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2-a 三人で

 魔王城にも謁見の間がある。


 イビルキョートにおける謁見の間とは、魔王の仕事の場だ。


 つまり、常に魔王はここに在り。

 魔法陣の描かれた床の上で生活の全てを行う。

 魔法陣に魔力を供給せねばならない。

 それが魔王の仕事だからだ。


 もっともイビルキョートに尽くす者、彼が魔王サタン。


 あまり離れられないため、謁見の間は否応無しに生活感に溢れることになる。

 布団や敷かれたままで、ちゃぶ台やその上に載ったパソコン。

 ちゃぶ台付近には電子レンジや冷蔵庫が置かれていた。


 魔王は座椅子に腰を下ろし、ヤカンに入った熱いお茶を湯飲みに入れて呟く。


「始まりました、ね」


 魔王が見つめる先には薄いモニターがあった。

 イビルキョートの最新技術、マジカル液晶テレビだ。

 灰色のデッサン人形みたいな巨人機兵、アルコーンが画面に映っている。


「過ちに気付くのに二年。

 それから今日まで十五年。

 貴方には恩を返そうと思っても返しきれない」


 魔王の背後から声を掛けるのは白衣の男性だ。

 顔には老齢の皺が刻まれ、髪は白髪に僅かばかりの黒が混じる。

 胸にはアミュレット……魔力や生命力を魔法陣に吸われない為のお守りが魔法陣の光を跳ねさせている。


「返さなくても結構ですよ。

 契約ですから」


 魔王は茶を啜る。

 世界がこうなる直前に静岡から魔界に保護した茶の樹から取れたお茶だ。

 二十年でようやく以前の味と収穫規模を取り返せた。

 茶だけではない。

 魔王の周りには魔界で保護し、作られ続けた物で溢れている。

 布団も、ちゃぶ台も、技術さえも。


「しかし」


「罪悪感をお感じで?」


 老人が何か言おうとするのを魔王は遮る。


「確かに我らは娘や孫を生贄に差し出した。

 だが、死ぬわけではない。

 だろう?」


 魔王は湯飲みを新たにちゃぶ台の上に置き、茶を注ぐ。

 魔王が飲んでいるものより若干濁りが濃い。


「……渋いのは大丈夫ですか?」


「最近は濃い方が好みになってきました」


「老いましたな。

 人の生は短いようで……」


 魔王は湯飲みをちゃぶ台の右端に置く。

 湯飲みを示すように手で指し示した。


 老人は魔王のジェスチャを察し、ちゃぶ台の前に胡座を掻く。

 置きっぱなしの座布団は老人がいつも座る場所だ。


「それに」


 魔王は老人が座るのを見届けると、背後の冷蔵庫――一切魔力を使わず電力で動く――から葛饅頭を取り出した。

 葛饅頭は平たい皿の上に二つだけ載っている。

 魔王は皿をちゃぶ台の上に置き、片方をつまんで一口で頬張る。


「くずや、ですか」


 老人もそう言って葛饅頭をつまんで半分囓った。


 魔王派は口の中の糖分を熱いお茶で流し込む。


「くずや、です」


 饅頭を買いに行かせた店に続けて、魔王は言う。


「それに、誂えてはおりますが幸福になるのです。

 不満はないと思いますよ」


 画面のアルコーンは黒くなり、銀色の装甲を身に纏い始めていた。



 ****************************



 先に攻撃したのは蛇腹の手足を持つワシントン。

 アルコーンの姿が変わる前と同じようにアルコーンを殴ろうと鉄拳を伸ばした。


 単調だが純然たる破壊力を秘めた拳をアルコーン・メイオセレスは事も無げに避ける。

 冥が来る前以上に素早い反応だ。


「軽い」


 守人は感想を口にする。

 重さを感じていた憑依前とは違い、自分の体と同じかそれ以上に使いやすい体を守人は得ていた。


 守人は手に持つ矛を市街を襲う伸びきった鉄拳の蛇腹に振り下ろす。

 魔力を纏い、炎に包まれた矛の刃はあっさりと弾かれた。


 刃とワシントンの腕には何十もの円が組み合わせられた模様の魔力障壁が出現したのだ。


 冥が編んだ術式によって強化されたはずの刃と、冥の魔力を担保に元々の何倍にも引き上げられたアルコーン・メイオセレスの攻撃。

 それを弾くほどの魔力と術式を走らせる回路を敵は持っている。


『なんて硬い魔力障壁!』


『恐らく魔導機関コアのスペックが高いのでしょう』


 冥の驚嘆に文藍が補足した。


『それに加え、技術力はこちらを大きく上回っています』


 魔力障壁で攻撃を防いだワシントンの腕は障壁の反動で地面に垂れ下がる。

 瓦礫を弾き飛ばし土煙を舞上げるワシントンの腕にアルコーンが矛の切っ先を下に向けた。


「腕を止めれば!」


 守人が叫び、同時にアルコーンが両手で持った矛をワシントンの左腕に向け突き降ろす。

 魔力を纏い赤熱した矛の切っ先と出現した魔力障壁の防御面が拮抗し、魔力が鬩ぎ合う閃光を散らした。


「くぅぅ!」


『何を悠長に!』


『敵魔力障壁減衰率五十%。

 ……六十%……七十%』


 力を込め障壁を突き破るつもりなのだ。

 何層も重ねられた魔力障壁が一枚、また一枚と砕け散り、光に変換されて行く。

 このまま力を込めれば破れるだろうが、それを赦す敵ではない。


『Noooohh!

 Screw you guys!!

 kuttabarry!!』


 スラング罵声を浴びせ、また国歌を歌い出しながらワシントンはもう一方の鉄拳を突き出す。


『八じゅ、来ます。

 回避を』


 文藍がカウントを中断し警告。

 アルコーンは文藍の警告に弾かれたように後に飛び退る。


「くっ、あと少しだったのに!」


『策も無しには無理よ』


 冥が守人の無謀を叱責した。


 ワシントンは攻撃された左腕を引き戻す。

 左腕があった場所には長い轍の様な窪みが出来ていた。

 魔力障壁があった箇所が一番深くなっており、矛の攻撃と障壁の抵抗が凄まじかったことを物語る。


『それより、私の力を使うわ』


『冥様、魔力量は七十%を切っています。

 出し過ぎては魔力障壁を展開出来なくなりますのでご注意を』


 自分から何かが抜けるのを守人は感じた。

 今まで体に満ちていた何かが少なくなる。そんな感覚だ。


「あ……」


 不快ではなく、心地よくもない、ただそうあるだけの感覚に不思議な気持ちになり、守人は身を少し揺すった。

 これが魔力か、守人はそう思いながら聞いた。


「何を?」


『現状を打破するのよ』


 冥の断言に、守人は安心しつつワシントンの鉄拳を避ける。

 伸びきったワシントンの鉄拳を槍で払い、魔力障壁を発生させた。

 ダメージはない。


 魔力障壁は当然だが魔力を使い、使えば消費する。

 巨人機兵が魔力で動く以上、浪費するのは良くない。

 無論、このことは敵にも同じことが言える。


『守人様。

 考えている事は分かりますが攻撃でも消費してしまいます。

 無駄撃ちは避けるべきでしょう』


 文藍の忠告で守人は追撃を止める。


「く、分かった」


『術式完成。

 行くわ、デモンスレイブ!!』


 冥が術式に魔力を通した。

 術式が実行され、アルコーンの魔力が消費される。

 守人は力が抜ける感覚にアルコーンの動きを止めてしまう。

 眼前ではワシントンが腕を振りかぶっていた。


「あっ!」


 ワシントンが鉄拳を振り抜き、音速でハンマーパンチが迫る。

 動きを止めたアルコーンは回避が遅れた。


「あた――」


 当たる直前、鉄拳は振り上げられた剣によって払われる。

 ワシントンの腕を払い除けたのは、骨だ。

 アルコーンと同じ大きさの、人の骨。

 人型にきちんと組まれた人骨が、両手で大きな片刃の剣を持ち、振り上げた姿勢でアルコーンの右隣にいた。


 巨大な、スケルトン戦士だ。

 空洞の眼窩に魔力の炎を灯らせている。


 一体だけではない。

 身の丈と同じ長さの弓を持った巨大弓スケルトンがアルコーンの右斜め後ろに一体。

 片手剣と丸盾を持った巨大スケルトン剣士がアルコーンから少し離れた左右に。

 計四体の巨大スケルトンがそれぞれ立っていた。


『デモンスレイヴ・ポーン。

 私の魔王の娘としての、悪魔を率いる力の具現よ』


 冥の声が聞こえる。

 と同時に、守人は理解していた。

 このスケルトン達は、自分の意のままに動かせると。


『守人様。

 術式の制御は私と冥様で行います。

 存分にお使い下さい』


 守人は頷いてから、首の動作だけでは二人に伝わらないだろうと「分かった」と言った。


「デモンスレイヴ……一々言うのは面倒だ。

 デモンズ!」


 守人が叫んだ。

 右隣の大剣を持つスケルトン戦士が振り上げた剣を降ろし、構える。


 スケルトン達は守人の声に「あいわかった」と言わんばかりに顎の骨を上下してカタカタと乾いた骨の音を立てた。


 弓スケルトンが矢を番える。

 片手剣片手盾のスケルトン剣士が盾を前に出して身構えた。

 大剣スケルトン戦士がアルコーンの前に出る。


「大剣の戦士、前に突っ込め!」


 アルコーンは矛を指揮杖のように片手で持ち、切っ先を前に向けた。

 守人は頼もしい部下に命じる。

 大剣の巨大スケルトン戦士は剣を片手で持ち、空いた手を刀身に添えるようにして前に出し身を守るようにしてから前に、敵に向け走り出す。


「剣士、大きく左右から回り込んで後から攻めろ!」


 大剣の戦士よりも身軽そうな巨大スケルトン剣士が同時に走り出した。

 それぞれ逆の方向から迂回するようにワシントンの背後を狙うのだ。


「弓、顔を狙え!」


 弓のスケルトンが指を離し、相応に巨大で太い矢が大剣の巨大スケルトンの脇を追い抜いてワシントンに迫る。

 弓のスケルトンは既に新しい矢を番え掛けていた。


 身に迫る矢をワシントンは片手で払い除け、走ってくる大剣スケルトンに鉄拳を繰り出す。

 鉄拳は蛇腹で伸びてスケルトンの大剣を弾き、そのまま巨大スケルトンを殴った。

 スケルトンはバラバラになって骨が散乱する。


『What's!?

 Very easy...hahaha!

 WEEEEAK!!』


 ワシントンは大剣スケルトンを倒した事に拍子抜けしながらも、すぐに周り込んでくるスケルトンを対処しようと両腕に力を込めた。


 守人は驚かない。

 守人は動じない。

 冥も文藍も、当然のように次の行動に入る。


 アルコーンが矛を天に向け掲げた。

 切っ先に魔力が集中し、光出す。


 ワシントンはスケルトンを与しやすしと同時に倒すべく、両腕を一気に伸ばして左右のスケルトンを攻撃した。

 右のスケルトン剣士は盾に攻撃を当て逸らしたが、左のスケルトン剣士は盾で受けきれず、大剣のスケルトン戦士と同じようにバラバラになる。


 弓のスケルトンが射った矢は魔力障壁に突き刺さり、慣性を失い瓦礫の街に落ちた。

 魔力で出来ている矢は溶けるように消え、弓スケルトンに回収される。


 瞬く間に状況が変わる戦場のど真ん中で、ワシントンにとっての異変、アルコーンにとっての当然が起こりだした。


 大剣のスケルトンのバラバラになった骨が集まる。

 骨を集め元の姿に組まれたスケルトン戦士は立ち上がった。

 片手には大剣を持ち、もう片手に自分の頭蓋骨を持っている。


『NOOOO!! Dam'it!!』


 スケルトン戦士は頭蓋骨を自分の頭があったところに持っていき、脊椎のてっぺんに載せてトントンと頭頂部を叩いて固定する。

 大剣を両手で持ち、再びワシントンに向け走った。


『アンデットは死なないからアンデットなの』


『砕くまで努々安心をしないことです』


 冥と文藍が誇るように言う。


 鉄拳を盾で受け流したスケルトンが迫り、ワシントンの腕に飛びついた。

 スケルトンと腕の間には魔力障壁が展開しているが、スケルトンを弾き飛ばす程の強力な物ではない。


『解析。

 敵の魔力障壁は敵の重量やスピード、攻撃に込められた魔力に応じて自動で出力が調整されるようです』


 文藍が捕捉する。


「限度はあるんだろ?」


『はい。

 あります』


「なら、話は簡単だ」


『それ以上の攻撃を与えれば良い、ですね。

 簡単です』


 守人が聞いて、文藍が答えた。


「冥!」


『エンチャント、もう少し時間掛かるわ』


 アルコーンが今行っているのは武器に魔法の力を付与するエンチャントだ。

 ワシントンの腕を攻撃したときのような熱を加えただけのエンチャントとは違う本当のエンチャント。

 武器の存在と概念の格を一段階上げ、絶大な攻撃力をもたらしてくれる魔法。


 だが、時間が掛かる。


 右腕に組み付かれたスケルトンをワシントンは振り払おうと身をよじる。

 スケルトンは離れず、ワシントンは左腕も組み付かれてしまった。


『Nou!』


 大剣スケルトンがワシントンの正面に立ち、大剣を両手で握って振りかぶる。


『Fack!!』


 ワシントンが口を大きく開き歯を倒して発射準備をした。

 大剣スケルトンの肋骨の間を抜けた矢が、ワシントンが今発射しようとしていたミサイルに突き刺さる。

 矢が刺さり弾頭が拉げたミサイルは爆発した。

 発射口に入っているためか、他のミサイルへの誘爆は起きない。


 爆発したミサイル発射口の隣に収まっていたミサイルがせり出て、発射される。

 直後大剣を振り下ろす大剣スケルトンの背骨に命中した。

 ミサイルの爆発がスケルトンの背骨を吹き飛ばす。

 振り下ろされた大剣はスケルトンの背骨がなくなったこととミサイルの爆発により勢いを無くした。

 大剣の刃はワシントンの頭上に出現した魔力障壁に当たって弾かれる。


「今の見たか?」


『矢の命中による魔力障壁の発生を確認できませんでした。

 不意を突いたためかミサイル発射時に障壁を発生出来ないかは不明です』


 ワシントンは組み付いたスケルトンを払おうと激しく身を左右に揺らす。

 右の剣士スケルトンは負けじと自らとワシントンの間に発生している魔力障壁を掴んだ。


『剣士スケルトンBが掴む魔力障壁より魔力消費を確認』


 弓を射っていたスケルトンがバラけて空に消える。


『弓スケルトンの消滅を確認。

 魔力消費限界を越えたことによる損耗です』


 矢を放って攻撃する関係上、矢を構成する魔力を回収しているとはいえ魔力の消費は激しい。

 そのため弓スケルトンは多用出来ないのだ。


「大丈夫だ」


 ワシントンの目の前で大剣スケルトンが組み上がる。

 スケルトンは自分の頭蓋の位置を調整するように叩いた。


 左の剣士スケルトンがワシントンの振りほどきに耐えられず宙に浮き、自由になった鉄拳により叩かれ四方に骨が飛び散る。

 骨が音を立てて瓦礫の地面、そしてまだ無事だった家やビルに落ちて壊していく。


『剣士スケルトンA。

 パーツが散ってしまったため再生に時間が掛かります』


 剣士スケルトンを散らせた右腕を引き戻し、ワシントンは動かないアルコーンに向け再び鉄拳を放った。

 察知していた大剣スケルトンがワシントンの右腕に横から飛びつきアルコーンへの攻撃を阻止する。


「冥、まだか?」


『もうちょっと!』


 守人の催促に冥はまだ応えられない。


『DIE!

 Youuuu gouuuu deeeeeeeaaaaad!!』


 チャンスとみたワシントンが再度攻撃を行うべく動いた。


 右腕は大剣スケルトンに組み付かれている。

 左腕は剣士スケルトンに組み付かれている。


 ワシントンが放ったのは、脚だ。

 ワシントンは右足を浮かし、突きだした。


 ワシントンの脚と腕は同じ構造になっている。だから、ワシントンの右足は鉄拳と同様に音速で放たれた。


 同時に。


『できた!』


 アルコーンのエンチャントが完成した。


 迫るワシントンの右足に、アルコーンは右足を軸に風より速く体勢を回して半身になる。

 アルコーンのマントにワシントンの鉄脚に擦り、後方へなびいた。暴風を前に一陣だけ向かう風のように。


 アルコーン・メイオセレスが持つ矛が、光る。

 同様の光を、スケルトンたちの大剣と剣が帯びた。

 紫色を帯びた、暗い光だ。

 アルコーンは静かに、佇む林のように、力を蓄える。


 アルコーンは矛を右手で短く持った。

 体の左方へ伸ばした右腕を撓ませ、炎のように熱い感情を力に変え、溜める。

 右足を軸に左足を前に出し、ワシントンに背を向けた。


 アルコーンの動きにマントが棚引かれ、アルコーンの腕をワシントンから隠す。

 マントの陰で、アルコーンは破壊の意思を既に標的に向けていた。


「これで」


 左足を軸に右足を後に引いて向きを変えたアルコーンの正面に、ワシントンの脚。

 アルコーンは腕を上げ、矛を振りかぶる。

 刹那、ワシントンの脚が伸びきり、アルコーンと共に動きを止めた。

 山の如く、アルコーンの脚は大地を掴み、ワシントンの脚は絶望的な程隙を晒している


『私達の』


 左膝から下へ落とすように体を捻り、体を沈ませながら矛を雷の速度で振り下ろした。

 雷霆が鋼と魔力の壁を貫く。


『勝ちで御座います』


 アルコーンの闇色に光る矛が、ワシントンの盤石を誇る魔力障壁ごと右足を半ばから断ち切った。

 切り終えた姿勢でアルコーンは顔を上げ、両目を赤く光らせワシントンを睨む。


 体を一回転させて回避からの逆袈裟斬り。


 ワシントンの右足、切断箇所から先は重力に引かれ、数秒掛けてゆっくりと落下した。


『Nou!

 No!

 Nooooooo!!』


 切断され短くなった右足が縮んでワシントンのところに戻る。

 金属の塊が戻る慣性を肩足では吸収しきれず、ワシントンは後へと倒れた。

 地響きがイビルキョートに出来た瓦礫の街を揺らす。


『守人様。

 勝ちが確定したとは言え、まだ腕が残っています』


「分かっている。

 油断はしない。

 スケルトン!」


 文藍の忠告に守人は返事をし、スケルトンに命じる。


 守人の命に応え、ワシントンの左腕に組み付いたスケルトン剣士が手に持つ剣をワシントンの左腕付け根に突き刺した。

 剣は魔力障壁を容易く貫き、蛇腹の内部にある構造を分断する。


 大剣スケルトンは得物の大きさ故に組み付いたまま腕を断ち切ることが出来ず、組み付いたままだ。

 ワシントンの攻撃から復活した剣士スケルトンAが剣を逆手に持ち替え、ワシントンの腕を刺し貫こうとする。


 その隙が、ワシントンに時間を与えた。


『Gu,AAAAAAGH!!』


 ワシントンが身をよじって右に転がる。

 ヤレヤレと一仕事を終えた仕草をしていた剣士スケルトンBの下半身にぶつかり、スケルトンBを弾き飛ばしたのだ。

 ワシントンが転がるにつれ、左腕が大きく回され復活したばかりの剣士スケルトンAを殴り、大剣スケルトンを吹き飛ばす。


『あいつ!

 まだ気力が萎えていない!』


「脚をやられてたってのに!」


『そもそも戦っているときに場所を移動しませんでしたね』


 文藍の冷静な対応が場違いに守人は感じたが、分析と正しい状況判断はありがたかった。


「じゃあ手も足も切ってやれば!」


『それよりも良い手段があります』


 剣士スケルトンAが再生せず消滅していく。

 限界だったようだ。


 ワシントンは立ち上がる。

 右足の蛇腹を伸ばした状態で固定し、立ち上がったのだ。


「まだ立つ!

 文藍、いい手段ってなんだ?」


『簡単な話です。

 巨人機兵は魔力で動き魔力を扱います。

 が、人間には魔力を生産することは出来ませんし、科学的手法や魔方陣や術式でも作ることは出来ません』


 文藍はいつもと変わらぬ、機械的な一定速度の話し方で話し始める。


 守人が睨むワシントン、その四肢から放電が始まった。

 パリパリと蛇腹に纏うように雷が奔る。


『雷から強い魔力反応です。

 術式による雷の生成ではなく、雷の属性を帯びた魔力による放電現象ですね』


 あり得ない話だった。

 術式や魔法ではなく、雷の属性を持つ悪魔が感情のままに魔力を放出しなければ、発生しない雷なのだ。


「そんなことはいいから速く教えろよ。

 暢気にしてる場合じゃないって!」


 守人が急かす。

 魔力を扱えず、魔法を使えず、術式を知らない守人にはあずかり知らぬ話なのだ。


『いいえ、大事なことです』


 文藍は守人の催促に応じない。

 文藍はそう言って話を再開した。


『なぜなら人類解放軍のメンバーは人間故に魔力を使えません。

 ならば、結論は一つです』


『あの巨人機兵の中に、私達の仲間がいる』


 文藍の言葉に冥が続ける。

 単純な話だ。無ければどこからか奪えば良い。


『人間には生産出来ないし、溜めてもあいつの使い方では直ぐに使い切ってしまう。

 なら、悪魔を捕まえ魔導炉に繋げれば』


「魔力を使えるって?」


『その通りで御座います』


 姿は見えぬが、守人は文藍が大きく頷き笑顔になった気がした。


『故に、囚われの悪魔を救助すれば、敵巨人機兵は動力源のない鉄屑に成り下がります』


「だったら話は早い!」


 守人/アルコーンは槍を構える。


 ワシントンは右腕を思いっきり振りかぶった。

 スケルトン達が飛び散った骨を集めるのにはまだ時間が掛かる。


 自分が、自分だけでやるしかない。


 いや――


「俺と、冥と、文藍で、助けよう!」


 顔も名前も知らない、囚われの誰かを。



次回、決着。

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