第27話.特定
ザクセンが魔道具の流通元の特定をはじめてから2週間が経とうとしていた。
「な、なんなんだよお前……!」
「それはこっちの台詞だよ」
にこりと笑み、路地裏に入るなり焼き殺そうとしてきた刺客を逆に焼き殺し、ザクセンは魔道具を回収する。
「やっぱりこれは新型か」
今日まで幾人もの刺客を屠り、魔道具を回収して分析する中で、魔道具には旧型と新型があることに気づいた。
新型のほうが旧型よりも魔道具に組み込まれている術式が細かく、魔法を早く放てるように設計されている。分析せずとも、対峙すれば双方の魔道具のもたらす助力に差があることは明白だった。
「ここっぽいな拠点があるのは」
そうザクセンがつぶやいたのは――ロミリアが刺客に襲われて肩を弓矢で貫かれた町、すなわちシュナイゼ子爵領である。
旧型の魔道具が北に多くばら撒かれていたために時間を食ってしまったが、とある刺客が魔道具には新型と旧型があると情報を吐いてくれたおかげで、新型の魔道具を持つ刺客が多くいるこの街に拠点はあると特定することができた。
「さて、どこに隠れるのかな、ねずみちゃんたち」
チリチリと鈴を鳴らし、ザクセンは夜のとばりの降りた街を闊歩する。
ザクセンは魔術の天才である。そんな彼が2週間も同じ案件にあたれば、最初こそ複雑な術式に惑わされても規則性を見抜くのは時間の問題なわけで。
鈴の音色がやや歪む。
「そこにいるね」
物陰めがけてザクセンは雷魔法を放つ。
焼け焦げた刺客がどてっと倒れる形で通路に姿を現した。
「もう魔道具は回収しなくて良さそうか」
その後も、ザクセンは刺客を特定しては魔法で殺していった。
まずは子爵邸を構える西に進む。
――段々と刺客が少なくなった。外れだ。
次に海の音色が聞こえる南に進む。
――また段々と刺客が少なくなった。
「北か東か。……よし、北に進もう」
そんな気はしていたけど、こちらも外れのようだった。刺客が無駄死にしただけだった。
というわけで、四択問題を三回外したのちにザクセンは正解ルートと思われる東に歩みを進める。
「うわ、すごい数だなぁ」
鈴が壊れたように音を立てている。
それが合図となり、四方から刺客が飛び出してきた。
「なぁんだ、当たりはこんなにもわかりやすかったのか」
火に、氷に、雷に、風に。
魔法の猛攻が迫り来る。
しかし、ザクセンの涼しげな顔つきは変わらない。
「【光よ、守護せよ】」
ザクセンを護るように光の壁が展開される。
それにより魔法はすべて無効化され、ザクセンは雷魔法の速射で、ひとりまたひとりと刺客を一撃一瞬で仕留めていく。
「畜生ッ、そんなの反則じゃねぇか!」
刺客が泣き叫ぶのも無理はないだろう。魔法を無力する【光よ、守護せよ】。それが消えることなく展開され続けているのだから。
「反則とは失礼しちゃうな。血の滲む鍛錬の成果だよ」
防御と攻撃魔法の同時発動。それに飛行魔法まで重ねて、ザクセンは刺客を蹂躙する。
一流の魔法使いでも、魔法を同時にふたつ発動できる者は一握りと言われている。ましてや三つ同時の発動など、大陸全土どころか、長きにわたる魔法史を見ても片手で数えられる程度といったところだろう。
「殲滅完了っと」
つまるところ、スカルト国の第一王子であるザクセンは、千年に一度の魔法の天才なのである。
「ここが敵の拠点か」
ようやく見つけた魔道具の発生元と思しき場所。
そこは、一見すればそういったものとは無縁そうな茅葺き屋根の家だった。
扉を開けて家に足を踏み入れる。
そして、漂う魔力の気配からここがその場所だと確信する。
「ん~、管理人は不在か。どうしような、来るまで待とうか」
うんうん唸っていると、ザクっと、胸を貫かれる感覚があった。
眼下に目をやる。
血にまみれた剣先が目についた。
「てめぇか。あたしらの大切な客を殺してまわってんのは」
「……なるほど。ようやく理解が追いついた」
「あ?」
「ずっと不思議だったんだ。どうしてロミィは魔法を使えないんだろうって。彼女は言っていた。この指輪は友達からもらった大切なものなんだと。
――あの指輪は、ロミィの魔力を封じる呪いの魔道具なんだね?」
闇夜に出現した刺客はハッと笑った。
「だったらどうした。てめぇはここで死ぬ。今知ったところでだろ」
「僕が死ぬ? はは、冗談もほどほどにしなよ、ウルフカットちゃん」
剣に貫かれたザクセンの姿が光を散らして消失する。
それと同時、ウルフカットの刺客の肩にぽんと手が置かれた。
「魔道具で悪さしようが正直どうだっていい。ただひとつ約束しろ。もうロミィには関わるな」
「……できねぇっつたら?」
「今ここで殺す」
「そいつは困るな」
ウルフカットの刺客は剣を地面に落とし、降参だとばかりに両手を挙げた。
「わ~ったよ。もうロミィには関わらねぇ。これで満足か?」
「うん、理解が早くて助かるよ。もし約束を破ったらわかってるね?」
「破らねぇって。てめぇのほうこそこれ以上無駄な殺しをするんじゃねぇぞ」
「わかった。じゃ、今日の出来事はお互い口外厳禁ってことで」
「了解だ」
「それにしても不思議だね。君はロミィの友人じゃないのかい?」
「友人なんかじゃねぇよ。あたしは監視するためにロミィの側にいたんだ」
「そうか。……うん、これはロミィに伝えないほうが良さそうだ」
人の感情がよく理解できないザクセンだが、ロミリアがなにをすれば喜ぶか、なにをすれば悲しむかはなんとなくわかっている。
彼女は友達を大切に想っている。
そんな友達のひとりはロミリアを呪ってしまうほどに恨んでいて、もうひとりは建前上の友人だったなんて明かしたら、彼女は悲嘆に暮れてしまうだろう。
そんな彼女に寄り添ってクロフォードから奪うという手もあるが、ザクセンはできることならロミリアを泣かせたくない。
「待っててねロミィ。今救うからね」
「お前、ロミィがすでに既婚済みって知らねぇの?」
「知ってるよ。だからどうしたの?」
「……こいつマジでやべぇやつじゃん」
君にだけは言われたくないなと思いつつ、ザクセンはウルフカットの少女――イレーナに繕った笑みを向けた。
ロミリアの友達でなければ、対面した直後に彼女を殺していただろう。




