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叶いたもうた一つの願い

ギャグありですが、そこそこ。シリアスありですが、そこそこ。下ネタありですが、まあまあ。


肩の力を抜いて読んでください。

「つまりね、私が叶えられることの出来ない夢――あ、それは金銭面だとか能力面だとかの話じゃなくて、もっと根本的なところの話ね。まぁ、それだったわけ」


そう言う“彼女”に対し今はただ、無言を貫く。何も言い返せないからだ。


「だって、私頭はよかったでしょ?それはもう飛び抜けて。それに……まぁ、顔もよかったわけで。人が羨むようなものは大概手に入れてると思われてた節があるじゃん」


なんというナルシスト。救い用がないね。


「でもさ、わかるでしょ。だから私にだって夢はあったんだよ。そう、絶対に手の届かないようなもの。誰一人として叶えることの出来ないこと。これがさ、こう叶っちゃったわけだからさ……」


彼女は右手でこぶしを作り、軽く自らの頭にこつりと当て、舌をちょこんと出す。


「最強だよねっ!」


「知ったこっちゃないよ!!」


気が付けば私は彼女を蹴っ飛ばしていた。


彼女は思いの外軽く、二メートルくらいは脚色無しに吹っ飛んでいた。


「イタタタタ。女の子だからって、女の子に手をあげちゃ……いや、あげたのは足かな?」


「妙に冷静な考察はいらないから! ってかなに? 勝手に話を進めないでよ! 私おいてけぼりだよ!」


思わず声が大きくなってしまう。自分でもまぁ、いろいろやりすぎたとは思うけど。この状況じゃ仕方ないと思う。


だいたい、こいつの態度腹が立つ。


「……仕方ないなぁ。じゃあ掻い摘んで説明するよ。……女の子になった! 以上!」


「そこが一番聞きたいんだよ!」


彼女は私の発言にやれやれと肩を竦める。いやいや、私の理解力が低いわけではないでしょ。そっちの説明が足りないわけで。


「私だってわからないし……」


「それだってそうだよ!」


「ん?」


「口調! く、ちょ、う!!」


「なにかおかしいなぁ?」


首をかしげ、それはもう媚びるような仕草をまざまざと見せ付けてくる。しかも笑顔。何が嬉しいんだよ畜生。


「あんた、一人称俺だったよね?」


「えっ、なに、わからないー」


「棒読みじゃん!」


「……はぁ。わかったわかったって……ったく、しつこいなぁ」


ようやくいつもの調子で言葉を口にしてきた。そう、これが自然なんだよ。


「俺だって理由なんてわからないんだ。でも、俺は女の子になって後悔なんてしてない。むしろ幸せなんだ。長年の夢が叶ったんだよ。だったら理由とかメカニズムとかマジでどうでもいい。俺は女の子を満喫する」


「変態の発言にしか聞こえないよ!」


「し、失敬な! 心持ちはとても純粋だというのに!」


涙目になる彼女。いや、彼女ではない。元男の変態だ。


なぜかこんな状況でも女の子座りをするあたり、これはもう完全にいかれてる。こいつに男のプライドはないのか?


「まさかとは思うけどね、今着てるそのだぼだぼのシャツの下……」


「ん?」


「なにも付けてない?」


「うんっ!」


満面の笑み。一瞬かわいいと思っちまったじゃないかこの野郎。だが、こいつの中身は変態だ。変態なんだ。だまされちゃいけない。


「くっ、サイズが合わないから仕方なく大きいのを着たとかいうシチュエーションじゃないの?」


「違う違う! 裸ワイシャツなんてネタに決まってるだろう? 俗物だよ! 俗物!」


自分で俗物って認めたよ。つまりは自ら俗物に成り果てようとしているのか!


「この姿でさ、鏡を見てみたら――うん、ピーンッと来たね!」


確かに似合ってはいる。私だってよだれが出そうに……って違う! 普通の神経の持ち主ならそんな発想をするわけないだろう!


ちょっとぐらい今の状況に戸惑うべきなんだよ!


あぁ、どうすればこの気持ちを伝えられるのだろう。この変態に。


「やっぱり、幼児体型にこそ、男サイズだよなぁ」


「問題発言をそんな大量生産しないでよ! こっちの突っ込みが追いつかなくなるから!」


「つ――」


「突っ込むなら後ろにとかいいから」


「なんでわかるんだよ……」


疲れる、本当に疲れる。おかしいな、男だった時はこんな変態じゃなくてむしろ憧れっていうか、イケメンっていうか……本当になにをどうしたらこうなっちゃったんだろ。頭のネジって交番に届けられるのかな? そうだとしたら本人確認は差してみるのかな? 何考えてんだ、私。


「はぁ……もういいかな? お風呂入りたいんだけど」


「朝風呂とは良い御身分で……って! だめだめっ! この変態!」


「なんでだよ! 俺の身体じゃないか!」


「もしかしたら誰かと入れ替わってその身体になったかもしれないでしょ! それに今からお風呂なんて下心丸見えだよ!」


「漫画の見過ぎだろ、お前。だいたい……あ、あぁ……つうか、単純に汗流したいんだよ」


「我慢しろよ!」


「おいおい、わからないのか? ほら……」


そういいながら、おもむろにワイシャツを後ろに引っ張り出した。すると生地が彼の体にぴったりとへばりつき、どんどんとその線を露わにしていく。


「わわ! わかった! いいよいいよ! そんな恥ずかしいことしなくても!」


「はぁはぁ……わかってくれればいいんだ。では……」


「待って! 身体を見るなとかは言わないけど変な恰好はしないでよ! ってか、息遣い荒いし! と、とりあえず私の妹の服持ってくるから! 帰ってくるまでお風呂に入ってて!」


「はいはい……妹のか……」


なにか猥褻じみた発言を聞いたような気がしたけど、とりあえず今は置いておこう。


――いや! やっぱりだめだ! あいつには私のお下がりを着てもらおう。


はぁ、なんでこんなことになったかな。昨日までは普通だったのに。


女になりたいなんて素振りを見せたことなんか……むむむ、ちょっと思い出してみるか――



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