取調官
殺風景な空間に重厚なハスキーヴォイスが響く。
取調官・松上健悟、四十二歳。
後輩刑事と記録員を伴って強盗傷害事件の被疑者の取調べを行っている。
彼の類稀な話術は、これまでに何度も被疑者の強固な心を打ち破り、事件解決への糸口を導き出している。
「申し訳ありません……」
松上は泣き崩れる被疑者の頭を自分の胸に引き寄せる。
「苦しかったな、苦しかったな。もォ、楽になれる、楽になれるぞォ」
「ごくろうさまでした。『完落ち』ですね」
取調室を後にした松上に後輩刑事が白い歯をみせる。
松上は無言で後輩刑事の尻を軽く叩き歩き出す。
「松上さん……」
後輩刑事が松上の袖を引く。
松上が振り返ると、後輩刑事は周囲を見回してから松上と肩を並べ、上目遣いに彼を見た。
「今度はオレとつきあってください」
取調官・松上健悟、四十二歳。
通称――落としの松。
えへへ……。