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第9話 新人類の暗躍

長良の研究所まではそう遠くない。

とはいえ人間の脚では数十分掛かるところをたったの数分で辿り付けたのはひとえに腕輪の力と言えた。

数度目となる研究所への訪問だったからか、守衛は僕の顔を見るとすぐに入門を許可してくれた。


長良の研究室まで走り、扉を強く叩くと驚いた表情で彼女は出てきた。


「どうしたんですか?そんな急いで――」

「時間がない!とにかく中に入れてくれ!」

長良の言葉を遮り僕は研究室へと押し入った。

普通ではない僕の様子に気付いたのか長良の表情も若干固い。


「理紗ちゃんが攫われた」

「え?」

「買い物中にいきなり姿をくらましたんだ。すぐに監視カメラも調べて貰ったがその時間帯の映像だけがなかった。偶然とは考えにくい、そうだろ?」

「確かに……明らかに人為的なものを感じますね。それで急いでここまで来たと?」

僕は強く頷く。


他に頼れる人物が長良しか思い浮かばなかった。

監視カメラの映像もないとなれば警察に行った所で大して期待出来ないだろう。

しかし長良は研究者だ。

アクセス権限もレベル5を持っている。

頼るなら彼女しかいなかった。


「新人類が関わっている可能性を考え私のところに来たという事ですか。ですが私にも出来ない事はあります。そもそも映像もないとなれば理紗ちゃんの行方を追うのは相当難しいでしょう」

「なんとかならないか?僕が目を離してしまったばかりに……」

「そう自分を責めないで下さい。方法は……なくはありません」

長良の言葉に俯いていた僕の顔は即座に上がる。

やはり彼女ならば何か方法があるのだ。

ここに来たのは間違いではなかった。


「ですが……その方法というのも普通のやり方ではありません」

「なんでもいい!僕を信頼して理紗ちゃんを預けてくれた柴崎さんに会わせる顔がないんだ」

もはや藁にも縋る思いで長良を見つめると、肩を竦め棚から何かを取り出した。


「それは?」

「義眼です。ただ普通の義眼ではありませんよ。こちらは私が開発したマイクロチップを埋め込んだ超高性能の義眼です」

見た目は普通の義眼だ。

しかし長良が普通とは違うと言うのならそうなのだろう。


「それがあったら何とかなるのか?」

「恐らく。ですがこれは脳からの電気信号を受け取り初めて稼働します。すなわち、藤堂さん。貴方の目は義眼に変わります」

「……視力はどうなる」

「安心してください。人間の眼球と同じ機能を保持しつつ新たな機能を積んでいる訳ですから、視力が無くなるとかそういったマイナスな面はありませんよ」

だがそれを着ければまた少し新人類に近づいてしまう。

僕は少し葛藤したが今はそんな事を言っている場合ではないと、覚悟を決めると長良へと頭を下げた。


「今すぐ手術を頼む。いくらかかる?200万ポイントはある。もし足りないなら――」

「お金はいりませんよ。まあそれなりの付き合いですし私も理紗ちゃんと面識はあります。流石にお金を取る程鬼ではありません」

「そうか……恩に着る!」

「急ぐのでしょう?さあ早く手術室に。今から行う手術はそう時間もかかりません。理紗ちゃんも攫われて1時間も経っていません。まだ大丈夫なはずです」


長良に促され手術室のベットに横になると、ガスが噴射された。

このガスは睡眠ガスだ。

いわば一種の麻酔。

いつの間にか僕の意識はなくなっていた。



「ふぅ、私も運がいいのか悪いのか……。困った事をしてくれたものですね、反人間組織も。私としては無償で研究対象が自ら手術台に乗ってくれるのだからメリットしかありませんが」

長良は独り言を呟くと、機械を操作し早速手術が始まった。

いつか使う時があるかもしれないと作っていた高性能義眼がこんな所で役立つなんてと、長良は少し笑みを浮かべていた。




「はっ!?」

「対象覚醒、21分30秒。おはようございます、藤堂さん。まだあれから時間は大して経っていません」

長良はすぐ傍に立っていた。

もし30分を超えても起きないようであれば強制的に起こすつもりだったようだ。


左目に違和感はない。

それどころか少し視力が上がっただろうか。

僕は辺りを見回す。


「では時間もあまりありませんので、使い方を説明させて頂きます。まず片目を閉じて左目だけに集中して下さい。そうすれば脳の信号を受け取れる状態になりますので、そのまま理紗ちゃんの情報を思い出してください。名前、容姿、年齢、なんでも構いません」

長良に言われた通り僕は片目を瞑り左目だけに集中すると、SFチックな画面が眼前全体に広がった。

恐らくこれが脳と直接繋がっているという証拠なのだろう。


後は理紗の情報を思い浮かべる。

柴崎理紗、年齢18歳、容姿は黒髪黒目で、とそこまで思い浮かべると目の前に理紗の情報が映し出された。


「うおっ!」

「驚くのも無理はありません。見慣れない視界でしょうから。次に理紗ちゃんの現在位置を頭の中で質問してみて下さい」

言われた通りに理紗ちゃんの場所を考えると、視界が色鮮やかに変わっていき半透明の地図が表示された。

そのまま地図は拡大していき赤い点が表示される。


「これが理紗ちゃんの現在位置、なのか?」

「私には見えていませんが多分今地図上に赤い印が出ている筈でしょう。それが今の理紗ちゃんの位置です」

距離にして約5キロ。

工事現場だろうか、あまりその場所に覚えはない。


「さ、急いで下さい!その状態で走るのは難しいかもしれませんが現在位置は変わる可能性もあります。ですので慣れて下さいとしか言えませんが、とにかくそこへと向かって下さい」

「分かった!……いやちょっと待て、これって人を攫うような奴らもいるんじゃないか?」

「いるでしょうね。でも今の藤堂さんにはその腕輪があります。常人の1.5倍の身体能力を持っているんですよ。一人二人相手なら勝てるはずです。それに内臓を全て人工物に変えていますので本来の身体からでいえばおおよそ2倍の身体能力向上効果があります」

やっぱりそうだったのか。

準新人類になってから妙に身体が軽く感じるし体力も増えていると思っていた所だ。

やはり身体能力が上がっていたらしい。


「やろうと思えばコンクリートブロックも叩き割れますよ。ただ拳は人間の皮膚ですので怪我はしますが」

「やらないよ!とにかく行って来る!ありがとう!」

僕は急いで理紗の元へと駆け出した。



2キロの距離でも走り続けられる体力がある。

これなら5分もあれば到着できる。

それにしても長良はやはり天才科学者と言える人材のようだ。



こんな素晴らしい機能を持った義眼を販売すればそれこそ飛ぶように売れるだろう。

レベル1の自分でも行方不明の人物を探す事が出来るのだから、特許を取れば山ほどの富が流れ込んでくるはずだ。

何故それをしないのか。

答えは簡単だった。

純粋に違法であったから。


大我は気付いていないが、レベル1のアクセス権限しか持たない者がレベル6に匹敵するアクセス権限を強制的に得られるのだから合法な訳がなかった。

だからか長良も造ったはいいがどこにも出せないので、棚に仕舞ったままであったのだ。



走る事5分。

ようやく現地に辿り着いた僕は辺りを見渡す。

工事現場だからか周囲に人気はない。

それどころか工事関係者すらいなかった。


「どこだ、どこにいる……」

左目に集中すると理紗の居場所が赤い点で表示された。

自分の場所から100メートル程しか離れていない。


フェンスを乗り越えると、辺りを警戒しながら赤い点へと急ぐ。


半分ほど作られた建物へと入ると物音ひとつなかった。

僕も足音を立てないようゆっくりと歩く。


やがて赤い点へと辿り着いた僕は深呼吸した。

今目の前の扉を隔てた先に理紗ちゃんはいる。


攫った張本人もいるかもしれない。

警戒するに越したことはないが、よく考えれば丸腰だった事を思い出し近くに落ちていた鉄パイプを強く握りしめた。



そっと扉を開けるとガムテープを口に張られモゴモゴ喋る理紗と目が合った。

部屋の中心に椅子に縛られている理紗以外に人はいない。


すぐに駆け寄ると涙目の理紗の口を覆っていたガムテープを外した。


「大丈――」

「私を攫ったのは男です!まだ近くにいます!」

僕の言葉を遮り理紗は叫んだ。

するとどこからともなく鉄の矢が飛んでくると、義眼を起動していた僕は弾道予測のお陰で間一髪躱した。


「あっぶね!」

「あそこ!」

理紗の目線の先には黒いマスクに黒い帽子を被った男が佇んでいた。

ボウガンのような物をこちらに向けている。


「お前が……理紗ちゃんを攫った奴か」

鉄パイプを両手で握りしめると、片目を瞑り再度左目に集中する。


目の前の男の情報が表示されると、やはりかと舌打ちを一つする。

表示されている情報は紛れもなく新人類のデータであったからだ。


人体を占める人工物の度合いがパーセンテージで表示されているが、数値は95。

すなわち身体の9割以上を機械に変えた新人類である事を示していた。


「新人類……なぜ理紗ちゃんを攫った!」

「…………」

男からは無言が返って来た。

しかしボウガンのような武器はずっと僕へと向けられている。


先程鉄の矢を躱せたのは義眼のお陰。

再度撃たれても義眼を起動さえしていれば躱せる。

そんな自信から僕も強気に出ていた。


「理紗ちゃんを狙ったのは柴崎さんの娘だからか?新人類にとっては邪魔な存在なんだろう。だが好き勝手出来ると思うなよ」

「……フッ」

やっと口を開いたかと思えば、男は僕の言葉を鼻で笑う。

僕は鉄パイプを握る手に力を込めた。


「……お前こそ……何故その人間を助ける」

「当然だろうが。この子は知り合いだぞ」

「理由になっていないな」

パシュッと風切り音と共に鉄矢が発射されると、義眼はフル稼働し弾道を予測する。

その間コンマ1秒。


気付けば身体が最も動きの少ない回避行動を取っており、鉄矢は後ろの壁へと突き刺さった。


「その動き……やはり見えているな」

「さぁてなッッ!!」

一気に踏み込み男の懐へと入り込むと全力で鉄パイプを振り切った。

ギリギリの所で男は躱すと矢を番えようとボウガンに視線を落とす。


「おせぇ!」

しかしそんな隙を見逃さず、人間離れした動きで鉄パイプを振ると男の頭を直撃した。

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