第一話 流れ星の行方
第一話 流れ星の行方
授業の終了を知らせるチャイムの音。黒板の前に居る教師は手短に次回予告をして去っていった。先生が退室すると途端に空気が緩くなる。各自思い思いに友達と会話する。
「あー終わった。」
荒谷鈴花は背伸びをした。午前四つに午後三つの七時間授業は体力を削ぎ落とされる。特に最後の方の授業になれば先生方も理解して難しい内容にはあまりもっていかない。
「おつかれ。もう外暗いし早く帰ろうよ。」
話しかけてきたのは鈴花の友達である小林京子。彼女は速やかにカバンに教科書類をつめ込むと背負い込んだ。
「はいはい、ちょっと待って。」
鈴花はいやいや立ちながらカバンに教科書類を入れ始めた。動きたくないが座ったままではずっと椅子に座ったままなので動く。何時も行う作業。慣れると行動が最適化されて無駄がない。無意識のうちに済ませてしまうことも良くあることだ。しかし、作業手順からこぼれたものは意外と見付けづらい。
「あ、荒谷さん。ちょっといいかな。」
クラスメイトの真部宗太が話しかけてきた。彼とは京子以外では良く話す間柄だ。しかし、現状の鈴花には対応できない。
「ああ、ごめん。今日は疲れているからまた今度ね。明日の放課後にでも聞くわ。」
鈴花はカバンを持つと京子と共に歩き出した。少し頭がふらふらする。早く帰って休みたい。覚束ない足取りで階段を降りると校庭へ出た。隣の京子も心配そうに話しかけてくるが鈴花は大丈夫だと言う。
校庭では野球部や陸上部が練習をしている。そういえばもうすぐ彼らにとって重要な試合がある。確か中学校総合体育大会だったと思う。それと毎年大会前に全校生徒の前で各部が抱負を語る行事がある。
「じゃあ、また明日ね。」
気がつけば京子と別れる場所まで来ていた。鈴花はどうにか対応するとそのまま家に向かって歩き出した。そういえば、今日は前から楽しみにしていた番組がある。さっさと勉強を終わらせて見よう。
鈴花が自宅の庭に入ろうとしたとき、視界の端で何かが見えた。彼女は素早く何かが見えた方向を向く。月も隠れ隠れに地上を照らしているために辺りは暗く人々の光だけしか見えない。彼女はじっと目を凝らす。すると、小さな光が空から落ちてきた。ひとつ、またひとつと落ちてくる。
鈴花は首を傾げた。これはもしや流れ星だろうか。この際お願い事をしようと思ったら見えなくなってしまった。
再度家に入ろうとしたときまた流れ星が見えた。これはよく知らないが流星群というものだろうか。最近ニュースを見ていないので分からないが、近々流星群があるとニュースで流れていたかもしれない。
鈴花はずっと庭に居るのも嫌なので家の中に入った。
「ただいま。ねえ、外で流れ星を見たよ。いや、流星群かもしれないけど。」
「流星群って深夜に見えるんじゃない。それよりも早く勉強しちゃいなさいよ。」
台所に居た母親に言ってみればなんとも冷めた反応だ。
鈴花は詳しくは知らないので反論できない。この話はやめて二階の自分の部屋に入った。室内には色々置かれている。壁にはアイドルのポスター。アイドルと言っても男性では無く女性である。
室内には他にベッドと机があり、机の上には写真立てがある。写真立てには先日家族三人で撮った写真が入っている。父親が仕事でなかなか帰ってこないので、この写真が父親の居ない寂しさを紛らわせている。というのは嘘で母親から写真立てを貰ったので飾っているのだ。父親が帰ってきてもあまり会話していない。相手から話が振られれば対応するといった形で、彼女自身からは話題を出さない。冷めた関係と言われればそういうものだろう。
鈴花はベッドにダイブすると目を閉じて深呼吸した。そして、すぐに机に向かう。
鈴花はさっさと勉強を済ませて食事をしながら楽しみにしていた番組を見た。内容は地球上の色々な場所にリポーターが行ってクイズを出す内容だ。知らない事実がたくさんあって面白い。
番組後に他のテレビ局で放送されてるニュース番組を見たが、流星群だとかといった話は出てこなかった。
ならば、あの幾つもの流れ星は何だったのだろうか。
鈴花は首をかしげたが、それで答えが出てくるわけではない。