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出会い

こっから主人公が出ますのでヨロシクお願いします♪


「え〜〜と……何だこれ?」


 その少年は困惑していた。それもかなり。

 理由は簡単で、ついさっきまではただ森の中を散歩気分で気楽に歩いていただけなのに、今は大ピンチだったからだ。


「え〜〜。き、キミ達僕は思うんだよ。暴力じゃあ何も解決しないと、世の中は平和なんだから話し合えば何とかなる、さ?」


 少年があたふたしながら言葉をかけるが、相手には関係ないコトだろう。

 何故なら、彼らは骸骨(スケルトン)だから。

 彼らにとって目の前にいる少年は単なる獲物でしかない。

 一人(?)の骸骨がカタカタと口を動かし、歯を鳴らす。それを見た(?)骸骨達も同じように口を動かしカタカタと歯を鳴らした。


「――分かって貰えたみたいでよかったぁ……だよね?」


 少年はそう言いながらゆっくりと後ずさりしていた。踏みしめた地面に落ちている葉っぱの音がカサカサとなる。

 骸骨達はカタカタと歯を鳴らしていたが、やがて少年の動きに気付いたのか音が止んだ。そして……。


「や、やっぱダメかぁッッ。こっちくんなぁ」


 少年が全速力で逃げ足すや否や、骸骨達もカタカタと後を追いかけてきた。

 幸いにして、骸骨達の速度は遅い。走ってる限りは追い付かれないだろう。ただ、人間である自分と違い、彼らにバテるという概念(がいねん)があるのかは不明だ。


「ぜは、ぜはっ」


 少年は普段、学舎(まなびや)で授業、それも身体の鍛練をテキトーにやっている事を今更ながらに後悔していた。


(――こんなコトなら普段から鍛えりゃ良かった)


 口に出しかけた本音を言っても仕方がないので、走りながらとりあえず事態の打開を考えなければならない。


(とりあえず、早く何とかしないとなっ)


 少年が後ろを振り返ると骸骨達を大分引き離したらしく、かなり姿が小さくなっていた。

 だが、あまり安心出来ない。このまま逃げると、その先には町があるからだ。

 不幸中の幸いと言うべきか、骸骨達は武器は持っていない上に動きも遅い。このまま森から逃げるのは可能だった。だが骸骨達がそれでもこちらを追う場合、町になだれ込み皆に迷惑をかける可能性があった。それは少年にとって論外だった。


(だけど、どうする?)


 そう少年が思案を巡らしている時だった。


――……を求めろ。


 少年の脳裏に【声】が聞こえた。か細い声だった。だが、誰もいない。


(幻聴かよ……いよいよヤバイな僕も)


 そう思い少年がため息をついた時だった。再び【声】が聞こえてきた。


――私を求めろ。


 今度はさっきよりハッキリと聞こえた。だが、やはり誰もいない。


「ハァ、ハァ。も、もうダメだッッ」


 体力の限界に達して足が止まった少年は普段の運動不足を呪いながらそばにある木に背中から寄りかかった。


「くそっ、ヤバイ」


 少年の後を追いかけてきた骸骨達がこちらに近付いてくる。


「……こんなんなら来なきゃ良かった」





◆◆◆


 それは他愛の無い会話からだった。


「……おい、最近。【悪鬼の森】に出るらしいぞ」

「あ! 聞いた聞いた。何でもとんでもなくデカイ鬼みたいな奴が出たらしいって」


 最近少年のすむ町では、近くにある【悪鬼の森】に【怪物】が出るらしいという噂が立っていたのだ。

 それは荒唐無稽な話ばかりで、やれ【鬼】が出るらしいとか、やれ【人喰い熊】がでるとか、挙げ句には【見えない何か】がいるとか噂される始末だった。

 少年は子供の頃からその森でよく遊んでいたが、何も出たことは無い。だからつい反論した。


「あのさぁ、昼間あの森には何もいないぜ? ただリスとかウサギばっか出るだけだよ」


 少年は呆れながら噂をしていた学友達に言葉をかけた。すると、


「じゃあ、お前森に行けよ。で、印に【石】を持ってこいよな」





◆◆◆


 とガキ大将にそう言われ、昼間なら何も無いと思って疑わない少年は森に来て、約束の【石】を森の奥にある石碑から取った帰り道にこの事態に遭遇したワケだ。


「――こんなんなら石なんかわざわざ取りに来なきゃなぁ」


 骸骨達が少年を取り囲むとゆっくりと距離を縮めてきた。逃げようにも囲まれた為に、骸骨を突破しなければ無理だ。


「クソッタレ」


 少年は半ばヤケクソ気味に手にしていた石を目の前にいた骸骨に思いきり投げ付けた。

 石は骸骨の顔面を直撃するとあっさりと顔の骨を砕く。すると骸骨達の包囲が乱れた。


「え? まじかっ」


 予想外に弱い骸骨達に逆に驚いた少年が意を決して突進した。狙いは石を投げ付けた骸骨。


「うおぉぉっ」


 全力で体当たりすると骸骨は見事にバラバラになり、少年は勢い余って前方にゴロゴロと転がった。


「何だよ、弱いぞコイツらっ」


 少年は安堵の笑みを浮かべたがそれも束の間だった。バラバラになっていた骸骨が元に戻っていく、まるで何事もないかのように。


「……嘘だろ」


 その骸骨がのろのろと手を伸ばしてきた。少年はそれを払いのけ、何とか立ち上がった。


「くっそ、どうすりゃいいんだよぉっ」


 と、少年が諦めかけた時。


――何をしている? 早く私を求めろ


 また【声】が聞こえた。今度は下から。


「え? 何?」


 困惑する少年は下を見たが、生き物は何もいない。あるのは【石】だけだった。


「まっさかね」


 少年が頭をポリポリ掻きながら、骸骨の手から逃れる。すると、


――あ〜〜〜もういい。このバカがっ。


 いきなりの怒声が少年に聞こえるや否や、辺りをパアッと激しい光が包み込んだ。


「うわあああっ」


 その光はあまりに眩しく、そして強烈で、少年は意識を失い、その場で倒れ込んだ。




「うぅっ」


 どの位経ったのか、少年が目を覚ますと、さっきまて周囲にいた骸骨達が一体もいなかった。ただ、自分だけが倒れていた。


――ようやく気が付いたか? このバカめ。


 そこへ痛烈な皮肉混じりの声が浴びせかけられた。


「え? やっぱ誰もいないのに声がする」


 少年は【見えない何か】が実在した事に驚き、怯えた。すると、


――イタッ。お前、ちょっとは優しく扱え。


 声がすぐそこから聞こえた。本当にすぐそこから、今、驚いて蹴った足元の【石】くらいから。


「……え? エェッ」


 思わず少年は【石】を拾い上げた。


――ふぅ、ようやく気付いたか。これで……


「うわあああっ」


 少年は【石】から本当に声が聞こえたので思わず地面に投げた。


――ブフウゥッ……お、お前なぁっっ。


 【石】はそう言うと淡い光を放ち、自ら宙に浮いた。驚きのあまり口をパクパクさせている少年を尻目に、【ソレ】は喋りだした。


――やれやれだ、ようやくマトモに話せそうだな。私は【ルークス】。神々の(みことのり)に従い、ありとあらゆる世界の安寧の為に存在するいわば【神器】だ。喜べ人間、お前は私の新たな【主】として選ばれた。――さぁ、共に世界を救うのだ。私と【契約】しろ。


 少年は困惑の極致にいた。ただでさえ事態の推移に困惑していたのに、さらに喋る石【ルークス】が目の前に現れ、偉そうな口調で、世界を救うとか壮大そうな話をしてきたからだ。


「あ、あの結構です」


 少年はルークスの提案をあっさりと拒否すると全速力で走り去っていく。


(――何か知らんけど、あんなのに関わったら絶対にめんどくさい事になる。メンドイのは嫌だ)


 【努力】を嫌う少年にとってルークスの話はとんでもなく大変そうだった。【メンドイ】のは嫌。これが少年の人生における【基本理念】だった。


――仕方のない奴だな。逃がしはせん。


 ルークスはそう言うと逃げる少年を追う。


「はぁ、はぁ。キッツイなぁ」


 少年は空を見上げると太陽がかなり沈んでいる事に気付く。そこからどうやら一時間は気を失ったみたいだと判断した。


「暗くなる前に森を出ないとな」


 この【悪鬼の森】が何故そんなに毒々しい名前なのかは夜に起因する。

 夜になると、何処からともなく狼や、骸骨が現れるからだ。

 そもそも何で骸骨が現れるのかが謎で町では昔から七不思議に数えられていた。


「にしても、何で日中に骸骨が出たんだろ?」


 少年は森を出て、一安心しながら呟いた。


――理由は単純だ。お前が選ばれたからだ。私にな。



「え? う、うわっ」


 突然、目の前が光ったかと思うと、ルークスがふわふわと浮いていた。


――やれやれだ。イチイチ手間を取らせるなクソガキが。


 ルークスは苛立ち混じりにそうぼやくと少年の手元に強引に入った。


――さぁ、私を求めろ。

「だから嫌だって!」


 少年はルークスを投げつけようとするが、右の掌が開かない。と言うより全身に力が入らない。


――フフフ。無駄なあがきはよすんだなクソガキ。それよりいいのか? 私を拒否するとどうなると思うのだ?


 ルークスはそう不敵なセリフを吐くとまた光を放つ。すると、少年の身体が反転して、森へと足が動きだした。


――いいのか? 森に戻っていくぞ。日が暮れれば骸骨達はお前を楽しみに待ち受けているだろうし、狼は久々の大物に喜んでかぶりつくだろうなぁ。クックック。

「ちょ、お前。神器なんだろ? いいのか脅しなんかしてさっ」

――クックック。仕方あるまい、よくある話だと思わんか? 少年が度胸試しで夜に森に入って行方不明になる。

「お、マジかよッッ」


 少年はルークスの言葉に驚愕し、本心かどうかを疑ったが、見た目は単なる【石】でしかないルークスには当然表情などはなくその真意は推し量れない。

 ただ実際問題として足は森へと戻っている、このままでは間違いなく日が沈み夜の(とばり)が落ちる。そうなれば、あの森が何故【悪鬼の森】と呼ばれるのかその所以(ゆえん)を改めて知ることになるのは間違いない。


「や、やめろよ。アンタ僕が死んでも平気なのかよッッ?」

――死なら数知れない程に見てきた。今更、一人増えようが思うことなどない。さぁ、選択肢は二つだ。……選べ。


 そう言うとルークスの光が強まると、全身にピリピリとした痛みが走り抜け、目の前が白くなった。何も無い、真っ白の光に包まれる。


「う……わっ」


 少年が叫ぶと目の前の視界は白から突然黒に変貌した。


「な、何だ今の? オイッ、ルークスだったよな? 何をしたんだよ」


 少年は問いかけたもののルークスは何も語らない、ただの石のように。

 当惑する少年はその暗闇に見覚えがある気がした。ゆっくりと慎重に歩を進めていくうちに、徐々に目が暗闇に慣れて、周囲が見えるようになってきた。


「え? ここって」


 少年がいたのは【悪鬼の森】、それもルークスと名乗った石が置いてあった場所だった。

 そこには石造りの石碑が立っていて、いくつかある窪みには何個かの石がはまっていて、昔話では【神様の石】と呼ばれた宝石が備えられたらしい。勿論、少年が手にした石は色こそ淡い緑だが宝石などでは無い。

 いつの頃からか、日中に森に入って石碑から【石】を持って帰り、度胸がある事を示すのが町の子供達にとっての大冒険、一大イベントになった。今日も変な噂を否定する為に気軽に来ただけだった。なのに……。


「じ、冗談じゃないよ。夜になってる!! ルークス、何とかしろよ」


 少年が叫ぶが、緑の石は何も答えない。代わりに応えたのは、カタカタと音を鳴らしながらゆっくりと近付く骸骨の群れだ。昼間はせいぜい十体だったが、今度は数えきれない数が石碑を取り囲むようにいた。


「ひ、うひいっ」


 少年はその数に圧倒され、一歩も動けない。


――フフフ、どうする? 選べ、死ぬか生きるかを。


 ルークスの声がまた聞こえた。だが、少年が握る石には反応は無い。


「お前、ふざけ……」

――いいのか? 私ならこの程度の奴らなど容易に蹴散らせる。だが、使い手がいなくては意味がない。……別に構わないさ、お前が死んでも新しい人間がそのうち現れるだろう。何と言っても人間はたくさんいるからなぁ。


 ルークスはそうハッキリと少年を脅した。【死んでも構わない】と言わんばかりのその口調に、優しさ等は微塵も無かった。


「……分かった」

――何がだ?

「アンタの力を貸してくれッッ」


 少年が全力で叫ぶ。


――いいだろう、契約成立だ。


 ルークスが応じると森を先程よりも眩しい光が包み込んでいき……。


「うぅっ」


 少年が目を覚ますと、辺りはすっかり明るくなっていた。

 ついさっきまですぐそばにいたはずの骸骨達は一体残らずいなくなっており、森には鳥の(さえ)ずりとリスの小さな鳴き声が響いていた。


(何だよ、夢だったのか)


 脱力した少年は、石碑に寄りかかると地面にへたり込んだ。


(そりゃ、そうだよなぁ。喋る石なんて悪い冗談みたいな話だよ)


 ホッとした少年は立ち上がると長衣(ながぎぬ)についた土を手で払う。そして緑の石を石碑の窪みにはめて戻した。


「……うん、帰ろう」


 安堵した少年は軽く身体を伸ばしてほぐすと帰路につこうとした時だった。


――オイッ、待てやコラっ。契約しただろ?


 少年は凍りついた。それは紛れもなく【ルークス】の声だったからだ。

 恐る恐る振り返り、石碑に戻した【石】を見た。


――違う違う。それは私ではない。


 即座にルークスは否定する声をかけてきた。少年は困惑しながら、


「え? さっきまで喋ってただろ」


 とキョロキョロしながら問いかけた。


――その石は単なる中継だ。私なら、ホラそこだ。


 ルークスはそう言うが少年にはそれらしい物は見当たらない。その様子に気付いたルークスは、


――え、お前、魔力とか感じ取れないのか?


 その事実に驚くような声をあげた。


「魔力って何だよ? いるなら合図とか出せないのか? 夜になる前に帰りたいんだ」


 少年はここでいつまでも居ればまた骸骨が集まると考え、焦っていた。

 それを察したのか、ルークスは「分かった」というと光の柱が石碑の下から伸びた。

 少年は光の柱が伸びた場所を手で掘ってみるとそこから出てきたのは、淡い黄色に光る硝子(ガラス)玉のようなモノだった。


「アンタがルークスなのか?」


 少年が恐る恐る訊ねるとガラス玉は光るのを止めた。そして、


――そうだ、私がルークス。お前が世界を救う手助けをする為にここに来た、神器だ。


 ルークスはそう傲然(ごうぜん)と答え少年の手に収まった。

 すると少年の身体を何かが瞬時に駆け抜けるような痛みが走ったかと思った瞬間、身体が物凄く重くなったような感覚に陥り、実際、歩くのがダルく感じる。


「あ、あのさルークス」

――何だ、私の凄さに驚いたか。そうだよなぁ、私を装備した人間はその潜在能力を限界まで引き出せるようになるからなぁ。まるで身体が綿にでもなったように軽いだろう?


 ルークスは得意気にそう言ったが、少年の様子がおかしい事に気付く。


――あ、あれ? どうしたお前。

「あのさ、身体がものっ凄く重くなったんだけど」

――へ?




――そう、これが僕とルークスとの出会いだったんだ。

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