ひびの瓶
希望は、棚に並んで売られていた。
町の中央にある、天井の低い店だった。
外から見ると倉庫のようで、何を売っているのかは分からない。
ただ、扉の横に小さく「希望」と書かれていた。
それ以上の説明はなかった。
瓶に入っていて、すべて同じ形だった。
透明で、ラベルもない。
中身は見えない。
振ると音がしたが、何が入っているのかは分からなかった。
軽いとも重いとも言えない音だった。
この町では、希望は使うほど減った。
使うというのが何を指すのかは、誰も決めていない。
ただ、使ったと感じた人の瓶は、次の日に少し軽くなっていた。
反対に、使わなかった人の瓶は、いつの間にか増えていた。
増えると言っても、見た目は変わらない。数が合うように、自然に増えていた。
だから人々は、希望を使わなかった。
使ったつもりにならないように気をつけた。
考えすぎないようにした。期待しないようにした。
瓶は棚の奥に置かれ、布をかけられ、時々位置を変えられた。
店主は毎朝、同じ時間に店を開けた。
瓶を一つずつ拭いた。
売れることはほとんどなかった。
それでも拭いた。拭かない理由がなかったからだ。
客は、来るには来た。
棚の前に立ち、瓶を眺め、数を確かめた。
減っていないことを確認すると、安心して帰った。
買わない理由を説明する人はいなかった。説明は必要なかった。
ある日、ひびの入った瓶が一つ見つかった。
棚の下の段にあった。
前の日にはなかったはずだが、誰も確信を持てなかった。
その瓶だけ、音が違った。振っても、ほとんど音がしない。
中身が少ないのか、詰まっているのか、最初からそういうものなのか、分からなかった。
店主は一度、棚に戻そうとした。
だが、どこに置いてもしっくりこなかった。並びが崩れる気がした。
結局、床に置く。
その夜、町に風が吹いた。
窓が鳴るほどではなかったが、静かでもなかった。
棚の瓶がいくつか揺れた。
倒れたものもあったし、倒れなかったものもある。
朝になると、割れた瓶はなかった。だが、数が合わなかった。
いくつか足りなかった。
売れたわけではない。
盗まれた形跡もない。
ただ、なくなっていた。
人々は集まり、数を数えた。何度も数えた。
減っていることだけは一致した。
何が減ったのかは、誰も言えなかった。
数え終わると、皆ほっとした。
数えられるものは、まだ残っていると分かったからだ。
床には、ひびの入った瓶だけが残っていた。
中から音はしなかった。振っても、振らなくても、同じだった。
誰も拾わなかった。
拾うと、何かが変わりそうだった。
変わることが良いのか悪いのか、誰にも分からなかった。
瓶はそのまま置かれた。
人々はそれを避けて歩いた。
踏む理由も、壊す理由もなかった。
数日後、棚は元の数に戻っていた。
いつ増えたのかは分からない。
最初からそうだったようにも見えた。
希望は、今日も棚に並んでいる。
瓶はきれいで、数も合っている。
床の隅には、ひびの入った瓶がある。誰のものでもないまま、そこにある。
店主はそれを見ないようにしている。
見てしまうと、拭く理由が生まれてしまいそうだからだ。




