第36話.結婚式
見渡す限りの群青が広がる中で、私とクロフォードの式典は開かれた。
「とっても似合ってますよロミリア様!」
「そうかしら?」
振り返って、鏡で自分の姿を確認する。
そこに映るのは、クロフォードに嫁ぐことになったあの日と同じウェディングドレスに身を包んだ、けれども髪型や化粧やアクセサリーの彩り具合が即席のあの日とはまるで違う華やかな私だった。
なんだか感慨深くなる。
まさか、一度は伯爵令嬢の地位を失って使用人に成り下がった私に、こんな幸せな瞬間が訪れるとは思ってもみなかった。
涙を流して感激しているマディカの頭をぽんぽん撫で、私は彼女の小さな手のひらを両手でそっと包み込んで微笑みかけた。
「私を可愛く仕立ててくれてありがとう。貴女は最高のメイド長よ。これからも末長くよろしくね」
「はい! もちろんです!」
マディカは美しく頼りになる女性だ。きっといつか、彼女も誰かと結ばれる日が来るのだろう。その日が来たら、全力で祝福しようと思う。
クロフォードも準備が整ったと使用人から報告を受け、私は会場の入り口の前に向かう。
すると、白いスーツに仕立て上げたクロフォードがすでに待機していた。私を目にし、にこりと顔をほころばせる。
「すごく綺麗だ」
「ありがとう」
朴訥ながらも多分な感情を孕んだその声に頬が熱くなる。
冷徹非道と言われていたクロフォード。最初はその印象に違わずムッとした表情が目立っていたけど、やがてそれは私に緊張していたからだと明らかになって。
「クロフォード」
「ん、どうした」
「私は貴方に嫁げて幸せです」
きっと世界中探しまわっても、彼ほど私を愛してくれる誰かはいないだろう。
その愛に負けないように、私も彼を愛していこうと思う。
顔を紅潮させるクロフォードに微笑みかけ、私は彼の手をそっと握る。五指を絡めた、双方の間にある愛の大きさをひけらかす手の繋ぎ方をする。
「いきましょう」
「あぁ」
扉が開き、祝福の嵐が浴びせられる。
「ロミィ! おめでとう!」
「ありがとうチャスシス」
チャスシスに笑顔で祝福されて。
「すげぇ似合ってるじゃねぇか。可愛いぜロミィ」
「ありがとうイレーナ」
イレーナに笑顔で祝福されて。
「あぁ、やばいやばい、やばいって。お姉様可愛すぎるって……!」
「ありがとうプラリネ」
私はなんて幸せ者なのだろう。
「綺麗だよロミィ。僕が選んだ髪飾り、すごく似合ってる」
「ありがとうザクセン」
こんなにたくさんの大切な人たちに結婚を祝ってもらえて。
「素敵よロミィ」
「ありがとうシクリー」
凄惨な人生だった。
伯爵令嬢候補から外されて使用人に成り下がって。
女遊びが絶えないと言われている子爵との婚約を愛の冷め切った親に命令されて。
姉のように慕っていた友人には呪いをかけられて。
だけどこれからは、そんなつらい過去を帳消しにしてしまうほどの希望に満ちた未来が待っている。そんな予感がしてならないのだ。
「新郎クロフォード。貴方は、悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も。共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい、誓います」
クロフォードが私の頬に手を添える。
「新婦ロミリア。貴女は、悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も。共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい、誓います」
私もクロフォードの頬に手を添える。
「それでは誓いの口づけを」
私は少し背伸びをする。
クロフォードは少し身をかがめる。
柔らかな熱がしばし触れ合う。
クロフォードが一向に離れる気配がないので、私のほうから唇を離して宣誓した。
「私が必ず貴方を幸せにします」
「それは俺の台詞だ」
クロフォードは私を抱き寄せ、額に口づけを落としてくる。
会場に集まったみんながざわつく。私の頬はあっという間に羞恥で茹った。
「愛してるよロミリア」
「私も貴方のことを愛しています」
三度、口づけする私たちに、司会のラムルスは呆れて頭を振っている。みんなは「いいぞもっとやれ!」と茶化してくる。……みんなというかロッタンだけか。
これから先、生きていく中で様々な困難が私を蝕んでくると思う。泣きたい夜だって何度もやってくると思う。
だけど、きっと大丈夫。
だって私には、私を愛してくれる夫が、友達が、宝物がこんなにもあふれている。そうやってみんなから愛されているロミリア・サディエという人間を、私という人間を、私はちゃんと愛せている。
私の大切な人たちが幸福と愛の海に浸かることのできる日々を護っていこう。
最愛の人の温もりに包まれながら私は固く誓う。
そのために、私は知力と魔力を兼ね備えているのだろうから。
使用人でも、伯爵令嬢候補でも、侯爵夫人でも愛してくれるみんなを護るために、私は今を生きている。
―FIN―
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