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陰キャ送り犬、光の暴力の天界のモデルの仕事をせざるを得なくなった

 閑静な住宅街のとある自宅、白山薫はつい先程出来上がった記事とにらめっこしていた。近所に住む人に化けた怪異である送り犬がモデルの仕事を受けるらしい。情報の出所は日野勝というマイナーな動画配信者だったので噂の域を出ない。あくまでも噂なのだ。しかし、この記事にはあることが抜け落ちていた。送り犬がモデルをしないかもしれないこと、そしてファッションモデルは天界が主宰したということだ。


 だからか、記事には具体的な内容が欠けていた。


「サクラ、出所不明、証拠なし!」


 籠に入っている 緑色のインコが何故か不穏な言葉をしゃべっている。心なしか震えている。


「ラッツィ、沢山覚えたんだねー。誰に教えてもらったの?」


 妙な言葉を話しているにも関わらず、白山薫はのほほんとインコのラッツィの話す言葉に応じていた。


 パソコンには様々な心霊写真がフォルダにしまわれている。その中に明らかに月臣を写した写真があった。顔が異様に青白く、目はどんよりしている。明らかに寝不足か栄養不足に見える。さらにその上周囲に黒いオーラが映っているように見える。しかも、写真に写っているだけなのに運気を吸い取られそうな疫病神オーラを放っている。一目見ただけで目を背けて逃げ出したくなる見た目だ。しかし、薫はこの写真を見て近所に住むモデルをする(予定の?)送り犬だと直感した。この禍々しいオーラは普通の人間が出せるものではないが、薫は気にしていないようだ。それよりはむしろ友達になれるかもしれない等と想像をたくましくしている。


「早速、取材しに行こう! あ、差し入れも持っていかなきゃ。やっぱり送り犬はお肉が好きかなぁ? 厚揚げが好きだといいなぁー。じゃ、ラッツィ、行ってくるね!」


「押し掛け、アポなし、さよーなら!」


 まさか取材を拒否されるかもしれないとは思いもよらず、薫は近所のボロアパートに直行していった。




「……、何か寒気がする。もう、外に出たくない」


 部屋の真ん中で月臣は身震いした。陰気なこの部屋は実は事故物件部屋で、家賃は格安である。しかし、送り犬という怪異である月臣にとっては、普通の人間なら逃げ出してしまう事故物件部屋は安心できる部屋だ。そんな中で月臣は自身を滅ぼしかねない光に怯えた。


「何言ってるの! 外に出なきゃ仕事が出来ないじゃない!」


「仕事なんか他で探す。モデルなんかやりたくない」


 ボロアパートの部屋では出る、出ないで押し問答が繰り広げられていた。しかし、まりいは何としてでも月臣をモデルにさせたいようだが、月臣は押し入れに入って出てこなくなってしまった。


「カッコいい服を着た月臣様を拝見したいです! どうか、出てきて下さい!」


「あらら、押し入れに入ってまでモデルをやりたくないんだ。このまま押し入れに立てこもってちゃ、ジャーキーは食べれないよ? SNSで投稿しちゃおうか? 【悲報】現代の送り犬、押し入れで餓える!」

 


 人魂のナキメがこう言った瞬間に押し入れの(ふすま)が少し開いた。このままでは好物が食べられない事にようやく思い当たったらしい。というよりSNSにこんなことを投下されたくない思いが月臣を襖から出させた。


「背に腹は変えられない。今から買いに行く」


「ちょっと! 今からモデルの仕事に行くんでしょ! 後で豪華な食事を用意してあげるから!」


「却下だ。俺にはモヤシとたまに食べるジャーキーで十分だ」


 普通なら豪華な食事に飛び付きそうなものだが、月臣の目付きは真剣そのものである。それだけモヤシとジャーキーが好きなのか。しかし、彼がこれにこだわるのは偏った食生活をしたいからではない。むしろ肉の味にはこだわる方だ。月臣が断ったのには訳があり、天界の食事を食べてしまうと浄化して月臣自身が消え去ってしまうのを懸念したからだった。


 そんなこんなで月臣はモデルの仕事をかわしつつ食材を買い出しに行くのだが、アパートに向かって時限爆弾が向かっているのを知らないわけではなかった。玄関の外に出た瞬間、月臣は気配を最大限に消したからだ。これではどこにいるのか分からない。影の中にいるのは分かっていたまりいは天界パワーで月臣のいる場所を照らし出した。


 あまりの眩しさに月臣が目を押さえて転げ回っていた。さながらワニのデスロールだ。ただし、獲物、というかジャーキーは咥えていない。


「まぶしい! 目が失明したらどうしてくれる!」


「あんたのしそうな事くらい、長いことあんたを見てるんだから分かるわよ!  私を甘く見ないことね!」


 こうして月臣は嫌々モデル会場に連れていかれるのだった。この先には時限爆弾こと、白山薫が向かってきているのは言うまでもない。




 そこからさらに離れた閑静な住宅街で、二人の兄妹が話し合っていた。最近この辺りで異様な雰囲気をまとった死神みたいな人間が出没しているらしいと、噂があったらしい。しかも見ると寿命が縮むとか、運が悪くなるとか、これから悪い事が起こるとか悪い噂ばかりである。もちろんその噂の張本人は月臣自身であるが、噂は煙のない所からは上らないものである。


「その人、ただ者じゃないみたい。気をつけた方が良いんじゃない? お兄ちゃん」


 兄に話しかけているのは翠川里奈だ。おっとりしているが、目は意思の強さがにじみ出ていた。対する兄の賢士は爽やかな印象で絵に描いたような主人公気質だ。


「何を言ってるんだ、里奈は。心配性だな。彼が悪いことをしたという証拠はないんだろ? それに、話してみなければ分からないじゃないか」


 賢士はあくまでも対話で解決を望む質だが、これでも学生時代は剣道部所属で実力はかなり高い方である。


「でもこの写真からは普通の人間ではないオーラが出ているわ。加工だってこんなエフェクトつけられないわよ」


 実はこの兄妹は霊感が強い。翠川家の女性は代々霊感を受け継ぐのだが、兄の賢士もそれなりに霊感がある。しかし里奈の比ではない。しかし、兄は里奈に言われたことなどお構いなしにスマホに写し出された月臣の写真を眺めていた。そしてこの写真は日野勝が勝手に撮って転送してきたものである。日野勝と里奈は以前白山薫の伝で知り合った時に転送してもらった写真である。どういうわけか、写真が黒ずんで見える。気のせいだろうか。


「とりあえず、会ってから決めるよ。彼だって大悪党ってわけじゃないだろうしね」


 楽観的に話す兄を見て里奈はホッとため息をついた。


「もう、どうなっても知らないわよ

?」


 この後、月臣がまさか二人に関係してくるようになるとは想像だにしないことであった。


 

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