第18話 Re:ゼロから始めるUnderWorld
なお、蛇足的な説明を挟むと、UnderWorldの仮想通貨は手数料を払って元の法定通貨に戻せるため、各種商品の卸先である認証済み店舗で散財されてこそ、運営側の手元にお金が残る仕組みとなっている。
要望さえあれば新商品の共同開発も辞さない積極的な姿勢から、社会実験を謳うVRMMOの環境を維持する費用の膨大さが偲ばれてしまう。
少しでも経済規模の拡張を図り、市街地で遊戯者が落とす金額を増やしたいのか、基準額以上のゲーム内通貨が専用アプリのウォレットに入ってないと、ログインさせて貰えない仕様も理解はできるのだが……
本日も初期地点よりの移動で小銭目当ての “ビギナー狩り” に絡まれ、どうにも無銘都市とやらに近づけない状況を嘆き、械人姿の史郎は溜息を吐いた。
『三度目の正直ならぬ、“二度あることは三度ある” といった感じだな』
『もうこのパターンは飽きたわ、死に戻りのラノベじゃあるまいし』
悪態を隠さない融合中のAI少女と共有する視界には、青系統のボディアーマーを身に着けた鎧武者のような二体の械人が佇み、其々《それぞれ》に太刀と鉄槍を構えている。
彼らが発する敵意のせいか、黒犬の仮面に嵌められた赫いバイザー、その裏側には早くも状況開始《Open Combat》の通知が表示されており、既に現実世界への自由な離脱はできない状態だ。
『あんたは銀拳に勝ってるからな、多対一のペナルティもないだろう』
『手堅く稼がせてもらうぞ、新顔《New Commer》』
曰く、以前に数の暴力で遊戯者らを圧倒し、野盗団の如く振る舞っていた者達は出禁を喰らい、仮想世界から締め出されたものの… 傍若無人な狼藉を働かない限り、大抵の事は運営に見過ごされると。
それが規制全般の緩いUnderWorldの悪い点であり、良い点でもある。
“閑話を把りて休題す” とは言わないが、多少の脇道に逸れた会話を交えた後、俄かに動き出した “刀遣い” が迫りながら逆袈裟の斬撃を放ち、《《伸びた刃》》が後方へ避けようとする黒犬の胸部装甲を浅く裂いた。
『うぐっ、理不尽だ』
思わず愚痴りつつ、間断なく繰り出された追撃の刃を右腕の追加装甲で弾き、連続的なバックステップで距離を取る最中、今度は地面へ得物を突き刺す “槍遣い” の姿が視界の奥に映る。
何らかの攻撃であるという瞬断に基づき、咄嗟に飛び退くと寸前までいた場所から、直槍、片鎌槍、十文字槍と様々な穂先が生えてきた。
『っ、貫いた物を媒介とする槍撃?』
『地味に厄介だな……』
恐らく目視で標的を狙い定めていると考えたのか、クリムの呟きを拾った黒鉄の械人は近場の廃ビルに駆け込み、優れた脚力で吹き抜けの階段を上がっていく。
逃がさないように刀遣いが追随するも、先に登り切って振り向いた黒犬の右腕、そこに纏う大爪付きの追加装甲が硬質な音を鳴り響かせる。
繋ぎ目を押し広げて大きく膨張したかと思えば、渾身の爪撃が振り下ろされて… 脆くなっている階段ごと相手を崩落させた。