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だから僕は人間を辞めた  作者: プリン伯爵『虹色魔導師は目立ちたく無い』発売中!


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第28話 過去

三十年前――


ラムナスはドイツの田舎である小さな街で生まれた。

本名をラムゼイ・ナストラディ。

周りからはラムナスと愛称で呼ばれ、明るい人気者だった。

頭もよく、境遇さえ違えば天才と持て囃されていたに違いないほど、優秀な人間だった。



農家として親の仕事を引き継ぎ、後は結婚相手を見つければ順風満帆な生活が送れる。

この時までは、そう思っていた。


そんなある日、突然現れた政府の人間に拉致されたラムナスは、気づけば見たこともない施設のベットにくくりつけられていた。


「ここは……?」

「ここは新人類第一研究所だよ。おっと、英語は大丈夫かな?」

白衣を着た男がベットに横たわるラムナスを見下ろしながら、たどたどしい英語でそう話し掛けてくる。

ラムナスは状況が飲み込めず、小さく頷いた。


「そうか、良かったよ。いやぁ、私はドイツ語が喋れなくてね。日本語と英語が少しだけできるんだ」

「ニホンゴ?待て、ここは日本なのか?」

ほんのついさっきまで、ドイツの辺境にいたはず。

どうして日本なんかにいるのだとラムナスは眉をひそめた。


「説明が遅れたね。私は長良恭吾。この研究所の所長をやってる者だ」

「ナガラキョウゴ……聞いたことはある。確か新技術の開発で名を上げたと言われている研究者だな」

「おお、勤勉なようだね。素晴らしい……やはり私の目に狂いはなかったようだ」

恭吾は嬉しそうに手を叩くが、ラムナスはとてもそんな気分になれなかった。

そんな事より状況の説明が欲しい。

そう思いラムナスは口を開く。


「それよりここはなんなんだ?どうして俺はこんな所に連れてこられたんだ!拉致だろうこれは!」

「言葉が悪いなぁ。もっといい言い方にしてくれないか?君は選ばれたんだよ」

「選ばれた?」

「そう、新たな技術を生み出すにあたって、どうしても実験体が必要になる。君のような頭脳を持ち、身体能力も優れている。まさに適任だ!」

実験体という言葉にラムナスは顔が強張った。

逃げようと藻掻いてもロープでくくられていて、身動き一つできない。


「くそっ!実験だと!?ふざけるな!俺をどうするつもりだ!」

「ちょっとした実験に付き合ってもらうだけじゃないか。そう危険なことはない。まずはその反骨精神は砕いておこうかな。君、鎮静剤を」

「ま、待て!その注射器はなんだ!おい!なんだよお前!」

恭吾とは別の男が手に注射器を持ち、ラムナスへと近づいてくる。

ゆっくりと針が首元に当てられると、ラムナスは思いの限り叫んだ。


「やめろぉ!!俺を実験体なんかに――」

ラムナスの言葉はそこで途切れ、とたんに静かになった。


「やっぱり鎮静剤というのは素晴らしいね。さて、早速手術にとりかかろう。ラムゼイ・ナストラディ二十二歳。家族は両親のみ。独身。ぴったりの人材だよ……君は」

恭吾はニィと口角をあげ微笑んだ。




――――――

ラムナスが目を覚ますと、ロープはほどかれておりベットに寝かされていた。

個室なのか他に誰もいないだだっ広い部屋。

ベット以外には小さい棚が一つあるだけ。

まるで病室のような雰囲気だった。


しばらくすると扉が開き、恭吾がやってきた。


「ああ、起きたんだね。気分はどうだい?」

「気分だと?そんな事より俺をさっさと家に帰せ――」

腕を振り上げ恭吾に殴りかかろうとしたラムナスの足が止まった。

自分の意志ではない。

身体が言うことを聞いてくれなかった。



「なんだ……これ、は」

「反抗抑制チップ。私が開発したものでね、事前にプログラムされた者に対して危害を加えようとすると脳から身体全体に信号が送られて身動き一つできなくなるんだ」

「なんで、そんなものを俺の身体に……」

「だってそうじゃないと君は私を殴ろうとするだろう?実際に今役に立った」

殴ろうとするのを辞めると身体は動き出す。

もう一度今度は助走をつけて腕を振り上げたが、やはり身体が動かなくなった。


「これはね、囚人に使うつもりで開発したものなんだ。まあ当然非人道的な発明だということで、使用には政府の許可がいるんだけど私が作ったものだしねぇ。私が勝手に使うのは見逃してもらっているよ」

「くそが!」

恭吾という男は絶対に家へ帰してはくれないらしい。

それが分かったラムナスは不貞腐れたようにベットへと戻った。


「さて、本題といこうか。君には新人類と呼ばれる新たな世界の支配者になってもらう。事故や病気で四肢を欠損してしまう

人達の為に、機械でできた精巧な四肢を取り付けて代わりとするって話はしってるだろう?でもね、それだけではつまらないじゃないか。人っていう生き物は他と違う異質なものを排除しようとする生き物だ。君は知らないだろうけど、四肢を機械に代えた者達は今や世間で新人類と呼ばれている。人間とは違う生き物だっていう明確な区別の為にね」

「それがなんだよ」

「新人類と呼ばれた人達にとってこの世界は生きにくい。それならいっその事人間を淘汰してしまえばいいと思わないかい?」

コイツは一体何を言っているんだとラムナスは顔を顰めた。

本気で言っているなら相当痛い奴だ。

だが、それを本当に実現してしまいそうな不思議な圧が恭吾にはあった。


「少し昔話をしよう。私には二人の娘がいた。今はもう一人しかいない。どうしてか教えてあげようか。姉である美咲はね、自殺したんだよ」

日本という国は自殺率が高い国だとラムナスも聞いたことがあった。

特段珍しい事ではない。

それがなんだというのかとラムナスは黙って話を聞く。



「美咲はある日、車に撥ねられた。それはもう酷い有様だったよ。腕は変な方向に曲がり足は片方千切れ飛んでいた。いつ死んでもおかしくはなかったんだ」

「……可哀そうに」

事故というのは運だ。

運が良ければ撥ねられる事もないし、運が悪ければいつ撥ねられてもおかしくはない。


「だから私は全力で美咲の身体を治したよ。もてる全ての技術を使ってね。その甲斐あってか美咲は死なずに済んだ。その代わり身体の七割が機械に成り代わった」

「新人類になっちまったって事か」

「そういう事さ。もちろん私は美咲が息を吹き返してくれて泣いて喜んだよ。ただ……世間というのは厳しいものでね。さっきも言った通り異物は排除されるというのが世の常だ。美咲は高校に復学したんだが、まあ案の定いじめにあったらしくてね。私は後から聞いた話しか知らないが、それはもう酷いものだったらしい」

「子供ってのは時に残酷だからな」

「美咲も同じ子供さ。私達大人であっても周囲から疎まれてしまえば精神的にクるものがあるだろう?子供だった美咲は耐えられなかったらしくてね、高校三年生の時、自ら命を絶ったよ」

酷い話だ。

よくある話といえばそれまでだが、やはり聞いていて気持ちのいいものではない。

もしも自分の立場だったらどんな手を使っても復讐していただろうとラムナスは表情を険しくする。


「人間なんて滅んでしまえばいい、そうは思わないか?」

「まあ、気持ちは分かるけど……流石にそれは極論すぎるだろう。もっと他に手は――」

「ないんだよ。どれだけ手を尽くそうとも人間は完全な善人にはなりきれない。もうそれは歴史が証明しているじゃないか。何百年何千年と人は争い続けている。もうこの負の連鎖を終わらせてやるのが、私の願いさ」

「それと俺の実験はどう繋がるんだ?」

「この世界には既に三割を超える新人類がいる。それらすべてに強制的な命令を下すことができる管理者を作りたくてね。私は人間だからその役割はできない。私だっていつ心変わりするか分からないからね」

「だから俺をその支配者ってやつにするってか?じゃあ俺の意志はどうなる!俺は今までみたいに平和に、小さな田舎町で農家をやって生きていきたい!なのにその意思と反する事をやらそうってのか!アンタも大概じゃないか!」



恭吾は悲しそうに顔を俯かせて小さく言葉を零す。


「必要な犠牲だと思ってくれ……大きな事を成すには必ず犠牲は生まれるんだ」

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