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だから僕は人間を辞めた  作者: プリン伯爵『虹色魔導師は目立ちたく無い』発売中!


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第12話 覚悟と決意

研究所へと戻ってきた僕は事の顛末を包み隠さず長良と理沙に話した。

彼女達は真面目な表情で僕の話を聞き終わると、目をジッと見つめて口を開いた。


「藤堂さん、貴方は何を目的に生きているのでしょうか?」

「哲学か?そうだな……僕は誰かの役に立ちたかった。何の役にも立たない社会にとって不必要な歯車になりたくなかった。だから僕は……理沙ちゃんを、いや、人間を助けたい」

そこまで話した所で長良が唐突にテレビをつけた。



「人間に告げる。今こそ我々新人類が立ち上がる時が来た。今まで便利な道具として扱ってきた人間にはほとほと愛想が尽きた。世界をひっくり返してくれよう」

テレビから流れてくる言葉に僕は固まった。

明確な宣戦布告だ。

何のつもりなのか。


テレビを見れば長良に見せてもらったラムナスの姿があった。

テレビの放送電波をハッキングしているのか、どのチャンネルに変えてもラムナスの演説が映る。



「新人類よ立ち上がれ。我々こそが地球の支配者だという事を見せつけてやるがいい。力も知能も全て劣る劣等種、人間は滅ぼせ。便利な道具ではないというのを見せつけよ!」

最後まで強い意志を持った表情で演説を終えると、テレビはいつも通りの番組に変わった。



「な、何なんだ今の」

「ラムナスは本気のようですよ。さぁ、どうしますか藤堂さん。自らの正義を執行するのか、それとも命惜しさに白旗を上げるのか。今日一日かけて考えてください。私は貴方の選択を尊重しますよ」

長良は僕の意見に同調するようだ。

なんと答えたらいいか分からず僕はフラフラと研究室を出て宿直室へと向かう。


新人類がいよいよ本気で暴動を起こすつもりだ。

今の僕には止める力も権力もない。

理沙もどうしたらいいか分からず不安そうな表情を浮かべていた。


ベッドに寝転がると色んな考えが頭の中を駆け巡り眠れなかった。

新人類の指導者であるラムナスはなぜ人間をそこまで毛嫌いしているのかも気になる。

身体の部位を機械で補うことは悪いことではない。

ただそれを脅威に感じた人間が彼らを冷遇し始めたのは事実だ。

しかしそれを逆手に取って復讐だなんだと騒ぎ立てる新人類も大概だろう。

どちらも悪いといえばそれまでだ。


僕はどちら側につくのが正義なのだろうか。

理沙を守るのなら人間側に、冷遇されていた新人類を憐れむのならそちら側に。


身体は既に人間としての機能を機械へと変えている。

準新人類という分類に当てはまるのだから順当にいくなら新人類に味方するべきなのだろう。



色々と考えていると徐々に眠気が襲ってきて、僕は意識を手放した。



朝目覚めると研究所内が騒がしくなっていた。

何かあったのかと長良の研究室まで足を運ぶと彼女達はテレビに齧りつくように眺めていた。


「どうした?」

「あ、藤堂さんもこのニュースを見てください」

長良に促され僕もテレビへと視線を向ける。

そこには既に襲撃された後なのか、煙が立ち上る白い施設が映っていた。


「なんだこれ?」

「新人類の攻撃が始まったようです。手始めに狙われたのは新人類研究所だそうですよ」

「は?じゃあここも狙われる可能性が出てきたってことか?」

だから研究所内が騒がしくなっていたのか。

白衣を着た研究員らしき人達が廊下を走っていたのはこのせいだ。

もしかするとこうしている間にも攻撃を仕掛けてきてもおかしくはない。


「でもご安心ください。ここは第一研究所です。一番強固な施設といっても過言ではありませんよ」

「でも相手は新人類だろ?人間の兵器で太刀打ちできるのか?」

「研究所ですよ?まだ世に出回っていない兵器だってあります」

なら安心なのか?

いや、それでも確実に安全だとは言えなくなってしまった。

僕は覚悟を決め、その場で蛍へと電話をかけた。


「……なんだ?」

一コールで出た割には機嫌が悪そうな声だ。


「蛍、僕は人間側についた。いくら復讐だからといって不特定多数に危害を加えるのは見ていられない」

「そうか。なら俺に何を望む」

蛍に頼むなら新人類に対抗できる手段だ。

僕は少し間を置いて話を続けた。


「新人類を殺す手段が欲しい」

「物騒な話だな……手を貸してやるのは吝かではない。昔ながらの付き合いだからな。だが無償で用意するのは不可能だ」

まあ当然の反応だ。

いくら友人だからとタダで新人類を殺す為の兵器を作ってもらえるはずがないと分かっていた。


「一億だ」

「え?」

「一億用意しろ。その代わり新人類を確実に殺せる物を作ってやる」

蛍から提示された金額は目玉が飛び出るほどの額だった。

そんな大金用意できるはずがない。


「む、無理だ!」

「材料だって安くはない。これでも友人価格にしてやってるんだぞ」

「……わ、分かった。その兵器があれば確実に新人類を殺せるんだな?」

「くどいぞ。たった一つの兵器で人間が不利な状況を覆してやる」

蛍ができると言うのなら本当なのだろう。

しかし一億もの大金をどうやって用意すればいいのか……。


通話を終えると話を聞いていたらしい長良と理沙は怪訝な表情を浮かべていた。


「藤堂さん……少し聞こえてしまったのですが、新人類に対抗するつもりなんですね?」

「ああ、今のニュースを見て覚悟を決めた。僕は理沙ちゃんや長良を守る」

「その為にその友人を頼るんですね?」

僕は強く頷いた。

問題は大金の用意だ。

長良に借りるか?

いや、流石の彼女でも一億ものポイントを持っているとは思えない。



「藤堂さん、その為のお金はどうやって用意するつもりなんですか?」

「まあ……死に物狂いで仕事をこなすしかないだろ」

「無理ですよ。よく考えて下さい。一億なんて大金、一生働いてやっと稼げるような額です。ましてや藤堂さんの仕事は便利屋。無理でしょう?」

「だがやるしかない。アイツは言ったんだ。確実に新人類を殺す兵器を作ってやると」

正直僕自身普通の稼ぎ方では無理だと思っている。

いや、待てよ。

一つだけ方法がある。



「長良……人間の身体はどれだけのお金に替えられる?」

僕がそう言うと理沙は勢いよく立ち上がり、目を見開いた。


「駄目です大我さん!自分の身体をお金に変えるなんて!」

「そうは言うけど理沙ちゃん。他に方法はないんだよ」

「じゃあ他の人に任せればいいじゃないですか。わざわざ大我さんが犠牲を払うなんて」

確かに理沙の言葉は正しい。

僕が手を汚す必要なんてどこにもない。

それでも、誰かの役に立てる。

そんな思いが僕を動かしていた。


「誰かがやらなければならないのなら、僕がやればいい」

「大我さんが動かなくても政府や同じような考えの人が動いてくれるはずです!」

「もし何もしなかったら?僕が日和見を決めた後に誰も行動しようとせず、被害が大きくなったら?……僕はそんなの耐えられない。別にこの国がどうなろうと知ったことではないけど、手が届く人くらいは守りたいんだ」

本音を言えば誰かがやってくれたらいい、という思いが頭の片隅にはあった。

目の前にいる理沙や長良が血塗れで倒れている姿なんて見たくない。


「長良、答えを聞かせて欲しい」

「……分かりました。藤堂さんの身体でまだ機械に変えていない部位や器官を全て売れば一億に少し届かない程度のお金は手に入ります」

人間としての身体を全て売っぱらってもたったそれだけにしかならないとはな。

悲しさより笑いがこみ上げてくる。


「分かった。今すぐに手術を頼めるか?」

「本当にいいんですね?」

長良の問いに僕はほんの少しだけ言葉を詰まらせた。

人間を辞める。

新人類を殺す為に自らも新人類になるなんてな。


僕は乾いた唇を少し湿らせるとゆっくりと口を開く。


「僕は人間を辞める。どこで間違ったか知らないが、新人類と人間の戦いに終止符を打ってやる」

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