩けば十人中十人が思わず振り返るような美少年。
だが、どこかおかしい、”何か”がおかしいと感じた。
その全身からは強い憎悪を感じさせ、少年の全身が震えた。
彼は火を足で踏み消すとニコリと笑いながら、
「――やだなあ。そんなに見つめないでよ……【食べたくなっちゃう】じゃないか」
そう言いつつ”美少年”は舌なめずりした。
「それよりも、君だよねえ? 【封印】を解いたのはさ?」
「は? あんた何言ってんだよ、僕はただ寒くて暖を取ろうとしていただ……があっ」
少年が言葉を言い終わる前に美少年が指を”パチリ”と鳴らす。
すると骸骨達が立ち上がり、少年を無理矢理引き起こす。
少年に両腕は骸骨達に固められ、下手に動けば骨が折れそうだった。
「嘘は良くないなあ。こちらは君の事はどうだっていいんだ――持ってるんだろ? 【神器】をさあ。まあ、別に構わないんだよねえ……向こうの【町】がどうなろうとさあ」
少年は相手の表情を見て恐怖を感じた。
そこには酷薄さしか無く、さっき迄の表情はこの本性を隠す為の仮面でしか無いと理解出来た。
彼もその事を理解しているらしく、口元を歪めると更に話を続ける。
「それに、僕なら骸骨達を助けることだって出来るんだよねえ。で、どうするのさ? 決めるのは君だよ」
その言葉の前に少年の心が折れそうになった。
何もかも見透かされ、もうどうしようもないと目を落とし、懐にある神器にそっと手を触れた。
ルークスが語りかけてきた。
――私はお前の望むようにするだけだ。さあ、お前の望みは何だ?
(僕の望み? ……皆を救いたい)
――どちらの皆だ?
(そんなの――【みんな】に決まってるだろ!)
「残念でしたあ。……時間切れだねえ」
美少年はそう言うと「○●◎◇◆」と聞いたことも無い言葉を口にする。
地中からさらに骸骨達が現れると、町の方へと歩き出した。
その数はみるみる増えていき、数十にもなった。
「や、止めろッッ」
「残念でしたあ。……時間切れなのさ。君みたいな奴は徹底的に心を砕いてあげなきゃさあ」
「やめろおおッッッッ」
少年の叫びが森中に響き渡る。
それを嘲笑う様に地面がさらに盛り上がり、骸骨達が姿を現す。
その骸骨の中に木の杖を手にした一体がいた。
その骸骨は杖を前に差し出すと「進めえ」とハッキリと言うのが聞こえ、周囲の骸骨達は前方にいた骸骨達に飛びかかり、さらには少年を押さえていた骸骨にも向かっていった 。
「もしかして、長老?」
少年がそう声をかけると杖を手にした骸骨はぎこちない動きではあったが大きく頷いた。
急に自由になり、まだ状況がよく分からなかった少年がふと、目の前の相手を見ると、明らかに動揺した様子で「な、何なんだよお前らはさあ」と叫ぶのが見えた。
そこにルークスの声が聞こえる。
――さあ、【反撃】だ! 借りを返してやれ。
と。少年は呼吸を整えて、意識を集中させた。
(コツは意識をキチンと向けること)
そう考えながら、自分の身体にその拳に意識を集中させた。
「くっっ。ふざけるなよ! お前らみたいな中途半端な連中に邪魔されてたまるかよっ」
金髪美少年は怒りに満ち満ちた表情で指を”パチン”と鳴らし、骸骨達を弾き飛ばし、倒れた彼らを足で踏みつけながら「ハハハア」と笑い声をあげる様は邪悪そのもの。
「魔物はそれらしくさ、さっさと【転化】しちゃえよなあっ」
そう言うと、首元から”赤い光”が周囲を包み込んだ。
その光に包まれた骸骨は一度その場に崩れ落ち、すぐに起き上がる。
すると、さっき迄とは違い、長老達に襲いかかっていく。
「そうさ。大人しく【転化】を受け入れちゃいなよ」
その様子に満足した金髪美少年が口元を歪めた瞬間、その頬に拳が直撃した。
思わず「ぶっ」と言いながら後ろに転がり、殴った相手を睨み付けると、そこにいたのは少年だった。
「やるじゃないか。僕に一撃入れるなんてねえ」
そう言いつつゆっくりと立ち上がるや否や指を”パチン”と鳴らす。
その音に反応したらしく、骸骨達が一斉に少年に襲い掛かる。
再び、あっという間に取り囲まれたが両腕を押さえにかかる骸骨達の頭蓋骨を掴むとそのまま衝突させ、さらに突き出す。
”ガラガラ”と音を立てつつ周りの骸骨も巻き込んで倒れ、崩れた。
「なっ――」
金髪美少年が驚きながらも距離を取ろうとしたが、それ以上に少年の速さが勝った。
走り込みながらの右拳が思いきり顔面に直撃し、吹っ飛んだ金髪美少年は御神木にその身体をしたたかに打ち付け「あぐっっ」と軽く呻くとそのまま気を失い、木の幹に寄りかかるように崩れ落ちた。
「――やったか?」
――ああ。よくやったな 。
「そうか、良かったあ」
ホッとしたのかそれだけ言うと少年もその場で倒れた。
――やれやれ、手間のかかる奴だ…………だがよくやったぞ。
ルークスの苦笑混じりの声が耳に届き、「そうだろ」とだけ言うとそのまま気絶した。
夜の森はまるで何事も無かったかの如く、動物達のオーケストラ会場に戻った。