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第十二話  もう一人の少女

   第十二話  もう一人の少女

    

 鈴花たちは家の中に入ると家の中に明かりが灯った。彼女はすぐに黒い本が明かりを点けたのだと思った。家の中には朝見た物は何一つ無い。リビングやダイニングを見ると食べ物が見つかり、誰かが住んでいたことがわかった。ここに住んでいた人も、やはり何処かへ消えてしまったのだろうか。

 鈴花の家であるのに彼女の家では無い。そんな新しい感覚をもたらすこの家の中を彼女は歩き回った。各部屋を回りどのような使われ方をしているのか調べる。家の中のすべての明かりが点いているわけでは無い。そのため彼女は黒い本を持ったままハルと一緒に回った。

 住人がそれぞれ使用していた部屋は三つ。本が沢山ある部屋。両親が使っていたらしい部屋。そして、子供が使っていたらしい部屋である。子供が使っていたらしい部屋は彼女が元の世界で使用していたところだ。

 鈴花は子供が使っていたらしい部屋へ入った。部屋中に良くわからないポスターが貼られている。この部屋の主が好きなアイドルだろうか。彼女が机の上を見ると、写真立てがあった。家族の写真が飾ってある。両親とその間に居る彼女、そう彼女。

 鈴花は目を見開き、写真から素早く顔を離した。ハルは何かあったのかと聞く。彼女はゆっくりとハルを見る。そして、震える手で写真を指差した。

「ねえ、なんで。なんで私が、この写真の中に居るの。ねえ、なんで。」

 二人の間に写っている少女は確かに鈴花であった。今の彼女よりも大人びて見える。よく見れば隣に居るのは彼女の母親だ。反対側に居る男は見たことが無い。この男は一体誰なのだろうか。写真から父親だと考えられた。写真の日付を見れば彼女が過ごしたことの無い未来がしるされている。

 ハルは写真に近づき、彼女と交互に見た。

「どういう事なの。これって、私じゃない。」

 写真を見れば見るほど彼女の頭の中がかき混ぜられる感覚を味わう。彼女は机に両手を付いてしゃがみこんだ。わけが分からず気持ち悪い。何か得体の知れないものを吐き出しそうだ。

「こっちにも私が居て。私よりも大人びていて……。」

 鈴花は何度も首を横に振ると、立ち上がって再度写真を見た。

「意味がわからない。この世界にも私が居たって事なの。彼女も消えちゃったの。」

 鈴花は机に手をついてじっと写真を見た。

「彼女の代わりに私が呼ばれたって事なの。そうなの。」

 憶測の域を出ない考えが頭の中を回り続ける。ハルは鈴花の持つ黒い本を見るも首を横に振るだけだ。やはり、何も教えてくれない。

 鈴花はその場に座り込み大きく深呼吸した。落ち着かなければやっていられない。ここにはこの世界の彼女と彼女の母親が確かに居たのだ。そして、父親らしき男も。彼女は部屋の中を見渡した。一見するとこの世界の彼女とは趣味が合わないようだ。いや、そんなことはこの際どうでも良い。

 鈴花は落ち着くと室内に配置されているベッドへとダイブした。片手に持つ黒い本をベッドの傍に置く。

「ハルって、敵が来たことがわかるの。」

 鈴花の言葉にハルは頷く。ネビュラの時も彼女が本を開く前に気が付いていたため、そうではないかと思っていた。

「じゃあ、何かあったら起こして。」

 鈴花はそれだけ言うと布団の中にもぐりこんだ。直後、照明が消えるとともにドアを開け閉めする音が聞こえる。ハルが部屋の外に出たのかもしれない。布団からはどこかで嗅いだことのある匂いがする。その匂いを吸い込みながら彼女は眠りについた。

 

 

 鈴花は空腹で目が覚めた。考えてみれば昼から何も食べていないのだ。外を見れば未だ暗く夜だということがわかった。軽く目を擦りながら起き上がる。一瞬夢から覚めたのかと思ったが、照明のスイッチを点けると同時に現実に引き戻された。ひさしぶりに見た光の強さに目を背けそうになる。彼女は強い光を避けるように階段を下りて一階のダイニングルームへと移動した。すると、そこには既に明かりが灯っていた。

「待ってたぞ。腹減ってるだろ。」

 テーブルの上に載せられた料理の数々。料理は湯気が立ち上り、出来立であることがわかる。料理の傍にお茶が置いてあった。ハルの話では麦茶らしい。そして、それ以上に目を引いたハルのコック姿。空飛ぶコックである。どこからそんな衣装が出てきたのか謎である。いや、このタイミングで料理が出ている事についても謎である。彼女は問いかけようと思ったがまたよく分からない返答か答えられないと言いそうなのでやめた。ここはそういう所なのだ。

「すごいわね。これ全部作ったの。」

 鈴花は空いている椅子に黒い本を置くと自らも椅子に座った。目の前に並ぶおいしそうな料理。冷蔵庫にあった材料から作ったのだろうか。よくわからない。彼女はじっと料理を見た。ハルは料理が上手いのだろうか。

「うまいぞ。多分。」

 鈴花は料理に手をつける。初めは恐る恐るであったが、一口二口と食べるとおいしさに気がつく。それからは箸を置くことなく食べ続けた。ハルを見れば同様に食事を始めていた。なんと、彼は椅子に座って食べている。蛙から変身した時を最後に今まで飛んでばかりであったため、椅子に座っている姿は普段とは違う状態に見えた。ハルは椅子に座ると意外と小さく見えた。

 それぞれが食事を終え、麦茶を飲みながら落ち着く。鈴花は周りを見渡しながら、ふとハルを見た。

「お風呂。入れない、よね。」

 鈴花は照明や料理ができるのだから、お風呂も沸かせるかもしれないと思った。しかし、初めから出来るとは考えない。黒い本やハルにも出来ないことがあるだろうから。

「家で生活していく上で行うことは全部出来るぞ。お風呂だって洗顔だって歯磨きだってな。それにいちいち黒い本を持ち歩くのも大変だろ。用が無いときは俺がもっていてやるよ。」

 ハルは椅子の上に置かれた黒い本を持つ。すると、次の瞬間本は跡形も無く消えてしまった。

「き、消えた。何処いったの。何処に隠したの。」

 鈴花は驚き慌てる。まるで手品である。しかし、彼は手品師では無い。何処に隠したのだろうか。

「心配するな。今は俺の体の中にある。俺はあくまでも本の番人だ。お前が呼べばすぐに駆けつけるし、言えばすぐに本を出すことも出来る。何か必要なものがあったら俺に言え。」

 ハルは席を立つと汚れた皿を素早く回収してキッチンに持っていく。そこで彼は何かに気がついたらしくすぐに鈴花のほうに戻ってきた。

「風呂に入るんだったら着替えを脱衣所に用意しといてやる。あとは何かあったら呼べ。」

 ハルはそれだけ言うとキッチンに戻っていった。

 鈴花はお風呂場へと続く廊下を歩く。窓の外は真っ暗で、今何時なのか全く分からない。先程の部屋には時計があったが確認していなかった。いや、今は時間なんて気にすることは無い。それよりも重要な事が沢山ある。

 鈴花は脱衣所に入ると乾いたタオルがあるか確認する。彼女はすぐに服を脱いで風呂場へと入った。風呂場はさすがにこっちの世界もあっちの世界も使われ方はほぼ同じで、あまり変わりがなかった。変わっている部分といえばシャンプー類の銘柄だろう。見たことはあるが使ったことの無い銘柄ばかりである。この際、勝手に使わせてもらっている身分なので品質の問題があるにせよつべこべ言わずに黙って使うことにした。

 

 

 鈴花がお風呂から出ると、いつの間にか着替えが乾いたタオルとともに置かれていた。 置かれていたのは大きめのパジャマだ。彼女は脱いだ服をまとめると、頭に乾いたタオルを巻きつけながら洗面所へと向かった。乾いたタオルが沢山あったので遠慮せず使ってみる。

 洗面所には新しい歯ブラシ、歯磨き粉とコップが置いてあった。

 鈴花は歯磨きをする。歯磨き粉についてはシャンプー同様気にしないことにした。洗面所にもタオルが常備されていて使わせてもらった。ここまでくると、まるでホテルに泊まっているような感覚になる。

 鈴花は部屋に入るとハンガーを探して制服を壁にかけた。こんなときでもしわになるのは嫌だからである。彼女は制服の表面についた小さなゴミを払うとリビングへと戻った。

 鈴花はリビングに置かれたソファに腰をおろして天井を見上げる。ハルも何処からとも無くリビングに来て別のソファに座った。一段落着いたらしい。

「さっき寝たから眠く無いわ。」

 ダイニングの横に位置するリビングは大きなテーブルを中心に二つのソファとテレビがある。テレビがあっても見られるかどうかは怪しい。鈴花はソファに両足を乗せて横になった。

「暇だわ。」

 鈴花は目を瞑り仰向けに寝る。眠くないもののすることが無ければ眠っていたい。

「仕方ないな。」

 鈴花は薄目でハルを見た。彼はテレビに近づき、画面に手の平を向けた。まさか、何か映し出そうというのだろうか。

 直後ハルの目は見開かれ、室内の照明がすべて消えた。鈴花はすぐに起き上がる。

「どうやら敵さんが来たようだ。」

 ハルの声がするものの、鈴花からは彼が何処にいるかわからない。しかし、すぐに位置を確認することが出来た。彼自身がほのかに光り始めたのだ。彼は鈴花に手を差し伸べた。その手の上に黒い物体が出現する。それは模様にそって光り始め、黒い本であることが確認出来た。また、戦わなければならない。

 鈴花は本を受け取ると、リビングを出て玄関から外へ出た。

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