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第7話 ついていい嘘

「理紗、最近楽しそうにしているけど何かあったのか?」

柴崎家ではいつも3人で夕飯を済ませる。

仲が良いというよりも、家族の絆は大切にしたいという思いから何があろうと必ず夕飯を共にする。


それだけ毎日一緒にいれば家族の多少の変化にも気付けるものだ。


柴崎十郎は娘が最近にこやかにしているのを見て、話し掛けた。


「あ、うん。えっと……まあ、いいなって思ってる人がいてさ」

それだけで察する。

娘も思春期に入りなかなか恋愛事情に疎かったのにいよいよ誰かを好きになる事が出来たのかと父親ながら微笑ましく思った。



「ほう、それはいい事だな。ちなみにそれは私が知っている人かい?」

「うん。話した事がある人」

娘の理紗は女子高に通っている。

すなわち学校での恋愛ではなさそうだ。

それに一度会った事があるとなると想定される人物は一人しか浮かばなかった。


「ふむ、もしかして藤堂君かな?」

図星だったようで理紗は顔を真っ赤にした。

自身の命を顧みず、死を覚悟して助けられたとなれば好きになってしまう気持ちも分からなくはない。

それなりに好青年だったし、十郎も相手が彼なのであればいいのではないかと思っていた。


「いいじゃないの理紗。あの方と連絡してるの?」

「……うん。ちょっと前から」

母親も最近理紗の帰りが遅いと感じており、学校帰りに友人と遊んでいるのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。


「もしかして毎日藤堂君に会う為に帰りが遅かったのか?」

「そう。待ち伏せくらいしないとなかなか会えなさそうだったから」

前に理紗から菓子折りでも持っていきたいと言われ、彼の住所を調べた事があった。

謝罪と感謝の意味も込めて慰謝料を払い、理紗も自身の口から感謝を述べたいのかと思っていたのだが単純に待ち伏せしたいが為であったようだ。


十郎はレベル4のアクセス権限持っている。

レベルが下の市民情報を調べる程度簡単であった。

理紗はまだ学生でレベル2のアクセス権限しか持っておらず、自分では調べられないと分かっていたのだろう。


「なるほど……まあ理由は分かったが藤堂君に迷惑は掛けていないか?身を挺してまで助けてくれてた彼に迷惑を掛けているのなら流石に容認は出来ないぞ」

「大丈夫!!顔を合わせた時は流石にビックリしてたけどその後毎日連絡してるから」

余程彼に好意を抱いているのか、大我の話をする理紗の表情は終始笑顔であった。


十郎も彼ならば娘を任せられるとまで考えていた。

ただでさえ見知らぬ人を助けるような彼だ。

もし付き合ったとしても理紗を十分大切にしてくれるだろう。


そんな会話をしていると不意にテレビからニュースが流れてきた。

それは十郎にとっても無視できない内容であった。


『大手企業、日ノ本工業が大規模ハッキングを受け対応に追われている』

「昨日、日ノ本工業のデータベースに不正にハッキングされた形跡がありました。データベースには顧客情報から自動運転プログラムなどのコードも残されており、運営陣は対応に追わ――」

遂に恐れていた事が起きたかと十郎は顔を険しくする。

人間保護団体としても容認できる話ではない。

新人類は脅威になるともっと大々的に広告を打つべきかと考えると同時に、理紗が個人端末を操作し始め何やら文字を入力しだした。


ニュースは全国で流れている。

恐らく藤堂大我も見たはずだ。

そうなれば事故の時の記憶が蘇り嫌な思いをしているかもしれない。

理紗はそんな彼にフォローする為メッセージでも送ろうとしているのだろう。


十郎はそう考え再びテレビへと視線を戻す。


「貴方……やっぱり新人類は怖いわね」

「うむ、遅かれ早かれこういった事件は起きてもおかしくはなかった。ただなぜ今になって、という疑問は残るがな」

新人類という存在が生み出されて既に何十年と経っている。

何故今頃になって行動を起こしたのかが腑に落ちなかった。


「理紗、通学中の護衛を雇っておくか?」

「いいよ、そこまでしなくて。どうせ新人類が本気を出せば人間の警備員なんてひとたまりもないし」

それを言われれば十郎も無言にならざるを得なかった。

人間がどれだけ鍛えても数も力も知能も及ばない新人類が徒党を組めばどうなるかなど想像に易くない。


「あれ……いつもならすぐに返信があるのに止まっちゃった」

不意に理紗が独りごつ。

彼も一人の社会人なのだから、仕事の関係上いつでもメッセージを返せるという訳にはいかないだろう。


「理紗、彼にも彼の時間があるんだから急かすもんじゃないぞ」

「うん。分かってるけど……んーまあいいか」

納得したのかしてないのか理沙は不服そうな顔をしながら、また夕飯をつつき始めた。



しかし十郎もあまりのんびりはしていられない。

明日にでも人間保護団体の幹部連中を集めて会議を開いた方がいいと心に強く決めた。



――――――――

僕はは理紗から来たメッセージになんと返したら良いのか頭を抱えていた。

人間ですかと言われれば頷きたい気持ちはある。

しかし現実には準新人類と言われる身体になってしまっている。


おおよそ先程のニュースを目にして僕の身体はまだ人間なのかと聞きたくなったのだろうと予想する。


「はぁ……なんて言えばいいかなぁ。何しろお父さんは人間保護団体とかいうわけの分からん組織の会長だって言うし。これは嘘でも人間だって突き通しといた方がいいかもなぁ」

誰に話す訳でもなく呟くと、理紗へと返信する為メッセージを入力し始めた。


最後まで文字を打ち終わり、ふと手を止める。

そういえばアクセス権限が高ければ対象者が人間かどうかを調べたり出来るんだろうかと疑問に思ったのだ。


すぐに長良へと電話すると3コールもしないうちに彼女は出た。

個人端末の小さいモニターに白衣姿の長良が映る。

相変わらず夜まで研究に没頭しているらしい。



「はい、どうしましたか?藤堂さん」

「ああ、いやこんな時間に悪いな。少し聞きたい事があって」

掻い摘んで長良へと説明すると、ふむふむと相槌を打ち少し考える素振りを見せた後彼女は口を開いた。


「結論から言うと可能です。ですが相手が人間かどうかの情報は生半可なアクセス権限では見る事が出来ません」

「具体的には?」

「具体的にはレベル6のアクセス権限が必要になります。レベル5でも一応正式な手順を踏めば確認する事は可能ですが、結構面倒ですし正当な理由がなければ見れません」

と言う事は長良が最初に声を掛けてきた時、僕が人間だと分かっていたのか。

研究の為という名目を使ったのだろう。


「もう藤堂さんは察しているかと思いますが、私は研究者ですから研究という名目を使い藤堂さんの事を調べました。レベル5の私でさえそれですからね。普通のレベル5の方では正当な理由は作れないと思いますよ」

やはりというか当たっていたようだ。

でなければいきなり僕に新人類の手術を勧めたりなんかしないだろう。



「ただ、もしその柴崎さんがレベル6のアクセス権限を持っていればバレてしまいますが……恐らくそれはないでしょう」

「どうして言い切れるんだ?」

「レベル6というのはそう無闇に与えられる権限ではありませんから。そうですね……分かりやすい例だと国防長官や外務大臣などが当てはまりますね」

国の中でも特に要人とされる人物にしか与えられる権限ではないらしい。

となると柴崎さんがレベル6という線はなくなったな。

もしかすると肩書きを隠している可能性も無くはないが、そんな事を言い出せばきりが無い。



僕が少し安心した表情を見せると長良も察したのか会話を続けた。


「その柴崎さんが新人類を敵視している件ですが、もしかすると娘である理紗さんもその影響を受けている可能性はあるでしょう。ですので私としては準新人類だとバラさない方が良いかと思います」

「そうだよな……分かった。ありがとう、助かったよ」

「いえいえ、また何か困った事があればいつでも連絡してきて下さい」

長良との通話を終えると書きかけのメッセージへと戻った。

やはりバラさない方がいいとの事だったし、あまり気は進まないが嘘を付かせて貰おう。


送信のボタンを押し、個人端末を腕から外すと机に置いた。

就寝時と風呂の時は個人端末を外すのが常識だ。

一応電子機械なので雑な扱い方は推奨されていない。

人によっては眠る時も付けておき、睡眠の深さを測ったりする事もあるそうだが僕はそんなの一切気にしない。




やる事も終えたしもう寝るとするか。

僕はベッドに潜り込むと久し振りの自宅での睡眠という事もあってか、ベッドに入っただけで眠くなり目を閉じる。

数分もしない内に僕は意識を手放した。

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