第二十二話 短い休息
第二十二話 短い休息
鈴花たちは彼女の家に到着した。とは言っても、家は敵に破壊されて見るも無残な姿になっている。中に入れるかも怪しい状態だ。
「もう、住めないなこりゃ。俺が中に入って必要なものを取って来てやる。何か必要なものは。」
ハルの言葉に鈴花は彼女の部屋にあるものを口に出して並べていった。これから必要そうなもの。そこで、ふと写真の事を思い出すとポケットの中に手を入れる。昨日から入れたままの写真があった。面倒なので着替えた服に入れておいたのだ。
「それだけか。じゃあ、宗太を探しといてくれ。その辺に居るだろ。」
ハルの言葉に鈴花は頷く。ハルは家の中に、彼女は宗太を探し始めた。彼女たち以外に自ら音を発するものは無いため、声を出せば遠くまで広がっていく。
「おーい。ここだよ。」
少し遠くから声が聞こえてきた。宗太の声だ。鈴花が声のする方向へ走ると、彼がこちらに駆けて来るのが見えた。彼女の前で立ち止まり荒い呼吸を整えようとしている。顔は下がり、少々辛そうだ。
「無事だったみたいね。良かった。」
鈴花の言葉に宗太は顔を上げて頷いた。
「荒谷さんも。無事で良かった。」
鈴花はその姿を確認すると頷き、彼女の家のほうを見た。
「家に戻りましょう。早く寝たいわ。」
鈴花と宗太は並んで彼女の家へ続く道を歩いた。彼は敵が現れたとき、しばらくはその場に隠れていたようだ。近くに敵が寄ってきたので別の場所に移動したらしい。いくつか敵と出合ったらしいが、どうにか攻撃を受けずに逃げたそうだ。実際のところ敵から見たら彼女が目標だと思うので彼を積極的に追いかけないのかもしれない。
鈴花たちが家に着くと、ハルは庭に座って家を見ていた。
「おう、二人とも大丈夫だったか。」
ハルの言葉に鈴花と宗太はそれぞれ頷く。ハルは立ち上がり家を指差した。
「ご覧の通りこの有様だ。もう住めないだろう。」
鈴花の住んでいた家は傾き、今にも音を立てて崩れ落ちそうな状態だ。中で眠れば起きる前に家の下敷きになっているもしれない。ハルはいつの間にか上空に上り、周りを見渡している。すぐに、彼女の元に戻ってきた。
「この町も破壊されてきているな。もうここを離れて別の場所に行ったほうが良さそうだ。」
鈴花は変わり果てた家を見て納得した。これまで住んでいた家にはもう住めない。それにこの町も所々破壊されてしまった。
鈴花が別の場所とは例えばどこかとハルに尋ねる。
「ここからだと東京かな。あそこはここよりも色々なものが揃うだろう。」
他に移動する先を考えていないためか、鈴花はハルの提案を採用した。東京ということは移動手段は電車だろうか。
「そうか。ここを離れて移動するんだね。」
宗太を見れば道路に出て辺りを見回している。自分の育った町だから、離れたくないのかもしれない。彼女は宗太の言葉からそんな答えを導き出した。
「家が壊れたんだから仕方ないだろ。」
宗太の言葉にハルが対応する。実際のところまだこの町に残ることは出来る。しかし、住んで居た家が壊れたことでこれ以上この町で戦う理由が無くなってしまった。それにこれ以上この町が破壊されるのも気分が悪い。
鈴花はあくびをしながら両腕を思いっきり空に向けて背伸びをする。まだ睡眠をとっていないためか眠い。
「東京に移動する前に駅前のホテルで休むか。」
ハルの提案で駅前のホテルに泊まることにした。朝からチェックインなどどうやって出来るのかと思う。しかし、ハルの提案なので何かあるのだろうと思って三人は駅前へ向かった。
駅が目の前に見えるホテルは外見に比べて建物内は意外と綺麗で広い。黒い本は何時ものとおりホテル内に存在するスタッフや客人たちを映し出す。動きが嫌に生々しくて本当に居るように錯覚してしまう。宗太を見ればパジャマ姿のためか周囲の視線を気にしていた。相手が生身の人間では無いことがせめてもの救いだろう。
フロントに聞けば泊まることが出来るらしい。鈴花とハルで一部屋、宗太一人で一部屋を使うことになった。彼女は三人それぞれの部屋が良いのではと提案した。しかし、ハルはそれを拒否して彼女と一緒の部屋にするように言って来た。ハルがそばにいればすぐに黒い本を取り出すことが出来る。だから、ハルは彼女と一緒の部屋のほうが良いのかもしれない。
「それじゃあ。三時にロビーに集まりましょう。」
鈴花の声でそれぞれが自分の部屋へ入る。彼女は部屋のベッドに倒れたい衝動を抑えつつハルから着替えを受け取ってシャワーを浴びた。眠いためか立って居ることが出来ず、その場に座り込む。すると、誰かが部屋に入ってくる音が聞こえてきた。ハルと話をしているので宗太だろう。服が無いとかそういう話かもしれない。着替えて部屋に戻ると、ハルがベッドの上に座っていた。
「東京に行く前に宗太に服を買うことにした。ホテルを出たら前回鈴花と一緒に行った店に行こう。」
前回行った店は今居るホテルから駅をはさんだ反対側にある。東京へ向かう電車にパジャマを着て乗るのはさすがに辛いのかもしれない。鈴花自身もそれは避けたいと思う。
鈴花はカーテンを開けると、先ほど出来なかったベッドへのダイブを実行する。そして、やわらかい感触を肌で感じながら夢の中へ入っていった。