第22話 協力者
大我の首根っこを掴み壁に押し付けている男、SX01。
通称ゼロワン。
彼は戦闘型として生み出された最高傑作だった。
元々実験体として選ばれた軍人であり、身体能力は他の者と比べても遥かに高い。
彼が生まれた経緯はラムナスの野望の為だった。
人間は欲深き罪人だ、とはラムナスの言葉だ。
新人類こそが地球という惑星の支配者であるべきだと考えているラムナスは身の回りを固めようと、戦闘型新人類の開発に着手した。
おおよそ十年前だ。
人間の中でも特段身体能力に優れた軍人を選び、大金を積んで攫ってくる。
そして行うのは非人道的な実験の数々。
そこで生まれた完成型がゼロワンだった。
ゼロワンの脳には専用のチップが組み込まれ、絶対にラムナスへと危害を加えられないようになっている。
頭ではラムナスを殺したいほど憎んでいても、行動に移せないのだ。
彼にとってラムナスは度し難いほどに殺したい人物だった。
それもそのはず、人間としての生を受けて生きてきたのに、突然私欲の為に実験体にされてしまったのだから。
そんなゼロワンの目の前に変わった男が現れた。
人間とも違う新人類の一人。
その男はあろうことかゼロワンに向かってライフルを向けた。
戦闘型であり最高傑作ともいえる自分に真っ向から喧嘩を売るやつは初めて見たとゼロワンは興味を持つ。
ただあまりに弱すぎてこのまま生命活動を終わらせてやろうかと思っていたところ、彼の口から出てきた言葉はゼロワンを踏みとどまらせた。
彼はラムナスを殺すつもりだ。
それが分かると彼は首を掴んでいた手を離した。
「貴様にラムナスを殺せるのか?」
「ああ、殺せるさ。その為に僕は人間を辞めたんだから」
彼の眼は嘘を言っているような眼ではなかった。
少し話を聞いてみたくなったゼロワンは半歩後ろへと下がり腕を組む。
「言え。奴を殺せる方法があるというのならば言ってみろ」
「流石にこの場には持って来ていない。だが確実に殺せる。これは僕の命に代えても本当だと言える」
「奴の周りには常に四体の戦闘型が配備されている。貴様程度では触れることはおろか近づく事すらできんぞ」
「いや、ラムナスから十メートル以内に入りさえすればいい」
「…………」
嘘ではないだろう。
しかしどうやって、というのがゼロワンの純粋な疑問だった。
ラムナスの周りには彼と同じような戦闘型が四体も侍っている。
ゼロワンですら近づくのが難しいと思われた。
そんな自分より遥かに劣る目の前の男が本当にそんなことが可能なのか、少しだけ賭けてみたくなった。
「奴を殺せるのだな?その言葉に偽りはないか」
「ない。もしアンタが協力してくれるならこれほど心強い事はない」
ゼロワンの戦闘能力は新人類一といえるだろう。
唯一の弱点はラムナスに直接危害を加えることができない事だけ。
もしも目の前で真剣な眼を向けてくる謎の男が本当にラムナスを殺せる事ができるのであれば、協力するのも吝かではないと考えていた。
「……いいだろう。奴を殺せるのなら手を貸してやる。ただし、その言葉が偽りだったならば、分かっているな?」
「ああ、信じてくれ。こっちもアンタみたいな協力者が手を貸してくれるのなら百人力だ」
ゼロワンも命令がなければ人間など殺したくはない。
殺戮に手を染めれば本当の意味で人間らしさは失われてしまうのではないかと怖かったのだ。
「……SX01」
「なんだそれ?暗号か?」
「俺の名前だ。いや、型式番号というべきか。通称ゼロワン。第一世代戦闘型新人類だ」
「そうか。僕は藤堂大我。よろしく頼むよゼロワン」
「ゼロでいい」
――――――
ゼロワンと名乗る新人類を味方につけた。
戦闘型新人類が仲間になってくれるならこれほど頼もしい味方はいない。
ただ全面的に信用できるかというとそうでもない。
裏切りの可能性も考慮にいれなければならないが、このゼロワンという男は深い憎しみをラムナスに抱いていそうな目をしている。
僕がラムナスを殺すと発言したあたりから、殺意が目に見えてなくなった。
「あ、そういえばこの辺りで若い人間を見たか?男なんだけど」
「……すばしっこいやつか。それならこのビルにいる。俺は人間を見つけ次第抹殺、もしくは捕縛を命じられていたからな」
やはりそうか。
佐助はこのビルに隠れているらしい。
二人でビル内散策を始めると、ある一室の前でゼロが立ち止まった。
「どうした?」
「……この中だな」
そんなのが分かるのか。
やっぱり戦闘型ともなると五感も優れているようだ。
鍵が掛けられており、ドアが開かない事を確認するとゼロがドアノブごと捻り、こじ開けた。
「中にいるのは分かっている。出て来い」
「いやいや、そんな言い方だと怖くて出てこれないだろ……佐助!僕もいる!安全だから出てきてくれ!」
僕が声を掛けてやると奥の方から恐る恐る佐助が顔を見せた。
「お、おお大我か……その横にいるやつって……」
「ああ、彼は大丈夫だ。味方だから」
ゼロの姿を見て佐助が後ずさる。
そんな彼に僕は大丈夫と声を掛けてやった。
まあゼロの見た目が屈強な男だから人間だったとしても近寄り難いよな。
「ゼロワン……?めちゃくちゃカッコいいけど、新人類の名前じゃないのか?」
「そうだ」
「どぅえええ!?」
ゼロワンが一言発するとまたも佐助は後ずさる。
「安心していいって。彼がもし敵対してるなら僕も無事じゃあ済まないんだから」
「……ああ、それもそっか」
納得したのか佐助は近づいてきてゼロをじっと見つめる。
これでやっと隠れ家に戻れるな。
後はゼロワンが裏切らないかどうかだけが心配だが。
「ゼロ、裏切らないって証明できるか?」
「……手を出せ」
僕は言われた通りに手を出すと、ゼロはその手を握った。
刹那、電気のようなものが流れ咄嗟に手を離す。
「イテッ」
「今ので共感的繋がりを作った。お前も新人類の身体を得ているのならば俺が裏切る心情を持ち合わせていない事が分かるだろう」
なんだか良く分からない事を言われたが、突然僕の頭の中にゼロの素性や経歴が流れてきた。
「これは?」
「俺の情報だ。裏切るつもりならそこまで情報を開示しはしない」
頭に浮かび上がる情報の中には、ラムナスが拠点にしている島の見取り図や配置されている新人類、兵装の類があった。
ここまでの情報を敵対している者に渡す事は有り得ないだろう。
「よし、じゃあ隠れ家に戻ろう。明日には作戦決行だからな」
「作戦……島に乗り込むという事か。ではなぜこんなビルにいた」
「そりゃあ陽動の為だよ。ここらで爆発が起きれば新人類はみなこの辺りに集まるだろ?その間に僕達は島に向けて出発する」
「陽動か……。それならば新人類の集まっている場所にミサイルでも撃ち込めばいい」
そんな簡単に言うが、ミサイルなんてそもそもどこで手に入れればいいんだ。
「現実味がなさすぎる」
「ミサイルの発射基地は既に俺が抑えている。遠隔で発射するだけならいつでも撃てる」
なんだって?
それを先に言ってくれよな。
大打撃を与えられるじゃないか。
「じゃあ明日タイミングを見計らって操作してもらえるか?」
「……いいだろう」
隠れ家に戻ってくると、みな一様に佐助と同じような驚き方をしていた。
ゼロは眼つきも悪いし体格もいい。
近寄り難い雰囲気をプンプン醸し出している。
そうなれば当然誰もが怖がるようで、剛田さん以外は距離を取っていた。
「ほう?新人類のくせにラムナスを殺す俺達に手を貸すと?」
「ああ。奴に奪われた俺の人生は戻ってこないが、やつの人生を奪う事はできる」
「なるほど……純粋な復讐って訳か。だがアンタみたいな戦闘型なら一人でも十分戦えるんじゃないか?」
「それは違う。俺は戦闘型の最高傑作だが、ラムナスに対しては一切の危害を加えられないよう回路が組まれている。……お前達に協力するのは俺の目的を達成する為でもある」
ゼロが本当にラムナスを憎んでいるのが表情で分かったのか、剛田さんはニヤッと笑い手を差し出した。
「俺は剛田ってもんだ」
「……ゼロワン。大我はゼロと呼ぶ」
「そうかい。じゃあ短い間だがよろしく頼むぜゼロ」
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