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3-a 突撃隣の魔王城、魔界の宰相あらわる

お久しぶりです。1年以上詰まってました。


 発令所中央にある魔法陣が再び光出した。光の中に、人一人分の影が表れる。冥だ。


「帰ってきたのね」


 真紅は呟く。


 中央大モニターを見ると、アルコーンが元の灰色に戻っていた。冥の憑依が解け、アルコーンの変身が解除されたのだ。アルコーンもまた、転送魔法の魔法陣が発する光に照らされ、空間へと消えていく。


 真紅は冥を笑顔で迎える。だが真紅の後、獅子頭のヴァプラは浮かない顔だ。オペレーター席に座る青年もまた、笑顔はない。


 冥の転移が完了し、冥は魔法陣の中央に立つ。表情は下から照らす魔力光で窺えない。冥は大人に変身している。真紅は見慣れてはいないが、冥が大人に変身し、守人の母親代わりになっていることを知っていた。だから、怪しまなかった。


「おかえり!」


 真紅が両腕を広げ、冥を迎える。友人の凱旋だ。街も守られた。祝うべきなのだ。


 月夜も笑顔で、真紅の服から手を離した。月夜も冥を迎えるつもりなのだ。


 魔法陣の光が収まる。


 冥は憔悴した様子だ。守人やアルコーンと同一化しつづけた故の疲労か。それとも憑依の影響だろう。そう考えた真紅は怪しまない。


 冥が一歩足を踏み出した。覚束ない足取りだ。よく見ると呼吸も荒い様に見える。学校の制服を着ているので分からなかったが、首の辺りが、赤くなってないか?


 もう一歩。冥は俯き、目を瞑り、息を喘がせている。


「冥?」


 真紅は冥様子に訝しみ、広げた手を緩く下ろした。月夜は駆け寄り、横から冥の顔を見上げる。真紅は月夜が見せた表情の変化でただ事ではないと察した。


 冥は不安定な歩みを進める。魔法陣の舞台から降りようと階段状になった段差に足を下ろそうとして、体勢を崩した。


「冥!」


 真紅が慌てて駆け寄り、冥を抱き留める。熱い。真紅の胸と手に、湿っぽい何かが張り付いた。


「ぐぅ、ううっ!」


 更に冥は呻き、意識を失う。冥の体から力が抜け、真紅に掛かる冥の重みが増えた。


「あ、熱い?」


 真紅は冥の体温を感じている。異常なまでの高温だ。


 真紅に寄りかかった冥の体が次第にぼやける。冥の変身魔術を維持していたのは冥の意識。冥が意識を失えば、魔術は解ける。魔法はお終い。


 冥は一回り小さい、元の体格に戻った。


 守人の母ではない、少女に戻った冥を見て、真紅は――




 ****************************




「ただいま」


 守人の声に、返事は返ってこなかった。


 自分の家の中をキョロキョロと観察し、ため息を一つ。


「なんか違和感だな」


 誰もいない自宅は初めてだった。守人が家にいるとき、帰ってくるときは常に冥か文藍がいたからだ。「おかえり」の声がない家の中は、守人にはとても入りづらい空間に見えた。


「……ただいま」


 突っ立ってても仕方がない、と守人はもう一度言ってから靴を脱いだ。


 腕にはまだピリピリした感覚が残っているような気がしている。雷の大鳥、サンダーバード。触れればそれだけでダメージになりそうな敵に、守人は抱きついたのだ。何故そうしたのかは守人は覚えていない。そうしなきゃいけない。そう思ったから、でいいかと腕を見て軽く思い、守人は廊下を歩く。


 守人は先に家に帰ってと冥に言われた。文藍もメンテがあるらしい。代わりに何かやろうかと台所を覗くが、すぐに諦めた。頭を振って「やめた」と守人は呟く。


 守人は家事ができない。簡単な掃き掃除や拭き掃除程度は可能だが、炊事洗濯裁縫すべて不可能。当然だ。優秀な侍女がいる。母親代わりの冥も料理はできる。守人がやる必要はないのだ。


「多少、手伝っとくんだった」


 誰も聞いていないのに、後悔を口にする。守人は普段独り言が多い方ではない。寂しいからか、常とは違う家の様子に些細な恐怖を覚えているのか。


「……早く帰ってきてくれないかな」


 でないと、また考えてしまう。守人はそう言いそうになる自分の口を手で塞いだ。自爆だ。あれは、自爆だ。自分が手を下したわけじゃない。


 守人は考えてしまう。あの男を、哀れんでしまう。


 人類解放軍。そのメンバーの大半が日本人だと守人は文藍に聞いた。在日合衆国軍の生き残りと自衛隊が母体になって自然発生した復興集団が基だ。土木作業と完成された指揮系統、そして集団行動。復興作業に従事し文明の再生を志す集団だったのだと。


 いつしか悪魔に嫌悪感を抱くもの達が離脱。武装化し悪魔の排除と人間だけによる復興を目指す。その目的の下に悪魔に恨みを持つ人間が集ったのが、今の人類解放軍だ。


 自然、日本人が多くなる。


 守人も気づいていた。ジョージ・ワシントンの罵声に日本語が混じっていたことに。発音こそ英語っぽいが、紛れもない日本語が混じっていた。長い年月で、祖国の記憶が薄れていく。敬愛して止まず、誇りにすらしていた祖国が自分の中で消えていく。その恐怖は守人には分からない。


 守人は首を振る。廊下に立ち尽くしていた。何もせず考えるだけで、答えが出ないのだ。自分がやったことは善か。それとも、悪か。考えるまでもない。守人は街とゲートを守った。それだけだ。それだけなのに、考えてしまう。


 気がつけば家に入る光が暗くなってきている。日差しの向きが変わり、朝日がよく入る窓からの光が少なくなったからだ。


 壁に掛けられた時計を見ると、昼放課の時間まであと20分だった。常ならば授業を受けながらもお腹が減った、などと考えているような時間帯だ。


 時間を確認した途端、お腹が減るなんて。守人は誰もいないのに小っ恥ずかしくなり、思わず頬を掻く。


 先述したとおり、守人は家事を出来ない。つまり料理もできないのだ。したこともないし、する必要も無かった。せいぜい調理実習の練習にとタマネギ切って卵焼いた程度だ。


 カップラーメンなどのジャンクフードは置いてないし、冷凍食品もカット豆腐程度しかない。


 材料になるような食材だけはあるが、勝手に使って良いものか、そもそも自分に調理できるかすら分からない。母親代わりの冥も、侍女の文藍もいない。


「お腹空いた……」


 思わず口に出る。守人は自分の腹に手を添え、さすった。


「腹が減るってことは、生きていること、だったな」


 守人は真紅の言葉を思い出した。吸血鬼は、人から魔物になった妖魔というカテゴリに分類される。真紅は同じ妖魔である友人から聞いた話を守人に伝えていた。曰く、ゾンビやグールは腹が減らない。我らの飢えは、空腹とは別の何か、と。


 ならば、人間の自分は生きている。


「そうか」


 俺は生きている、という言葉を守人は飲み込んだ。口に出すまでもない。


 守人は台所を見渡し、再び昼食をどうしようか考え始めた。その思考を、玄関からの声が遮る。


「守人さま。戻っていらっしゃいますか?」


 文藍の声だ。これで自分が作って失敗するようなことは無くなったと守人は喜び、台所から玄関に向かった。


「文藍、おかえり」


「守人さま。先ほどはお疲れ様でした」


 文藍は靴を脱がず、玄関の土間に立っている。守人は入ってこようとしない文藍に首をかしげつつ、お昼はどうするのかと聞いた。


「お昼ですか。それより、案内するところがあります。食事はそれから、です」


「案内たって、どこへ行くのさ」


「魔王城、で御座います」


 表情の変わらない侍女はそれだけ言うと守人に背を向け、開けたままの玄関へ歩を進める。守人は慌てて靴を履いた。




 ****************************




 魔王城。


 イビルキョートの西、魔の森との境にある巨大な城だ。文字通り魔王が住み、街を守る結界に魔力を供給し続けている。西洋風の作りで増改築を繰り返し、統一感のない外見は魔王城と呼ぶには少々威厳が足りない、とはイビルキョート住民の言。


 その入り口は閑散としている。常ならは開け閉めを繰り返す巨大な自動ドアは電源を落とされ、動かない。透明なアクリル製のドアを通してみる魔王城エントランス内は暗く、閑散としていた。


 市役所を兼ねた魔王城は常ならば人気が絶えることはない。静けさは守人に非常事態だということを見せつけるようだ。


「皆、地下施設に逃げています。用のある住民も職員の誘導で地下に行っているでしょう」


 文藍は自動ドアを見上げる守人に言う。そういえば来た道の要所要所にイビルキョート市職員の腕章を付けた人達が立っていた。自動ドアにセロテープで貼られた張り紙にも「ご用の方は地下まで」と書かれている。光に弱い種族用の設備だと守人は聞いていた。


「さ、入りますよ」


 文藍はドラゴンも通れる大きさの自動ドアではなく、正面から右に少し歩いた当たりにある通用口を開けた。守人は慌てて文藍を追う。


「こんなところにあったんだ」


 走りながら独り言を漏らす。普段あまり魔王城に訪れない守人はこの通用口の存在を知らなかったのだ。


 人間が通れる程度の正面玄関に比べれば遙かに小さいドアをくぐると、そこは魔王城エントランスホールの端だった。緩い曲面を描く奥の壁に沿ってカウンターが並んでいて、いつもならばで職員が住民が行う様々な申請を処理していたのを記憶する。


 西日が差し込むと照明が要らないほど明るくなるエントランスも太陽が直上にある今は暗い。


 文藍を探すと、彼女はエントランスホール奥の中央にある大階段の前で守人を待っていた。


 守人はソファや硬めの椅子、書類に記入するための背の高い机が並ぶエントランスを横切り、文藍の下に急いだ。


「守人様、見慣れない光景に驚きましたか?」


「ん、ああ……多分」


 文藍が突然の質問に、守人は曖昧な返事を返す。


 静かな街、人のいない役所、暗いエントランスホール。全てに何か不思議な違和感を感じていた。見慣れない光景だから、というだけではない。


「そう、多分、嫌なんだ」


「嫌、と?」


 大階段に背を向け巨大自動ドアの向こう、いつも通りの、だけど人のいない街を見て独りごちる守人に、文藍は聞き返す。


「街に人がいなくて、笑顔が無くて、寂しい光景は、俺は嫌だ。そう思う」


 胸に手を当て、守人は真剣な面持ちで文藍に顔を向ける。


「ならば、これから守れば良いのです」


「守る? これから?」


「はい。これからも賊は攻めてくるでしょう。前の襲撃は15年前。次も15年後、などという悠長な奴らではありません」


 守人はジョージ・ワシントンを思い返す。あのような執念の男が、まだ他にもいるのだろう。


「俺が、守る?」


「はい」


 文藍はこくりと首肯した。


 守人に背を向け、階段を一、二、三段、ゆっくりとした足取りで登り、振り返って守人に手を差し伸べる。


「ですがあなた一人で、ではありません。行きましょう。紹介したい人達がいます」


 守人は文藍の手を握り、文藍と同じ高さまで階段を上る。文藍は守人に握られた手を引かず、待っていた。


「誰か聞かないのですか?」


「これから会うなら、会ってから聞くよ」


 文藍は少しだけ表情を和らげると、階段の上を見る。


「行きましょう。我々はあなた一人に全てを背負わせるつもりはありません」


「我々?」


 守人が反射的に呟いた言葉に、階段を登りながら文藍が答えた。


「はい。私とあなたの仲間です」


 文藍が少し先を行き、守人は手を繋いだまま、ついて行く。


「仲間って、ヴァプラさんみたいな?」


 守人は獅子頭の男を思い浮かべた。戦闘が終わり、格納庫で「お疲れ」と自身を迎えた男だ。アルコーンの整備を担当すると言っていた。


「そうです。ヴァプラは整備や機械関係を担当しています。彼にももう一度挨拶に行きましょう」


 先ほど会ったとき、守人は戦闘直後のためかヴァプラの激励に対して生返事を返し、ろくな挨拶もしていない。


「ちゃんと挨拶しないとな」


「すぐに会えますよ」


 大階段を登りきった踊り場で、文藍が踊り場の壁に掛けられた大きな絵の額に隠されたスイッチを押すと、絵が上にスライドしてエレベーターが現れた。


「まずは発令所へ行きましょう。戦闘の補佐や解析、冥様が待機する場所でもあります」




 守人はエレベーターの中から、自分の心臓が強く鼓動しているのを感じていた。楽しみなのと、恐れ、不安がない交ぜになった複雑な心を否応無しに自覚する。


 人と知り合うのは好きだ。話すのも好きだ。


 また戦うのは、怖い。街が壊れるのは嫌だ。人が死ぬのはもっと怖い。


 これから知り合う人と険悪になったらどうしよう。


 守人の気持ちを察したのか、文藍は守人の手を握る力を少しだけ強くした。


 エレベーターの到着ベルが鳴る。


 ゆっくりと、鉄の扉が開いた。


 大きな部屋で全体的に暗い。まず守人の目に飛び込んだのは巨大なモニターだ。アルコーンとアルコーンにとりついた小さく歪な人型の魔族、グレムリンが写っている。格納庫での整備の様子かなと守人は思った。


 部屋の中はコンソールが据え付けられたデスクとモニター、その前に椅子が幾つも並んでいて、中央に柵の取り付けられた円形の台が見える。デスクには何人かの人間や悪魔、亜人が座り、仕事をしているのかコンソールを叩いていた。


「やあやあやあ! 楯家の坊ちゃん、守人くんだね! そして文藍くんもさっきぶり!」


 突如どこからか甲高い声がして、守人は慌てて周囲をキョロキョロと見渡す。


「下だよ下。こっちこっち」


 守人が視線を下げると、猫がいた。ちょっと大きくふくよかなのトラ猫が、後ろ足だけで立っている。


「ね、猫! の悪魔、ですか?」


 驚いた守人は思わず叫び、慌てて取り繕うように疑問形を口にした。守人の反応を楽しむように猫はむにゃむにゃと満足そうに口を歪め笑い、頷く。


 猫の顔だが人間のような表情をする猫は後ろに二歩歩いて高らかに答えた。


「如何にも! 我が輩はルキフグス・ロフォカルス! 魔界の宰相である!」


 身振り手振りを交え大げさに自己紹介する猫。二足で立って尚、守人の膝ぐらいまでしか高さがないほどの大きさなので、見た目だけは愛らしい。


「が、現在は地球におわす魔王様の宰相をやっており、そのために改名いたしました。るき、ふぐすと言います」


 両手で中央巨大モニターを指し示すと、モニターの表示が変わり、「琉輝 富具須」と表示した。彼の名前はこう書くのだ。


「我が輩、正直後悔しております。琉輝も富具須も画数多くて書きづらいのです。しかも富具須とか凄く変な名前でありますな」


 猫の宰相はうなだれ、両手を地面に突いて落ち込んだ。が、守人には猫が普通に四つ足で立って下を向いているようにしか見えない。


 ルキフグスはすぐに顔を上げ守人の顔を見るとやたら嬉しそうにまたしゃべり出す。


「あ、この格好ですか? 何故猫なのですかと聞きたいですか?」


 顔を左右に揺らしながら聞いてくる猫。


「あ、はい」


 守人は思わず肯定する。。


「ゲートは魔力の大きい悪魔を通せない、というのは既に周知でありますな。ゲートがまだ拡大しきっておらず、魔王様が少しずつ広げ、安定させているのでありますが、それでは我々のような強い力を持つ部下がやってこれませぬ。そのため! 力の大部分を封印しておるのですな、これが。確か、年若い悪魔の冥様ですら力の一部を封印しておりますな。我が輩の場合は魔力を大幅にカットし、頭脳と政務能力を残すことで宰相としての力を遺憾なく発揮しておるのです!」


 前足を腰のあたりにあて、猫宰相は目を閉じ満足げに胸を張った。


「た、大変ですね」


 ルキフグスの早口なおしゃべりは聞き取りやすく、守人には不思議と理解しやすかった。だが音の連続に気圧され呆然となった思考は直らない。


 守人がルキフグスの言をかみ砕いている内にルキフグスは何か気付いたように片目だけを開け、守人を伺った。


「ははァん。猫の姿で不便ではないかと。不便ではないかと! 聞きたいわけですね坊ちゃァん!!」


「いやその」


 聞いてないと守人が言う前にルキフグスは捲し立てる。


「いやいやいやいやこれでいて猫の姿は楽なんですよ。ほら、何も着ていませんからいや、ストリーキングとか露出狂とかそういう意味ではござらんぞ? 我ら悪魔、いや魔族と呼ぶべきですな。我ら魔族、文化を創れぬ者達でありますからして、ファッションにはどうにも疎いのですなぁ。つまり! 魔族の大半が似たような服を三着着回しているのはファッションについて理解が及びにくく、自然と着慣れた、または好きなデザインの服を着回してしまうので御座いますよ! 魔王様のように、魔王様のように!」


 そういえば文藍はいつもメイド服だし、真紅は赤いドレスっぽい服。冥に至っては制服か似たようなトレーナーと野暮ったいロングスカートの組み合わせだ。色の組み合わせも適当だったと守人は知り合いの私服のダサさについて気付いた。周囲が周囲なので、普通はこうなのだろうと思っていたのだ。


「故に、故に! そうなのですそうなのです。故に私は猫の姿を選びました! これで大手を振って裸で、裸で!! 四六時中裸で過ごしても何も言われないィッ! 同じ格好でも問題無い! 毛皮だからなァ!」


 ルキフグスはファッションに何か恨みでもあるのかと場にいる全員が思った。


「おっと、失敬失敬。興奮しました。さぁさ、メンバーの紹介をしましょうか。とはいえ……」


 ルキフグスは後ろを向いて部屋を「デスクが邪魔で見渡せませんね!」と叫んだ。


「文藍」


「かしこまりました」


 守人がため息を吐きながら言うと、文藍はルキフグスの脇に両手を差し込み、持ち上げる。


「おやありがたい」


 ルキフグスは礼を言いながら部屋中を見渡す。守人もルキフグスに倣って見渡した。


「全員と話をするわけじゃないし、時間も掛かるし、守人くんも混乱するだろうから一人だけ、えっと」


 発令所内には壮年のがっしりとした男性や年若い褐色の女性、とても小柄なひげもじゃな人、刈り込んだ金髪の白人男性、馬や牛の顔を持つ人、三対六本の腕を持つ女など実に様々な人・悪魔がいる。


「あ、いるいる。イズミくーん、来て来て」


「はい、待っていましたよ」


 発令所の最前、巨大モニターの前にあるコンソールに座っていた男性が立ち上がり、ルキフグスに答えた。


 モニターの逆光で守人からは顔が覗えない。彼が守人の方に歩くにつれ、逆光が収まり、顔が分かるように鳴った。


 守人にはごく普通の、人間の男性に見える。


「彼は普通の人間だよ。同じ人間の男のほうが何かと気を許しやすいと思ってね」


 ルキフグスは自身が呼んだイズミが来るのを待たず、話し出した。


「オペレーター、つまり戦闘中に状況や解析情報を君に伝える役目を彼に任せた。我々は別に君に命令を出すためにここに控えているわけじゃない。君が奴らと戦ってくれるなら、我々は君をサポートする。ここはそのためにあるんだ」


 ルキフグスが喋っている内にイズミが守人の前に立ち、手を差し出した。


「握手、最初はこれがちょうどいい」


 と言われ、守人は右手を出す。彼は守人の手を握り、上下に二回、振った。


「イズミ ジンロク。漢字はこう書く」


 イズミが左腕で正面巨大モニターを示すと、モニターには「和泉甚六」と表示された。


「古めかしい名前、だったんだけどね、俺が産まれた頃は。最近じゃあ懐古とかそういうのだったり、悪魔の帰化だったりで珍しくない名前になっちまった」


 和泉はウィンクして守人に笑いかけた。適度に鍛えられた体だが、肌は白い。髪は耳の少し下辺りで切りそろえられ、前髪を上に反るように固めるという最近のイビルキョートでは一般的な髪型をしている。


 守人が「よろしく」と返そうと口を開くと、和泉は左手の手のひらを守人に向け、守人を制した。


「おっと、よろしくはまだ言わなくていい」


 和泉は握手していた手をほどき、守人に背を向ける。


「勢いに飲まれてオーケーするんじゃない。もう少し、よく考えてから答えを出すんだ。戦うかどうかをね。この戦いは、君自身の確かな意思で、参加の可否を決めるんだ。そうだろ琉輝さん?」


 文藍に持たれたままのルキフグスを和泉は受け取り、床に下ろした。


 再び二本の脚で直立する猫・ルキフグスは両前足をバンザイのように天に向ける。


「その通り! いや、別に人道的な問題とか君の意思を尊重とかしてるわけじゃないんだ。ちゃんとした理由があるんだよ」


「理由、ですか?」


 守人はしゃがんで目線を猫に近づけて聞いた。


「それはね」


「琉輝様」


 話そうとしていたルキフグスを文藍が名前を呼ぶ。


 ルキフグスは文藍を見上げ、むにゃーおと一鳴きした。


「やはり言っては不味いかね?」


「可愛らしく鳴いても許可出来かねます」


 文藍が猫から顔を背ける。


「可愛っ?」


 守人は文藍の珍しい言動にうろたえ、思わず言葉を漏らした。


「我が輩としては、教えるべきだと思うがね。それは後で話し合おうじゃないか」


「文藍」


 四つ足になって和泉と共に発令所の奥に歩いて行くルキフグス。守人は二人の背を見ながら立ち上がり、隣に立つ文藍に聞く。


「俺には教えられないって、どういうことだ?」


「守人様が気にしてはいけないことです」


 文藍は否定的な言葉を続けようとしたが守人の表情を見て口を一端噤んだ。


「いえ、いつかお話します。ですから、ここはお許しください」


 守人は文藍の顔を見る。文藍が目を閉じて口を開かないのを見て諦めた。幼い頃からの付き合いだ。だから時が来たら、又は守人が理解すれば、話してくれる。そうなることを守人は知っていた。


「分かったよ。そろそろお昼には遅い時間だ。どこで食べるんだ?」


 守人は文藍から視線を逸らし、手近なコンソールのモニターに表示された時計を見て聞いた。一二時はとうに過ぎ、昼放課の時間が終わった辺りの時間だ。


「まだ案内するところが御座います。終わってから、のお楽しみということで」



次はもう出来ております。

二日後の11月5日、20時に予約投稿します故、よろしくお願いします

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