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だから僕は人間を辞めた  作者: プリン伯爵『虹色魔導師は目立ちたく無い』発売中!


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第10話 新人類対準新人類

理紗ちゃんが縛られていた椅子に、今度は新人類の男を縛り付けた。



僕の振りかぶった鉄パイプが男の頭を直撃すると、強く打ったせいか若干の意識混濁があり、その後はふらつきそのまま倒れ込んだ。

反撃してくる様子がない事を確認すると理紗を助け出し、今度は理紗を縛っていた縄で男をグルグル巻きにし冒頭の状況へと戻る。


「うぐ……な、んだこれは?」

「アンタが意識を失ったからな。なんだ、案外新人類って言っても頭を強打すれば気絶するんだな」

僕は腕を組み男へと詰め寄る。

ここから反撃してくる事はない。

苛立ちを抑えながら僕は仁王立ちで男を睨み付けた。


「さて、答えてもらおうか。何故理沙ちゃんを狙った」

「……答えてやる義理など無い」

「そんな事が言える立場か?もう一発頭にフルスイングかましてやろうか?」

男は黙り込むとしばらくして口を開いた。


「この女は我々新人類を敵視している人間保護団体の身内だ。人質に使うつもりだった」

「人質に使って何するつもりなんだよ」

「無論……新人類が決起する為に」

新人類が決起となればおおよその想像はつく。

世界を巻き込む暴動だ。


「理沙ちゃんは関係者じゃないだろ」

「あの男から生まれた娘ならば同じ事だ」

「何度言っても無駄か……アンタはここで壊しておく。後々復讐に来られても困るんでな」

「俺の生命活動を止めれば即座に本部へと通知が飛ぶ。それと同時に俺が見ている光景は全て録画されているぞ」

新人類の男は脅すように声を低くする。

今更退けるものか。


僕は鉄パイプを振り上げると全力を込めて男の頭部を強打した。


「キャァァァッ!」

理沙ちゃんは今の光景を間近に見てしまったせいか顔を覆いしゃがみ込んだ。

怖がらせるつもりはなかったが、人間を模した機械を破壊するのは恐ろしい光景に見えたようだ。


「ごめんよ理沙ちゃん。コイツはここで始末しておかないと」

「……はい、分かっています。助けに来て頂いてありがとうございました」

頭部を破壊した新人類の男はグッタリとして生命活動を停止しているようであった。


「すぐにここから逃げよう」

「でも……多分家も張られているかもしれません」

理沙ちゃんの言う通り十郎さんのいる家に帰るのはリスクが高い。

何処か身を隠せる所はないかと考えていると、一つだけいい場所を思い付いた。


「理沙ちゃん、新人類第一研究所に行こう。あそこなら長良もいる。恐らく手を貸してくれるはずだ」

「え……でもあの人は新人類の研究をしているんですよね?それなら人間側の味方をしてくれるのかどうか……」

「多分問題ないよ。僕の片目、理沙ちゃんを探す為に特殊な義眼をつけてくれたんだよ」

長良の協力がなければ今頃理沙ちゃんは完全に攫われていた。

味方という捉え方をするなら、人間側に味方をしているとしか思えない行動だ。


「すみません、わざわざ私の為に目を……」

「気にしなくていいよ。人助けするのに犠牲はつきものだし」

全部がそうではないが、今の所僕が人助けをするとどこかしらの部位を失っている気がする。


「新人類がなんで今頃になって……」

理沙の呟きは小さかったが、僕の耳にも聞こえてきた。

今までにも新人類が冷遇されてきた事実がある。

もしやずっと我慢してきた結果なのだろうか。


「分からないけど……裏で誰かが手引きしているのは確かだ。十郎さんが無事ならいいが……」

「お父さんは多分大丈夫だと思います。家には常に護衛の人が待機しているので」

それなら安心?なのだろうか。

新人類の身体能力は異常なまでに高い。

鍛錬を積んだ人間でも対処が難しい可能性だってある。



僕は理沙を連れて研究所へと急いだ。

その間も攫われた恐怖からか理沙は無言だった。

まあ無理もない。

攫われるなど人生で一度あれば奇跡といえるようなイベントなのだから。



守衛には止められたが、僕の知り合いだと伝えるとあっさり通してくれた。

謎に信頼してくれているらしい。


「長良!」

研究室に入るなり僕は彼女の名前を叫んだ。

来るのが分かっていたのか長良はお茶を三人分用意していた。


「無事に救出できたようで安心しました」

「ああ、この目がなかったらきっと無理だったよ。本当に助かった」

理沙は借りてきた猫のように大人しく、ソファにゆっくり腰を下ろす。


「理沙さん、私の方から親御さんには連絡しておきました。とりあえず数日そちらで匿って欲しいとの事を仰られていたので、当分は宿直室で寝泊まりして貰えればと思います」

「はい、ありがとうございます」

十郎さんも危険を感じているようだ。

娘の身を案ずるなら長良の研究室で匿うのが一番安心できる。

まず、研究所には屈強なガードマンもいるし万が一新人類が襲撃をかけても守れるだけの戦力を保有している。

とはいえ新人類が襲撃してくる事はほぼ皆無だろう。


新人類研究所と謳っている施設にわざわざ攻撃してくる程マヌケはいない。


「長良、裏で手引きしているやつがいるはずだ。ソイツを調べられるか?」

「なかなか難しいかと思いますよ。相手は私達を上回る知能を持っていますから」

「何か方法は?」

「うーん、一つだけ方法はありますがオススメできませんね」

長良は勿体ぶっていたが、方法があるならそれに頼るしかない。


「どんな方法なんだ?」

「藤堂さんの脳にチップを埋め込む方法です」

それはもはや人間を辞めるに等しき行為だ。

長良がオススメできないと言ったのが理解できた。


「大我さん、人間辞めちゃうんですか……?」

理沙は不安そうな目で僕の顔を覗き込んでくる。

辞めるつもりはない。

ただこのまま逃げ回っていても何も変わらない。


「辞めないよ。でも理沙ちゃんが狙われるのなら……」

「それはだめです!」

理沙は珍しく感情を露わにした。

さっきまで大人しかったのが嘘のように目を見開き僕の腕を掴んだ。


「大我さんが新人類と同じになってしまうなんて……私は耐えられません」

「そ、そうか。分かったよ、別の方法を考えよう」

とは言っても他に方法が見つからない。

僕より遥かに賢い長良も思い付かないのだから、僕が思い付くはずがない。


「理沙ちゃんはどうしたい?今後恐らく新人類は君を狙う可能性が高い。十郎さんへの当てつけじゃないけど、人質にはピッタリの人材だ。僕もできるだけ守るつもりだけど、正直あの男より戦闘に特化した新人類を相手にすれば……勝てないかもしれない」

「……私は何もしていないのに」

理沙は悲しそうな顔で俯いた。

彼女に非はない。

こんな世界は間違っている。


「長良、新人類のリーダーは誰か分かるか?」

「それくらいなら分かりますよ。確か……ああ、ありました。これです」

長良は個人端末を操作すると僕の個人端末に通知が飛んできた。

メールで画像を送ってきたようで、僕はその場で添付ファイルを開いた。


そこには新人類のリーダーと思われる男が片手で握り拳を作り、高々と掲げている写真があった。


「コイツが?」

「はい。新人類の指導者ラムナスと呼ばれる方です」

「ラムナス……じゃあコイツを封じてしまえば理沙ちゃんは襲われない可能性もあるってことか?」

「なくはないでしょう。ただ、彼は表舞台に出てくる事はありません。新人類の拠点であるラムナス島と呼ばれる島の中に籠もっていて、島の外に出てくる事はないと聞きます」

じゃあ接触する事すら難しいじゃないか。

新人類の拠点となっている島に乗り込めるはずが無いしな……。


「島に入るには新人類でなければ不可能ですよ。つまり、人間ではない協力者が必要です」

「無理だろうそれ……」

「まあ難しいでしょうね。後は先程お伝えした自身の身体を機械に変えてしまう方法だけです」


弱ったな……。

これじゃあ打つ手はなしだ。

せめて理沙ちゃんを狙うような真似を止めさせられればいいが。


結局、その日はいい案が思い付かず夜は更けていった。

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