新生活はキラキラでありたい
たぶん続きを書いていくと思います。おおよその展開は組めているので後はやる気です……。
私はツバサより先に我が家へと戻った。親がいればきっと口うるさく言われるんだろうけど、その心配はない。今は私一人だけである。
のちのち妹に話をつけることにしても、ツバサにはなんとか凌いでいける環境をつくってやれそうだ。
とりあえず、空き部屋のチェックをする。しばらく使っていなかったから、入った瞬間埃っぽい臭いが鼻をついた。カーテンも締めていたのでまっくら。なにがなんだかわかりゃしない。
口元を押さえつつも私は窓をあけに行く。カーテンを開くと光が部屋中に漏れまぶしくなり、窓を開ければ透き通った空気が流れた。
向かいにはツバサの家、そして部屋が見える。カーテンが閉まってるけど、もぞもぞと動く影が見える。きっと荷造りをしてるんだろうね。
振り向き明るくなった部屋を見渡してみる。それにしても、なんて味気ない部屋だろう。家具、その他の物と言える物は一切なく、フローリングは埃で白くなっている。私の足跡がついているほどで、足の裏を確認すると靴下が真っ黒になっていた。
まずは床掃除だ。私は汚なくなった靴下を脱ぎ捨て雑巾で走り回った。
数十分かけて部屋を磨き尽くす。いつのまにかくすんでいた床は輝きを取り戻し、窓からの光を反射していた。時間は午前12時で午後0時。真昼の太陽がギラついていた。
仕上げにと窓も拭きにかかると、ツバサの部屋の窓がわずかに開いているのが見えた。依然としてカーテンは閉まったままだけど。そこから、奇妙な臭いが漂ってくるのを感じた。
酸っぱいような……錆びた鉄のような……まるで汗をかいたあとのような臭いだった。しかし、それにしてもキツい臭いだった。距離にして5〜6mは離れているだろうにそれがはっきりわかるほどなのだ。
一応掃除も一段落したし、この臭いも気になるから、一旦ツバサのところに戻ろう――。
当たり前だけど玄関、リビングと誰もいないのでやけに静かだった。ただ、上の階から忙しなくどんどんと歩き回る音が聞こえる。
「一体なにをしてるんだろ。古いゴミでも見つけちゃったのかな」
私はその音の主のもとへと向かう。階段を上り、短い廊下をぐるりと回ったその先だ。ドアは閉められていたが、先ほどの奇妙な臭いはここまで漏れだしていた。
「なんだろう……ん?」
ふと、扉の下を見ると、隙間から水みたいなものが流れだしていて水溜まりを作っていた。思わず声の出ない悲鳴を上げる。生ゴミか何かがあったのだろうか。
これは急いで確認しないと……そして、もし必要とあらば掃除も手伝ってあげよう――そう思って私はそのドアを開けた――。
が、そこに広がっていたのは恐ろしい光景だった。
部屋床全体が赤褐色の液体で覆われていたのだ。そして窓際にあるベッドには、ゼリー状の物体がまんべんなく敷き詰められており、まるで血に染まっているかのようにも見えた。
どうやら、そのゼリー状の物体を中心に液体がしみ出ているようだった。その傍らにはツバサ。左手にバケツを持って、必死でそれを回収しようとしていたみたいだ。
驚愕から意識を現実に戻すと、迫りくるのは強烈な臭い。わかった。これは血と汗の臭いだ。軽く吐き気を催す。私は口を手で押さえ、それを堪えた。
「ハルなんで……チャイムくらい鳴らせよ……」
女の子ぶっていた演技はどこへやら。ツバサは呆然と立ち尽くして言った。
この光景は見られたくなかったのだろう。
「いや、掃除終わったから……それに変な臭いがしたから――ねえこれ、なに?」
「わからない……わからないんだ。なにも……」
力なくツバサは言った。バケツは手から滑り落ち、その中身を床へとぶちまける。
着替えたばかりの“彼女”の服は血のようなどす黒い赤で汚れてしまっていた。