第二十四話 甘くない資格
第二十四話 甘くない資格
鈴花はぐったりと疲れたままハルに連れられて駅に戻った。駅構内に着くとその場に座り込んでしまう。
「ほら、立つんだ。座るなら電車に乗ってからだ。」
鈴花は丁度来た宗太に支えられながら改札を通って再度電車に乗った。東京までの数十分間。彼女は宗太の肩にもたれかかる。宗太が嫌そうにしていないのでそのままにした。ハルには寄りかかれないのだから丁度良い。
鈴花たちは東京に到着すると、電車を降りてエスカレーターと階段を含んだ長い道のりを歩いた。駅構内は表示しなくても良いほど人は溢れ、ごちゃごちゃして気持ち悪い。眠って回復した体力を使って人ごみを器用にすり抜ける。彼女たちは駅を出るも、先をどうするかは考えて居ない。辺りは陽が落ちて暗くなっていた。
「今日はもう遅い。どこかに泊まろう。どこが良い。」
ハルにどこと言われても鈴花は東京にあまり来たことがないので思いつかない。今日の朝泊まったところはビジネスホテルで正直微妙なところだった。泊まるならもっと高級なホテルでサービスが良い所。特にこれまで泊まったことの無いところに泊まりたい。彼女はそんな事をハルに伝える。
「そうだな。この辺りで高級で歴史があってサービスが良い所というと……。」
鈴花の要望にいつの間にか歴史云々が加わり目指すホテルが導きだされた。
「新帝都ホテルか。ちょっと遠いけどな。」
新帝都ホテル。鈴花も名前ぐらいは知っている。国内で五つの指に入る有名なホテルだ。とはいえ、それ以上にここから遠いことが気になった。
「そこで構わないけどさ。これ以上歩くの。もう休みたいんだけど。」
鈴花はその場にしゃがみこんだ。ホテルの場所は知らないがここから歩くのならそんなところに行きたくない。
「構わないなら大丈夫だ。俺が連れていってやる。ほれ、宗太も足掴めよ。」
ハルは鈴花を抱えると飛び始めた。慌てて宗太もハルの足を掴む。
人が居ない東京は恐ろしいほど静かで真っ暗だ。しばらく飛ぶと、真っ暗な中にぽつんと明かりが点いた建物が見えた。これが目的地だろう。ハルは建物の前で下ろしてくれた。「新帝都ホテル」は外見も、入り口から見えるホテル内も立派に見えた。何階のホテルなのか数えられない。館外にはドアマンが二人居る。
「なんか凄いホテルだね。名前は知っているけど初めて見た。」
宗太がホテルを見上げている。ホテル自体大きく立派だ。こんなホテルなんて鈴花は生まれて以来泊まったことが無い。
「ここで良いな。このホテルで一番高いところに泊まるぞ。」
ハルは鈴花が止める間も無くホテル内に入ろうとする。ドアに近づくとドアマンが両開きのドアを開いてくれた。鈴花と宗太も後を追ってホテルに入る。
ハルの動きは早く、手短に手続きを済ませて戻ってきた。買い物をしたときと同じような事をしているのだろうか。
「部屋取ってきたぞ。スイートは無理だったがその一個下のランク二部屋に三人だ。同じランクの部屋が二つあって本当に良かったよ。分け方は前回と同じで良いよな。」
ハルが一気に説明したので、鈴花たちは困惑しながらも頷いた。ハルが凄く嬉しそうにしているのは気になったが、男女一つの部屋という意味があるだろうと納得した。そういえば、ハルに性別はあるのだろうか。
すぐに二人のホテルマンが来て部屋に案内してくれる。途中で宗太とは別々に別れて部屋に着いた。
「こちらがお客様のお部屋です。」
部屋に入るとさすがに良い部屋だと直感的にわかる。鈴花は自然と感嘆した。当たり前なのかは分からないが自分の部屋の倍以上の広さがある。大型のテレビがあり、ソファとバスルームもしっかりしている。
その間にホテルマンは丁寧に必要な情報をハルに案内してから戻っていった。
ハルはホテルマンが出て行くとベッドにダイブした。
「スイートに泊まれなかったのは本当に残念だ。資格がある奴をハードコーディングしてやがる。」
ハルのつぶやきは聞こえたが何を表しているのか鈴花には検討がつかなかった。ハードコーディングってなんだろうか。
そんなハルを見ていると素早く起き上がってこちらを見た。
「よし、飯食いに行こう。宗太の部屋行くぞ。」
早速動き出すハル。鈴花も黒い本をテーブルに置いていこうとした。すると、ハルは黒い本を彼女から受け取って目の前で消した。しばらく預かるということだろう。
宗太の部屋は別の階にあった。同じランクの一人部屋だからなのか狭いながらもしっかりした部屋だ。
鈴花たちは宗太と合流するとエレベーターで地下一階に降りた。この階には食事処が沢山ある。通りを歩くと各店から良い匂いが漂ってきた。客は居ないが店はやっているという状態だろうか。どこでも選び放題なのは異様だがもう鈴花たちにはおなじみだ。
その中の一つにはいって食事を済ませると明日の朝まで解散となった。
鈴花とハルは自室に戻るがテレビがやっている訳でもなく昼間も戦ったので非常に眠い。
「私眠るわ。おやすみ。」
鈴花は半ば無意識にお風呂に入るとそのままベッドに倒れこんでしまった。頭は朦朧として立っていられないからだ。
布団をかぶるとすぐに眠りについた。