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最終話  あの時の君へ

   最終話  あの時の君へ

    

 聴こえてくる目覚まし時計の音。鈴花は時計が鳴り始めるとゆっくりと目を開けて止めた。あくびをしながら起き上がる。彼女は半分寝た状態で身支度を済ませた。鞄を持って一階にあるリビングへと移動する。リビングのテーブルには彼女の母親が作ったサンドイッチが載せてある。母親は既に仕事に行ったようだ。彼女は一人サンドイッチをかじった。

 ふと鈴花はサンドイッチを口に含みながら時計を見る。すると予鈴十分前だ。急いでサンドイッチを口に放り込み、皿を片付けて家を出た。そのまま早足で学校へ向かう。時間はあるが普通に歩いていたら間に合わない。学校に入ると昇降口にて素早く上履きに履き替える。急いで二階へ続く階段を上った。そこで、彼女は開かずの間と呼ばれる部屋を見る。何時もの通り鍵がかかっていて何も変化は無い。彼女はそのまま教室へ入った。

「京子。おはよう。」

 鈴花は先に来ていた京子に挨拶をしながら自分の席に鞄を置いた。椅子に座ると京子のほうに体を向けた。

「ねえ、昨日テレビでやってた映画見た。」

 京子は鈴花の言葉に頷く。二人は昨日放送した映画についてやれ主演の男がかっこいいとか、あの展開は無いだのと色々言い合う。

 気がつけばチャイムが鳴り、ホームルームの時間が始まる。鈴花は未だ鞄から出していない教科書類を速やかに出して机へとしまった。

 チャイムが鳴ってしばらくの後、先生が教室に入ってくる。

「ホームルームを始める前に一つ。今日から一緒に勉強する新しいお友達を紹介します。」

 先生の発言は突然で、クラス内が騒がしくなる。男子はかわいい女の子だったら良いなとか、女子ならかっこいい男の子ならいいなとかである。

 先生は彼らを静かにさせると、廊下のほうを見た。先生が教室の外に居るだろう転校生に入るよう促す。ゆっくりと教室内へ入ってくる転校生。男子生徒だったためか、周りの女子がすかさず反応する。

 先生は転校生が彼の横に立つと、自己紹介をするように言う。

「真部宗太です。今日からよろしくおねがいします。」

 少々緊張気味の真部宗太。クラス全員の視線が集中しているためか無理も無い。

 鈴花から見て彼の目が動いていることが分かった。クラス全員を見ているのだろうと思う。

 鈴花は一度手元を見た後、再び真部宗太を見ると彼と目が合った。彼は小さく驚きすぐに視線を逸らした。彼女には彼が驚いた理由がわからない。

「それじゃあ、ホームルームを始めるぞ。じゃあ、真部君はあの席に座って。」

 先生に言われて真部宗太は自分の席に向かって歩き出す。その時、鈴花の背後から京子の声が聞こえた。

「ねえ、今度来た転校生。鈴花を見て驚いてたね。まさか、知り合いとか。」

 そこで京子は先生に注意されたために自分の席に引っ込んだ。

 鈴花は再度転校生を見る。転校生、真部宗太。必死に過去に会った人と照合してみるも一致しない。

「それじゃあ、今日も頑張ろうな。」

 先生は必要事項を伝え終えると教室を出て行った。

 鈴花は一時限目の授業の教科書を取り出そうと机の中に手を入れる。すると、何か薄い紙が教科書の上に載っていた。取り出してみれば写真だ。その写真を見て彼女は驚く。すぐに周りのクラスメイトがどうしたのかと聞いてくる。彼女はすぐに写真を教科書類で隠して何でも無いと言った。

 写真に写っていたのは夜の公園でブランコに乗っている鈴花と転校生。そう、今日転校してきた真部宗太。

 片手で頭を抱える鈴花。写真に写っているのは確かに彼女と今日来た真部宗太なのだ。しかし、何時誰が撮ったのか分からない。第一彼女は今日始めて彼を知ったのだ。

 そこで鈴花は軽く首を振る。いや、もしかすると彼女は彼を知っているのかもしれない。ただ、思い出せないだけかもしれない。しかし、彼女はどうやっても真部宗太との記憶を思い出せななかった。

 大切なもの、何処かに忘れてきちゃったのかな。

「荒谷さん、だよね。」

 見上げれば、今日来た転校生の真部宗太が居た。背後からクラスメイトたちの声が聞こえたが気にしない。鈴花は写真を出して真部宗太に本当の事を聞いてみた。これは何なのって。

「荒谷さん。思い出せないんだね。何時かは分からないけど、確かに僕らは一緒に居たんだよ。この場所に。」

 鈴花が再度写真をよく見れば、家の近くにある公園だった。しばらく行っていないから、すぐに気が付かなかった。

「ごめんなさい。あなたの事は思い出せないわ。どうやっても思い出せないの。」

 真部宗太は残念そうな表情で何度か頷く。鈴花自身もなんだか心が痛む。彼はそのまま彼女の席を離れた。彼女は彼を視線で追いかけると、ふとなにかを思い出したらしく急いで彼女の席に戻ってきた。

「じゃあさ。もう一度最初から始めようよ。友達としてさ。」

 鈴花はそれなら良いと頷いた。彼と居れば、写真について何か思い出すかもしれない。

「僕は真部宗太。」

 真部宗太は握手を求めてきた。鈴花もそれに応えた。

「私は荒谷鈴花よ。よろしくね。」


 もう一度始めよう。もう一度。



     Black Book for Busters 絶望と希望の少女  完  

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