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第21話.パーティーの下準備

 魔道具の調査はしなくていい。

 私は私のやり方で貢献すればいい。


 そうクロフォードから愛をもって諭された翌日の昼下がり。


「う~ん、この子たちはどうしようかしら」


 私は言いつけ通り、自分に無理なくできる範囲でサディエ家に貢献できることをしていた。

 具体的には、後日侯爵家で催す予定の招待状を綴るという形で。


「ハイレン辺境伯ご令嬢のミスチーは必須でしょ、それからミラード男爵ご令嬢のシチータに……」


 ペンをこつこつ額にぶつけながら頭を休みなく働かせる。

 そんな私に、マディカがおずおずといった風に話しかけてくる。


「たった2回、社交パーティーに参加されただけですのに、よくもまぁ名前と地位がすぐに紐づきますね。資料で確認してはいますが、私は未だに曖昧な方のほうが多いです。すでに手紙を書かれている方々とはどのような交流をされたのですか?」

「あいさつを交わした程度よ」

「え、それだけですか?」

「えぇ」


 情報整理もかねて、ペンを振りながら口を動かす。


「野心が強いハイレン辺境伯家は友好関係を築いたら後々心強いわ。ミラード男爵家は子どもがたくさんいるから、未来ではより高い地位に就いている可能性が大いにある。先行投資としてつながりをつくっておきましょう」

「……あの、ご確認ですが、お二方とはあいさつをされただけなのですよね?」

「ん、そうよ。直接会話を交わさずとも聞き耳を立てていれば、おおよそどの家がどういった状態にあってどのような権威を持っているのかは掴めるわ。私はただ情報を整理しているだけ。そんなに驚くようなことじゃないわよ」


 マディカはふぅと息をついて遠い目をした。


「伯爵家は惜しい人材を逃しましたね。こんな才女、国中探し回ってもいませんよ」

「もう大袈裟なんだから。けど、ありがと。褒めてくれてすごくうれしいわ」

「社交辞令ではなく本音なんですけどね……」


 招待状を書くのはこれが初めてのことだった。


 どういったことを書けばいいのか。

 最初はてんでわからなかったけど、ラーシャ様が昔用意した招待状があったから、それを参考にして文章を綴ることができた。先達の足跡は偉大だ。


「とりあえずはこれくらいかな」


 プラリネ宛ての招待状を書き終えたところで、ペンを動かす手を止める。


 今回は、私が侯爵夫人に就いてから初めて開く社交パーティーなので、必要最低限ののご令嬢を呼ぶに留めておくにする。評判が良ければ、次回、次々回は、相手のほうから参加したいと申し立てがあるはずだ。


 物事の成功のコツは一歩ずつ着実に熟すこと。長い目で見て、後々は公爵様の社交パーティーに匹敵する大規模なものを目指していこう。


「問題は主催の義務よね」


 主催の義務。

 すなわち――旦那との舞踏。


 ところで私は、聡明である一方で身体能力は平均的だったりする。

 つい先日まで使用人だった私にはもちろん舞踏の経験などなく、当日集まった人々を圧倒しようと思ったら血の滲むような努力が必要とされる。


「ま、努力で手に入るだけマシか」


 魔法という例外を除き、私はどんなものも努力でつかみ取って来た。

 

 舞踏のひとつやふたつ練習すえすれば会得できるだろう。私は努力することが好きだし得意である。


「マディカ、貴女って踊れる?」

「えっ、無理です無理です! 習ったことがありませんし!」

「まぁそうよね」


 舞踏は貴族の嗜みだ。いくらマディカが優秀なメイド長とはいえ、教えを乞うのは酷だろう。


「舞踏が得意そうな子ねぇ……」


 顎に手を当て思案する。


 真っ先に浮かんだのはプラリネだ。あの子の踊りはすごく綺麗で、ひとたび舞えば異性の注目を独占することができるほどである。


 しかし、プラリネに練習相手になってもらうのは難しいだろう。あの子は私を嫌っている。できれば関わりたくないだろうから。


 悩んだ末、私はミトリーに指導役を依頼することにした。


 ケセラはおてんぱだけど第二皇女様だから私情を持ちかけるのが憚られて、シクリーは魔道具の一件に関与している可能性が疑われているため顔を合わせることを禁じられている。


 気安く頼めてかつプライベートで関わっても問題無しという観点から、ミトリーに白羽の矢が立つのは必然と言えた。私が特に親睦を深めている令嬢は現状で前述した4人しかいないのである。


 ……まだ侯爵夫人になってちょっとしか経っていないからね。そりゃ気の置けない友達も今はまだ少なくて当然だ。


 ◇◆◇


 そして2日後。

 ミトリーは私の頼みに応えて侯爵邸にやってきてくれた。


「今日は遠路はるばる来てくれてありがとう」

「いいよ。私もちょうど暇を持て余してたし、友達と遊ぶ時間好きだし」


 相変わらずふわふわ声と表情だ。


 艶姿だけでなく庇護欲をそそられる、というのもモテる一因であるらしいが、それには大いに納得できる。特別低身長だったり弱々しかったりということはないけど、この子からは守ってあげたくなる不思議な魅力が醸されている。


「じゃあ早速はじめていこっか~」


 大広間に音楽が鳴り響き、ミトリーにリードされる形で私は躍る。


「うっ、ぁあっ」

「落ちついて落ちついて~。ゆっくりがんばろう?」


 どう動けばいいのかわからなくて、何度も足を踏んでしまったけど、ミトリーは笑って許してくれる。

 うぅごめんなさい……。


 一度、最初から最後まで通しで踊ってみたけど全然ダメだった。

 二回目もダメダメだった。

 三回目もやっぱりダメダメだった。


「ちょっと休憩~」


 ミトリーは腰を下ろし、従者が用意した冷や水で喉を癒して汗を拭いている。


 その間も、私は記憶をたどりつつ同じ動きをする。……なるほど、ここは右足の幅を狭めたらもっとスムーズな動きができそうだ。少しずつ舞踏を理解してきた。


「ロミリアはがんばり屋さんだねぇ」

「何度もミトリーの足を踏むのは申し訳ないからね」

「うんうん、立派立派。だけど、休憩もちゃんとしなきゃだよ?」


 優しく窘め、コップの水を勧めてくる。

 私は厚意に甘んじてコップを受け取り、微笑みかけて言った。


「ありがとう。もう少ししたら、また踊りに付き合ってくれる?」

「もちろん。何回だって付き合うよ」


 ふんすっとミトリーは力こぶをつくる。


「舞踏会で、『わ~、ロミリア様すげぇ~』ってみんなを驚かせちゃいましょう?」

「ふふ、そうね」


 素敵な友達を持ったなぁと思いつつ、私は腰を下ろして他愛無い話を弾ませた。

 練習開始の時間が予定よりも遅れてしまったけど、悪い気はしなかった。

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