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だから僕は人間を辞めた  作者: プリン伯爵『虹色魔導師は目立ちたく無い』発売中!


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第11話 頼みの綱

夜が明け朝が来る。

僕も研究所に泊まらせて貰ったが、やはり一日考えていても何もいい案は思い浮かばなかった。

それは長良も同じだったようで、研究室は重い空気が流れている。


「少し気分を変えましょう」

長良が備え付けのテレビを付ける。

流れてくるのはニュースばかり。


「本日明朝、工事現場で新人類が遺体で発見されました」

早速昨日の件がニュースになっていた。

身体の殆どが機械だというのに遺体という呼ばれ方は違和感を覚える。


「警察は殺人容疑として事件を――」

「殺人だなんてふざけるなよ。こっちが殺されそうになったってのに」

アイツの放った鉄の矢は確実に殺しにきていた。

避ける事ができなければ死んでいただろう。

もしも義眼でなければと思うと背筋を冷たい何かが落ちる。


「新人類は今や地球上の六割を占めています。もし敵に回すのでしたら味方を増やさなければなりませんよ」

「長良はどっち側だ?」

「何を当たり前の事を……私は当然人間側です」

少し冗談めかして問い掛けてみただけだったが、長良は心外だと言わんばかりに声を張り上げた。


「いいですか?私が新人類の研究に見を置いているのは何も彼らに味方する為ではありません。こういった新人類の暴走を防ぐ為です」

「あ、ああ。それは悪かった」

「大体ですね、藤堂さんがこの研究室に駆け込んで来た時に義眼を用意したのも理沙さんを新人類の好きにさせない為ですよ?」

「分かった分かった。悪かったよごめん」

「分かればよいのです」

今後長良に同じ質問はしないでおこう。

彼女にとって新人類側と思われるのは許せないようだ。


「大我さん、そういえばあの時の動き……人間とは思えない速さで矢を避けてましたけどそれも義眼のお陰なんですか?」

理沙がふと思う所があったのか、僕に質問してきた。


確かにあれは義眼のお陰だ。

でもそれだけじゃない。

腕輪の効果と内臓を殆ど機械に変えていたお陰ともいえる。

もしも義眼だけだったなら、反応はできても身体がついてこなかっただろう。


ただ、理沙に本当の事は言えない。

あの事故のせいで身体の半分を機械に変えてしまったなど、責任を感じてしまうだろうから。


「そうだよ。長良の作ったこの義眼がなかったらあの動きはできなかっただろうな」

「凄いですね。販売すれば儲かるんじゃないですか?」

それはもちろんだ。

しかし残念な事にこの義眼は違法なレベルで効果を発揮する。

販売なんてしようものなら即座に長良は刑務所にぶち込まれる事だろう。


「これは私の最高傑作ですからね。量産には向かないんですよ理沙さん」

「ああ、なるほど……それなら販売するのは難しいですよね」

理沙は納得したのかそれ以上突っ込んで来る事はなかった。



「それで話の続きですが、藤堂さんのお知り合いで誰か仲間になってくれそうな方はいないんですか?」

一人だけいる。

だがあの人が無償で手を貸してくれるかどうかは別問題だ。

恐らく金銭を要求されるに違いない。

言い換えればお金さえ用意できれば問答無用で手を貸してくれる。


「一人いるにはいるが……あまり期待するなよ」

「私の方は誰もいないので藤堂さんが頼りですよ」

そうは言われてもなぁ。

最近連絡を取っていなかったから久しぶりに後で連絡してみよう。



――――――

理沙が攫われたあの事件から三日が経った。

今のところ平穏無事に日々を過ごせている。

理沙は学校に行きたそうにしているが研究所の外に出るのは危険過ぎると僕が忠告すると黙って頷いていた。


「藤堂さんもお気を付けください。多分新人類に狙われているのは貴方もですから」

「ああ、気を付けるよ」

僕は昔馴染みの友人に手を貸して貰うためソイツの家へと行くことにした。

道中襲われたらと思うと外を出歩くのは怖いが、友人は面と向かって頼まなければ動いてくれない。

それに盗聴される可能性を考慮し、自分の足で彼の元に向かう必要があった。


僕は研究所の門を出ると腕輪を起動し義眼も同時に作動させる。

敵意を持って近付いてくるやつは危険信号を発し、僕の視界には赤い点で表示されるよう設定しておいた。



僕は風のように速く駆けていく。

友人宅まで三十分もあれば到着できる。

まるで自分の足が速くなったような感覚に陥るが全て機械のお陰だ。



道中襲われる事は一切なく、何の問題も起きなかった。


友人宅は高層ビルの中ほどにある。

オートロックの玄関で部屋番号を入力すると、彼は無言で扉を開けてくれた。


エレベーターで目的の階で降りると彼の部屋まで真っ直ぐに向かう。


インターホンを鳴らすと友人の声が返ってきた。


「開いてる」

彼は無愛想だが、鬼才の科学者の異名を持つ。

彼が今までに生み出した機械は目を見張るものがあった。

ただし金額も目を見張る額だった。


「久しぶりだな(ほたる)

部屋に入り友人の名を口にすると彼は小さく片手を上げた。

新たな発明でもしていたのか蛍の部屋は機材が散乱していた。


「そこで座って待ってろ」

蛍が指差すソファに座って待つこと数十分。

やっとキリが良い所までできたのか、蛍は手を止めこちらへと歩み寄ってきた。



「それで……話ってのはなんだ」

立花蛍。

同じ歳でいて科学者でもある彼は僕なんか比較にならない程頭が良い。

それこそ長良と同等の知能を持つのではないかと思う。


だから僕は彼に相談することに決めた。


「新人類の最近の行動は目に余るとは思わないか?」

「なんだ藪から棒に。簡潔に話せ」

蛍は遠回しの言葉を嫌う。

そういえばそうだったと僕は直球をぶつける事にした。


「新人類を黙らせる方法を知りたい」

「なんだと?」

蛍は怪訝な顔をして僕を見つめる。

コイツは何を言っているのだといわんばかりの表情に変わった。


「何があった」

流石に僕の態度を不審に思ったのか蛍は立ち上がると瓶ビールを二本棚から取り出しテーブルに置いた。

僕は理沙の話と身体の六割を機械に変えてしまった話をした。

蛍は真剣な顔で黙って聞き続ける。



「なるほど……それで新人類を黙らせたい、という事か」

「そうなんだ。正直言えば今の僕には新人類に対抗できる力はない。だから手を貸して欲しい」

「断る」

今までの雰囲気から即答で断られると思っていなかった僕は面を食らった。


「なんでなんだよ」

「相手が悪すぎる。いいか?たとえ俺が手を貸した所で相手は新人類全てだぞ。この世界の半数が新人類だ。つまり、お前は世界を相手に戦おうとしている」

「いや、それは――」

「大体俺に頼んできた所でどうやって新人類を黙らせるつもりだ?新人類全てを破壊できるような兵器は確かに作れるがそれ相応のリスクもある」

「僕はただ理沙ちゃんにもっと平穏な人生を歩んで欲しいと思って――」

「事故から救ってやった女子高生に情でも湧いたか?お前の目指す所はなんだ」

僕の目指す所はなんなのだろう。

自分でもよく分かっていない。


ただ人の役に立ちたい。

その気持ちだけで今までやってこれた。

便利屋をやっているのもそれが理由でもある。

誰かの役に立ち、誰かの救いになれたら、そんな思いから始めた便利屋業。

エゴかもしれないが僕は今までそうやって生きてきたんだ。


「よく言うだろ、やらない善よりやる偽善って」

「ならお前は自分の命を投げ出せるのか?」

蛍にそう言われ僕は黙り込んだ。


命を天秤にかけた場合、ただ一人の女の子を助けるのは割に合わないのではないか。

しかし放っておけばいずれ新人類は人間に牙を剥く。

そうなれば時既に遅しだ。


「出直してこい。今のお前に手を貸してやるつもりはない」


蛍に追い出された僕はトボトボと歩いて研究所へと戻っていく。

頼みの綱は彼しかいない。

だが今の僕が本当に目指す所はなんなのだろうか。

何が正解なのか分からなくなってきた。


ああ、生きづらい世の中になってしまったな……。

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