第31話 対峙
僕らは遂に宮殿前まで来た。
道中出てきた戦闘型もゼロが一撃で倒した。
彼にとっては赤子の手を捻る程度の事なのだろうか。
「ラムナス!いるのは分かっているぞ!出てこい!」
僕が叫ぶと宮殿の巨大な扉が開き悠々とした足取りで一人の男が出てきた。
それと同時にもう一人白衣を着た女性が共に出てきた。
僕はその男がラムナスなのだとすぐに分かった。
ニュースで見た顔だったから。
ただ、僕はラムナスの横にいる女性から目を離せなかった。
「長良……か?」
そんなはずはない。
自分でも理解している。
今頃研究所にいるはずの長良がこんな島にいるわけがない。
先回りするなど物理的に不可能だ。
しかしどう見ても長良そっくりの女性の姿に僕は目を見開き固まってしまった。
「おいおいどうなってんだ……あの女性は……研究所の主任だろ?」
剛田さんも僕と同じく驚きを隠せていなかった。
黒い髪に僕と同じくらいの背丈。
それに整った顔立ち。
どこを見ても長良としか思えなかった。
するとその長良そっくりの女性が口を開いた。
「どうして私の苗字を知っているんですか?」
声も似ている。
佇まいといい、本人としか思えなかった。
「長良!長良美咲!どうしてこんなところにいるんだよ!」
「美咲……今、美咲と言いましたか?」
その女性はラムナスの方を見ると、小さく頷く。
「私は長良しおり。美咲はとっくの昔に亡くなった姉です」
「いやいやいや!そんなわけないだろ!だってここに来る前に会ってきたんだぞ?そんな話信じられるか!」
姉妹と言われれば確かにと納得できる。
だが亡くなったという言葉が引っ掛かった。
有り得ない。
とっくの昔どころか僕が長良と出会ったのはほんの数か月前だ。
「そういう事か。お前達は……新人類第一研究所からきたな?」
ラムナスが僕を見てそう言う。
その通りだが、それがなんだというのか。
いや、ラムナスの表情は何かを知っているかのような顔だ。
「長良美咲は三十年以上前に亡くなっている。それは確かな情報だ」
「嘘をつけ!じゃあ僕が出会ったあの長良は誰なんだよ!」
「それほどまでに人間と見分けがつかなくなっているのか……そうか。それだけの年月が経ったのだったな」
ラムナスは一人納得したかのように腕を組み目を瞑る。
「お前達が出会った長良美咲は人造人間だ。見た目は確かに人間だがただ一つだけ見分けがつく場所がある。そこのお前、彼女の首元を見たことがあるか?バーコードのようなものが印字されているはずだ」
その言葉で僕はあの時の通話を思い出した。
理沙が言っていた。
首元にバーコードがあると確かに言っていた。
あの時はそんなもの見間違いだろうと話は終わったが、今思えばそれが人造人間である証明だったのだ。
「その顔、心当たりはあるようだな。そうだ、彼女は人造人間だ。記憶を引き継いでいない作られた記憶を入れられた長良恭吾の忘れ形見だ」
「大我、アイツの言っている事は本当なのか?あの研究所にいた嬢ちゃんが本当に人造人間なのか?」
「はい、間違いないかと。あの場にいた理沙ちゃんがこないだ通話で言ってたんです。バーコードが首元にあったって」
誰も気づかないほど精巧に作られた人造人間など見たことがなかった。
長良が人造人間であるなど誰が気づけただろうか。
それほどまでに見た目は人間そのものだった。
「じゃあなんでアンタがそこにいるんだよ。長良の妹なんだろ?まさかアンタも人造人間なのか?」
「いえ、私は人間です」
「だったらどうして!」
「この世界は腐っています。人間は淘汰されるべきなんです。姉は人間に殺されました。復讐を誓った父も人間に殺されました。だから終わらせるんです。私達の手で」
「そんなの間違っている!」
「何も間違っていませんよ。新人類なら感情の制御が可能です。争いのない平和な世界を望むなら新人類が世界を支配した方がよいでしょう」
しおりの言う事も理解できるが、それで人間を淘汰するなんて間違っている。
極論だ。
人間は不完全な生き物だ。
だから失敗もするし間違ったことも言う。
でもそれが人間としての在り方じゃないか。
「話はもういいか」
ゼロが突然会話に割り込むと片腕をラムナスへと向けた。
「SX01。久しぶりだな。今はそちら側か。くっくっく、それでその銃口が何を意味するか分かっているのか?お前は私を殺すことができない。これはプログラムされたチップが絶対だと証明している」
「ラムナス……お前をこの手で殺すことはできないが、こちらには確実に殺せる兵器があるのでな」
ゼロが僕を見た。
僕は頷きポケットから蛍謹製の兵器を取り出した。
「俺が周りを見ておいてやる!やれ大我!」
「ああ、その為に僕はここまで来たんだからな!」
近づきさえすればラムナスは殺せる。
僕がスイッチ片手に地面を踏み込むと、ゼロが周囲を警戒する。
邪魔はさせないという気迫を感じられる表情で両腕をガトリングに変形させ牽制していた。
「オラァァァッ!撃て撃てぇッ!」
剛田さんや仲間はみんな、ラムナスへと総攻撃を始める。
ただし決定打とはなっていないようで、ラムナスの電磁シールドで全ての弾丸は防がれていた。
その間にも僕は全力で足を動かす。
ラムナスまでの距離は後二十メートル。
十メートル圏内に入るまで残り三秒。
「ラムナス様!あれは!」
「あれは……」
しおりが僕の持つスイッチを見て、声を上げる。
ラムナスも釣られて僕の手元へと視線をやったのが見えた。
残り二秒。
「全防衛システム、目標変更!奴を殺せ!」
何かおかしいと思ったのか、ラムナスが指示を出すと同時に宮殿に設置されている砲塔が全部僕へと向いた。
「やらせん!」
ゼロが僕に向いている砲塔を破壊しようと腕のガトリングが火を噴いた。
爆撃のような発射音が鳴り響き、次々と砲塔が破壊されていく。
残り一秒。
もう手を伸ばせば届く。
あと少し――
破裂音が僕の耳に入ってくる。
突然僕の視界は傾いていき、地面をすべるように転がった。
痛みは感じない。
ゼロに言われて痛覚は遮断していた為、痛みこそなかったがどこかから攻撃を受けた事は分かった。
足をみると太もも辺りに大きな風穴が空いている。
「大我ぁぁ!くそがぁぁ!」
剛田さんが僕を撃ったであろう新人類にショットガンを何度も発射した。
大したダメージではないかもしれないが多少の時間は稼げる。
「クッ……」
僕は這いずりながらラムナスへと迫る。
匍匐前進のようにちょっとずつ、ちょっとずつ。
「それ以上は近づかせません!」
しおりが背中に隠していたレーザーライフルを僕に向けてくる。
撃たれれば確実に死ぬ。
義眼を起動して躱したくても身体が動かなければ意味がない。
「大我はやらせねぇよ!」
佐助が飛び出してくると銃を乱射した。
ただ、しおりも電磁シールドを張っていて一発も当たらなかった。
その間にもしおりはライフルを構えトリガーへと指を添わせる。
刹那ゼロの姿が消えた。
次の瞬間にはしおりの胸から剣の刃が突き出ており、彼女は大量の血を吐き出していた。
高速移動。
ゼロの持つ兵器の一つだ。
「ゼロ……ワン……」
「悪いが死んでくれ。アンタに恨みはないが、こうでもしないと俺の目的は達せられなかった」
しおりの目元から涙が一粒零れ落ちると、そのまま膝を突いた。
「しおりぃぃぃ!」
ラムナスが僕から目を離した。
その隙に全力で這いずり、僕は遂に十メートル圏内に入った。
僕はスイッチを目の前まで持ってくると青いスイッチを押した。
これだけではまだ準備段階でしかない。
後は赤いスイッチを押せば全て終わる。
「ゼロ!下がれ!」
「やれ!俺もろとも奴を殺せ!」
ゼロは死なせたくはない。
ただ、もう死ぬ覚悟が出来ているのだろう。
核融合炉の起爆は止めてあるはずだ。
これを押せば僕もラムナスもゼロも死ぬ。
ラムナスも僕が近くまで来て何らかのスイッチを押したことが分かったのか、こっちを見ていた。
もう指は添わせてある。
ほんの少し力を入れれば――
「やれぇ大我!」
「……すまないッ!」
僕はゼロに謝罪を述べながら目を瞑り赤いスイッチを押した。
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