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第15話.親友の証

 翌日、私は社交パーティーに出席していた。


「わ~! ぴかぴかだぁ~!」

「好きなものを好きなだけ食べていいけど、自分が侯爵家の夫人に仕える侍女だって立場だけは忘れちゃダメよ?」

「うんっ、わかった!」


 興奮しているだろうに楚々とした歩みでテーブルに近づき、色とりどりのスイーツを矯めつ眇めつするチャスシスを見て、それは反って怪しいんじゃないかとくすっと笑ってしまう。


 先日は人脈づくりが課題となっていた社交パーティだけど、今回は魔道具に関する情報をなにかしら入手することを前もって課題としている。


 資料を通じて過去の事例を顧みたところ、最終的に魔道具の発生源となっているのは上流階級がほとんどだった。


 であれば、ここに集まってる貴族の中に犯人がいる可能性が高いといえる。短絡的だと指摘されればそれまでだけど、可能性が転がっている以上、調べないわけにはいかなかった。


「なに小難しい顔してるの」


 プラリネが不服そうな顔をしている。


 ライバル家は極めて野心が強く、昇格のためとあらば仲間を切り捨ててみせた過去がある。けれど、魔道具とはさして縁がないことをつい先日までライバル家の使用人であった私は知っているので、プラリネは限りなく白だろう。


 私は微笑んで言った。


「そう? 今日は睡眠が浅かったからかしら」


 他愛無い会話を、プラリネ、ミトリー、ケセラ、と弾ませつつ、なにか違和感と思しきものはないかと視線を巡らせる。


 貴族はみな、装飾品に気を配っている。その中からアクセサリーに扮する魔道具がどれかを見抜くことは不可能だ。魔力の才に秀でたザクセンやラムルスが精査して始めて気づけるものに、魔力の才を持たない私が気づけるはずがなかった。


 しかし、その前段階であれば魔法のひとつも使えない魔法でも特定できる。具体的には、アクセサリーを脇目なくプレゼントしてまわっている怪しげな貴族を探し出せばいいのだ。


「そういえばみんな、私、アクセサリーに興味があるんだけど、アクセサリーに詳しい子っていないかしら?」


 とはいえ、黒幕が公の場で大胆に行動を起こしているとは考えづらい。候補が見つかれば大金星、見つからなくてあたりまえといった風なので、目視での成果にはあまり期待せず、第三者からの情報収集に努めることにする。


「アクセサリーといえばあの子よ!」


 と、お行儀悪くケセラが指差した先では、見覚えのある紫紺の長い髪がふわりと棚引いていた。貴族の子となにやら話し、エメラルドのブローチを渡している。


「そういえばそうだったわね」


 灯台下暗しとはうまくいったものだ。貴族になってから日の浅い私だけど、アクセサリーに詳しい貴族の友達はずっと前から側にいた。


 プラリネの輪から一旦離れて、私は懐かしい紫紺の背中に歩み寄る。

 そ~っと、そ~っと、背後に歩み寄り――私はガバっと抱きついた。


「きゃっ」

「ひさしぶりシクリー!」

「えっ、ロミィ!?」


 首を巡らせたシクリーがぎょっと目を剥いている。


 シクリー・シュナイゼ。伯爵邸に週に2日、医務室の当直として雇われている子爵令嬢。そして、使用人時代からの私のお友達。


 シクリーはうるうると瞳を潤ませ、私に抱きついてきた。


「よかったぁ~。プラリネから話は聞いてたけど元気にしてたみたいね」

「シクリーのほうも元気そうでなによりだわ。先週は社交パーティーで姿を見た記憶がないけど、参加してなかったの?」

「うん、ちょっと野暮用があって。……それにしてもロミィ、ドレスがとっても似合ってるわ。素敵よ」

「ありがとう。シクリーもとっても可愛いわ」

「ふふ、ロミィと違ってまるで求婚される気配がないけどね?」


 紅茶とお菓子を嗜みながら、なんでもない話に花を咲かせる。


 なんだか使用人に戻った気分だ。

 ……って、懐かしむほど時間は流れてないんだけど。


「シクリー、ひとつ聞きたいことがあるの」

「なにかしら?」


 私はきょろきょろとあたりを見渡し、シクリーの耳に顔を近づけて囁いた。


「ここ最近、アクセサリーにそっくりな魔道具が原因の事件が頻発しているらしいの。なにか知ってる?」


 その瞬間、シクリーの顔色が変わったのを私は見逃さなかった。


「なにか知ってるなら教えて」

「……知ってどうするの?」

「悪を捕まえるわ」

「捕まえる、か。ふふ、物騒なことを言わないあたりが如何にもロミィって感じ」


 シクリーはソーサーにマグカップを置いて私に耳打ちしてきた。


「先日、隣町で魔法災害が起きたらしいわ。でね、これは噂で小耳に挟んだことなんだけど、同じことが明日起きようとしてるんだって」

「どうしてシクリーがそのことを知ってるの?」


 露骨な疑問だった。

 シクリーは逡巡なく答えた。


「子爵邸にやってきた騎士たちが話してたの。ほら、私の家って例の隣町にあるじゃない? さすがにその騎士たちがどこからその情報を掴んだかわからないし、確実にそうなるとは断言できないけれど、可能性は高いと思うわ」


 噂は伝播する。事実、子爵邸は隣町にあるし、騎士が治安を維持しているという話も事実なので、シクリーが話していることは真実なのだろう。


 ……って、なにシクリーを疑ってるんだ私は。

 この子が例の黒幕なはずがないだろう。仮にそうなら、クロフォードともども私を殺そうとしていたことになる。そうする理由がわからなかった。


 シクリーは、スカートのポケットからネックレスを取り出して私に手渡してきた。


「私が魔力を込めてつくったお守りよ。これから先、困難に立ち向かう人のお力添えができるようにいつも準備しているの。今日はロミィ、貴女にこれを贈るわ」

「どうやら私がしようとしていることはお見通しみたいね」

「あたりまえよ。何年いっしょに過ごしたと思ってるの」


 呆れたように笑って、シクリーは私をふんわりと抱き締めてくる。


「貴女は昔からお人好しだけど、無茶しすぎる節があるわ。侯爵様の手伝いもほどほどにするのよ?」

「……うん」


 なんだろう。今、なにかが強く引っかかった。強い違和感があった。

 だけど、なにが引っかかったのかは考えてもわからなかった。


「この指輪がついてる限り、私たちはどこにいてもお友達だからね」


 ニッと笑って、シクリーが右手の薬指についた指輪を見せつけてくる。それに私も右手の薬指についた指輪を見せ返して微笑みかける。


 通称『親友の証』。私が幼いころにシクリーが贈ってくれた誕生日プレゼントだ。私の一番の宝物である。


「ところで、私は子爵令嬢で、ロミィは侯爵夫人。すっかり私が格下になってしまったけれど、これからも仲良くしてくれるかしら?」

「もちろん。これまでもこれからもシクリーは私のお友達……いいえ、親友よ」


 その後もシクリーと話を弾ませていると、ふらふらとやってきたご令嬢が遠まわしに私が元使用人であることを小馬鹿にしてきた。

 そんなご令嬢にシクリーは不機嫌そうに言い返した。


「あのさ、私のロミィを馬鹿にしないでくれる? 不愉快だわ」


 ここは社交パーティの会場だ。言動のひとつひとつが自身の家系の権威に関わってくる。


 そのことを理解しているはずなのに、シクリーは私のために醜い側面をさらけ出してくれた。

 慌てて立ち去るご令嬢を見てふふんと胸を張り、私に微笑みかけてくる。


「ロミィの悪口言うやつは私が追い払ってやるんだから」

「……ありがとう、シクリー」


 カッコいいなと思った。こんな風になりたいなと思った。


 ふたつ年上の私の姉のような親友は、幼いころからずっと私の憧れのままでいる。

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